建設業働き方改革加速化プログラムとは?求められる対応と実現のポイントをわかりやすく解説
公開日:2024年05月20日
更新日:2026年06月08日
この記事に書いてあること
生産年齢人口が減少に転じた今、あらゆる業界で働き方改革が重要な課題となっています。建設業界も例外ではありません。国土交通省は建設業界の働き方改革を推進することを目的に、「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定しています。
本記事では、建設業の働き方改革における4つの柱や、推進が求められる主な理由についてわかりやすく解説しています。建設業働き方改革加速化プログラムで提唱されている取り組みや、実現するためのポイント、企業における実践事例もあわせて紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
建設業の働き方改革における4つの柱
そもそも働き方改革は、2019年4月に施行された「働き方改革関連法」が根拠となっています。2024年3月末で同法が定める猶予期間が終了したことに伴い、建設業も他業種と同様に適用対象となりました。建設業に求められている対応事項は、主に次の4点です。
1. 時間外労働の上限が設けられた
1つめの柱は、時間外労働上限が罰則付きで設けられたことです。具体的には、労働時間を原則として「月45時間」「年間360時間」以内に収め、繁忙期に関しても「年間720時間」「複数月(2〜6カ月)で平均80時間」「単月100時間未満」に収めなければなりません。違反した場合は、事業者に対して「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられるおそれがあります(災害時等の臨時・緊急の必要がある復旧工事については、例外的な取扱いが認められています)。
なお、従来は使用者と労働者があらかじめ36協定を締結していれば、上限規制によらず時間外労働が可能とされていました。一方、2024年4月以降は36協定の有無を問わず、時間外労働の上限が適用される点に注意が必要です。
2. 時間外労働の割増賃金率が引き上げられた
2つめの柱は、時間外労働の割増賃金率が引き上げられたことです。従業員の過重労働リスクを軽減するとともに、生活の質や健康状態を改善するといった狙いがあります。
従来、1カ月の時間外労働が60時間を超える場合、中小企業における割増賃金は25%でした。2023年4月1日より、中小企業も大企業と同等の50%へと割増賃金が引き上げられたことがポイントです。従来どおりの時間外労働時間を前提に工事の計画等を立てた場合、企業が負担する人的コストが増すことになります。したがって、企業は従業員の時間外労働時間をできるだけ削減するよう努めなければなりません。
3. 年次有給休暇の取得(年間5日以上)が義務化された
3つめの柱は、年次有給休暇を年間5日以上取得させるよう義務化されたことです。従業員の健康維持やプライベートの時間の確保、リフレッシュなどを促し、モチベーション維持を図ることが主な狙いといえます。
年次有給休暇の取得に関しては2019年4月より義務化されていたものの、建設業界は他業種と比べて取得率が低い傾向がある点が課題となっていました。職場で有給休暇を取得しにくい雰囲気をつくらないようにすることや、繁忙期に重ならないよう事業者側から有給休暇取得の推奨時季を通達するなど、労働者が積極的に有給休暇を取得できるようにすることが大切です。
4. 同一労働同一賃金が導入された
4つめの柱は、同一労働同一賃金が導入されたことです。
同一労働同一賃金とは、企業や団体内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を解消することを目的とした制度です。働き方改革によって2021年4月より導入されていました。非正規労働者にも正社員と同じ業務を任せることで正社員の負担を軽減し、キャリアアップにつなげられるといった効果が期待できます。
なお、同一労働同一賃金に関しては、現状では具体的な罰則等は設けられていません。しかしながら、違反があれば事業者が損害賠償などの訴訟リスクを負うおそれがあります。企業の社会的信用を維持するためにも、同一労働同一賃金を実現していくのが望ましいでしょう。
建設業界で働き方改革が求められる主な理由

建設業界において、働き方改革の推進が求められている背景にはいくつかの要因があります。主な要因として挙げられるのは「長時間労働の常態化」「人手不足・後継者不足の深刻化」「業界イメージの改善」の3点です。
長時間労働の常態化
第一の要因として、建設業界における長時間労働の常態化が挙げられます。下図は、建設業と全産業の年間実労働時間の推移を表したグラフです。建設業界の長時間労働は改善傾向にあるものの、依然として他業種よりも高い水準にあることがわかります。

出典:国土交通省|建設業を取り巻く現状と課題について/産業別年間実労働時間(令和6年11月)
たとえば、短工期での依頼に応じるためにやむを得ず長時間労働に陥っているようなケースも少なくないでしょう。適切な工期で受注するなど、事業者側が改善できることから取り組んでいく必要があります。
人手不足・後継者不足の深刻化
人手不足と、それに伴う後継者不足が深刻化していることも大きな要因の1つです。下図は、建設業就業者の高齢化の進行度合いを表しています。令和4年度時点で、就業者のうち3割以上が55歳以上に達しており、29歳以下の就業者は1割にとどまっているのが実情です。

出典:国土交通省|建設業を巡る現状と課題/建設業就業者の高齢化の進行
建設業における人手不足や若者離れの原因と対策については、次の記事で詳しく解説しています。こちらもあわせてご参照ください。
業界イメージの改善
建設業界全体のイメージを改善していく必要に迫られていることも要因の1つです。人手不足に伴う長時間労働といった労働条件に加え、業務中の事故に関する報道などを耳にする機会も少なくありません。多くの人にとって、危険できつい仕事というイメージを抱きやすく、業界としてもマイナスイメージを払拭しきれていないのが実情です。こうしたマイナスイメージが改善されなければ、ますます人材確保が困難な状況に陥りかねません。
働き方改革を推進することによって労働条件が改善され、安全で安心して働ける職場環境を実現できる確度が高まります。人材確保を実現する意味においても、働き方改革は不可欠な取り組みといえるでしょう。
建設業働き方改革加速化プログラムとは

建設業働き方改革加速化プログラムとは、国土交通省が建設業界の働き方の課題を解決するために策定したプログラムです。このプログラムでは、建設事業者に求められる取り組みとして次の3点が挙げられています。
長時間労働の是正に向けた取り組み
第一に求められるのは、長時間労働の是正に向けた取り組みです。時間外労働を削減し、休日を増やすことにより、安全で健康的に働ける環境を整えることを主な目的としています。
具体策の1つが、週休2日制の導入です。公共工事において週休2日工事を拡大するとともに、民間工事に関しても週休2日のモデル工事を試行するよう提唱しています。
こうした取り組みを推進するには、工期を適切に設定することが重要です。受発注双方が協議の上、無理のない工期を定めるとともに、国土交通省が公開している「工期設定支援システム」を活用するなど、具体的な取り組みを推進していく必要があるでしょう。
給与・社会保険に対する取り組み
第二に、スキルに見合った待遇で働ける環境づくりや、公的な保障を受けられる環境づくりに関する取り組みです。すべての労働者が知見やスキルを存分に発揮し、安定した生活を送れる仕組みを確立することが主な目的といえます。
具体的な施策として、技能にふさわしい給与形態や、社会保険への加入が挙げられます。所定の条件を満たした労働者を社会保険に加入させることは事業者としての義務であり、法定福利厚生の基本的な要件の1つです。従業員の処遇改善を図り、安心して就業できる環境を整えるためにも、社会保険への加入を建設業界のミニマムスタンダードにしていくことが求められています。
生産性向上を実現するための取り組み
第三に、生産性向上を実現するための取り組みが挙げられます。さまざまな技術を積極的に活用し、効率的に作業を進める仕組みを構築することが主な目的です。
具体的には、ICT導入による公共工事の積算基準等の改善や、申請手続きの電子化推進などが挙げられます。このほか、「i-Construction」(国土交通省が推進する建設現場の生産性・魅力の向上を目指す取り組み)などの活用も視野に入れて検討していく必要があるでしょう。
さらに、技術者配置要件の合理化を図ることで、技術者の減少に対応することも重要なポイントです。人材を有効活用するための仕組みを確立・浸透させ、今後さらに進むことが懸念される人材不足への対策を講じるよう求められています。
働き方改革を実現するためのポイント

では、建設業界において働き方改革を実現するには、どのような点を重視する必要があるのでしょうか。とくに優先順位の高い5つのポイントを確認しておきましょう。
ポイント1:工期設定・施工時期の平準化
1つめのポイントは、工期設定の適正化です。業界全体で工期設定を見直していくことが、結果として長時間労働の是正や週休2日の実現につながります。不当に短い工期で受注することのないよう、適正な工期を算出した上で請負契約を締結しましょう。受注側だけでなく発注側にも、施工条件等の明文化や適正な工期の算出にもとづく契約履行が求められている点に注意が必要です。
また、施工時期の平準化を進めることも重要なポイントといえます。繁忙期に工事が集中することが、長時間労働を余儀なくされる一因となっているからです。年間を通じてできるだけ工事が分散されるよう、計画的に受注する必要があります。
ポイント2:労働時間の管理方法の確立
労働時間の管理方法を確立しておくことも重要なポイントです。タイムカードやICカード、タブレットやスマートフォン等を活用した労働時間の記録など、客観的な情報にもとづく勤怠管理を徹底することが求められています。
建設現場での運用を考慮すると、作業場所を問わず複数のデバイスから勤怠報告が可能なクラウド型システムを導入するのが望ましいでしょう。出勤簿やタイムカードといった書類は、3年間の保存が義務付けられています。これらのデータがクラウド上に適時保存・集約される仕組みを取り入れることで、労働基準法にのっとった労働時間の管理方法を確立できる点が大きなメリットです。
ポイント3:建設キャリアアップシステムへの加入推進
建設キャリアアップシステムへの加入を推進することも、働き方改革の実現につながる取り組みといえます。建設キャリアアップシステム(CCUS)とは、技能者の保有資格や社会保険加入状況、現場での就業履歴などを業界横断的に登録・蓄積し、活用するための仕組みのことです。
とくに若い世代の労働者にとって、将来的なキャリアの見通しを立てられるかどうかが職業選択の重要なポイントとなるケースが少なくありません。建設キャリアアップシステムを積極的に活用することで、若い世代の雇用促進や計画的なキャリア構築につながります。結果として人手不足の解消につながる効果が期待できるでしょう。
ポイント4:社会保険加入の推進
社会保険加入義務を遵守することも不可欠なポイントの1つです。国土交通省および中央建設審議会は、社会保険に未加入の事業者については建設業の許可・更新が困難になる方針を示しています。また、発注者に対しても社会保険加入業者に限定した依頼先の選定を求めているのが実情です。
今後、他業種からの転職検討者を積極的に採用する事業者が増えていくことが見込まれます。人材確保と入社後の定着を目指す上で、社会保険への加入が重要な要件となることは想像に難くありません。万が一、社会保険未加入の状態で就業している従業員がいるようなら、早急に加入手続きを進める必要があるでしょう。
ポイント5:ICT活用の促進
ICTを積極的に活用していくことも重要なポイントといえます。建設プロセスの効率化を図り、工期短縮や省人化による生産性向上を実現する上で、ICT活用は有効な取り組みとなり得るからです。
たとえば、後述する事例にあるような電子マニフェストの活用やクラウド勤怠管理システムの導入、施工管理アプリの利用などが想定されます。操作補助や自動制御といった機能を備えたICT建機を活用し、作業精度の向上や作業負担の軽減を図るのも1つの方法です。このように、ICT活用の促進は建設業における働き方改革の推進とセットで進めていく必要がある取り組みといえます。
建設業界で働き方改革を実施した企業の事例
建設業界で働き方改革を実施した4社の事例を紹介します。講じた施策とその効果について、各社の成果を見ていきましょう。
電子マニフェストの導入|株式会社丸西組
石川県小松市で土木・建築の両輪で事業を行う株式会社丸西組では、働き方改革の一環として、情報システムの見直しを実施しました。中でも現場・管理部門の双方に業務効率化をもたらしたのが、電子マニフェストの導入です。
電子マニフェストとは、産業廃棄物の排出事業者に発行が義務付けられているマニフェストを電子化したものを指します。手書きのマニフェストと比べて発行に要する手間と時間が大幅に削減されたほか、承認処理を現場担当者のスマートフォンやタブレット端末から行える点が大きなメリットです。さらに紛失リスクの回避や、法令を遵守した形式での保存が可能になりました。
ICTの活用|太啓建設株式会社
愛知県豊田市の総合建設会社である太啓建設株式会社では、ICTを活用することで業務効率化を図っています。クラウド勤怠システムを導入し、スマートフォン上で勤怠の報告や管理を行える仕組みを確立しました。勤怠情報がデータ化されたことにより、現場の労働状況をタイムラグなく把握できるようになっています。
また、CIMを導入したことで、現場付近の交通規制前に実施される事前打ち合わせをスムーズに進められるようになりました。規制形態や現場状況の留意点を誘導員に対して適切に伝えられるため、利便性・安全性がともに高まっています。
MR(複合現実)による生産性向上|伊藤組土建株式会社
北海道札幌市で土木一式工事業を営む伊藤組土建株式会社では、MR(複合現実)を地下通路工事に活用する試みを始めています。作業員がゴーグルを通して現場を確認すると、現実空間とデジタル映像が重なり合い、現場の理解・検討に要する時間が短縮される仕組みです。
さらに、MRの実装に必要な3Dモデルの作成を内製化したことにより、外注費の削減にも成功しました。先進的な技術を導入しつつ、コストを抑えた運用を可能にした事例といえるでしょう。
BIMによる現場の可視化|石川建設株式会社
群馬県太田市にて建築一式工事業を営む石川建設株式会社では、BIMによる現場の可視化を実現しています。企画・設計から施工、維持管理まで建物のライフサイクル全体を一元的に管理できるようになったことで、現場の検討事項をスムーズに共有できるようになりました。
さらに施工管理アプリの併用によってデータ整理が容易になり、事務作業の負担も軽減されています。これらの施策により、導入前と比較して月の平均残業時間が1〜2時間程度削減されました。生産性向上と従業員の負担軽減を効果的に両立させている好例です。
まとめ
少子高齢化に伴い、建設業界の働き方改革は今後ますます重要な課題となっていくことが想定されます。今回紹介した推進のポイントや各社の事例を参考に、具体的な施策を講じることによって、業界全体のイメージ向上を着実に図っていくことが大切です。
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記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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