建設業界の働き方改革とは? 2024年問題のポイントや必要な取り組みを徹底解説
2024年02月13日 07:00
この記事に書いてあること
建設業界では今、働き方改革によって生じる「2024年問題」が話題となっています。具体的には、時間外労働時間の上限規制などが設けられており、従業員が安全に働きやすい環境づくりが事業者に求められているのですが、いったいどのように取り組んでいけばいいのでしょうか。
この記事では、働き方改革を検討している経営者や担当者のために、2024年問題のポイントについて解説します。自社の取り組みを進める際に、ぜひお役立てください。
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建設業界で働き方改革が求められる3つの理由
そもそも、なぜ働き方改革が必要なのでしょうか。その主な背景を解説します。
1. 長時間労働が常態化している
1つ目が、長時間労働が常態化していることです。
建築業界では、中小企業から大手のゼネコンまで長時間労働が一般化しているといわれています。厚生労働省が発表した2023年9月の「毎月勤労統計調査」によると、建設業の月間労働時間は167.7時間と、全産業平均136.5時間と比較して毎月約31時間多くなっています。また、月間出勤日数は20.5日と、全産業平均の17.7日よりも毎月3日ほど多く出勤していることがわかります。
2. 人手不足・後継者不足が問題視されている
2つ目が、人手不足や後継者不足が問題視されていることです。
建設業界では、就労者数の減少が進んでいます。国土交通省が2023年3月に発表した「建設業を巡る現状と課題」によると、2023年3月末時点での建設業就業者数は485万人(平均)で、ピーク時の平成9年平均から約29%減となっており、人手が足りていない状態です。
また、建設業界では後継者不足も深刻化しています。同じく国土交通省の調査によると、60歳以上の就業者は全体のおよそ25%を占めており、10年後にはその大半が引退することが予想されています。29歳以下の割合は全体のおよそ12%程度のため、若い世代が不足し続けることによる技術継承の問題や後継者不足が建設業界の大きな課題です。
3. 3K(きつい・汚い・危険)のイメージがある
3つ目が、建設業に3K(きつい・汚い・危険)のイメージがあり、建築業界にはそのイメージの払拭が求められていることです。
求職者のなかには、建設業は肉体労働を伴うためきつい仕事だという印象を持つ人が多く、忌避する層が一定数いると考えられます。また、業務中の事故のニュースも飛び交うなかで、危険だと感じる人も多くいるでしょう。そのため、企業にはこれらのイメージの払拭が求められています。クリーンなイメージを持たせられるよう働き方改革を行うことで、人員確保につながることが考えられます。
建設業の「2024年問題」とは
続いて、建設業の2024年問題とは何なのか、概要を解説していきます。
「2024年問題」とは
2019年4月、職場環境の改善や多様な働き方の推進を目的に、働き方改革関連法が施行されました。建築業では時間外労働の上限規制など一部に猶予期間が定められていましたが、2024年3月末で猶予期間が終わり、他業種と同様に働き方改革関連法が適用されます。適用にあたって建築業界で生じるといわれている問題が、今話題の「2024年問題」です。
建設業に猶予期間があった理由
建設業や物流業界では、時間外労働の上限規制など一部に5年間もの猶予期間が定められていました。その理由として、長時間労働の恒常化などが当時すでに問題視されており、すぐに改善することが難しいとされていたことが挙げられます。2024年4月からは次の章で解説するポイントを厳守しなければ罰金が課せられるので注意が必要です。
建設業の「2024年問題」の4つのポイント
それでは、建設業の2024年問題では具体的にどのようなポイントがあるのでしょうか。働き方改革に関する問題も含め、解説していきます。
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1. 罰則付きで時間外労働の上限が設けられる
1つ目のポイントが、罰則付きで時間外労働の上限が設けられることです。
具体的には、原則「月45時間」「年間360時間」の上限規制が設けられ、もし繁忙期の場合であっても「年間720時間以内」「複数月(2〜6カ月)で平均80時間」「単月100時間未満」に収めなければなりません。この上限規制が2024年問題のなかでも大きなものといえるでしょう。
もし違反した場合は、事業者に対して「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられる恐れがあります。ただし、災害時の復旧の場合は該当しません。
2. 時間外労働の割増賃金率が引き上げられる
2つ目のポイントが、時間外労働の割増賃金率が引き上げられることです。
1か月の時間外労働が60時間を超える場合の割増賃金率は、これまで中小企業では25%でしたが、2023年4月1日より中小企業も大企業同じ50%へと割増賃金率が繰り上げられました。これまで通りの時間外労働を前提とすると、企業はさらにコストがかかってしまうことになります。そのため、従業員の時間外労働を減らすように努めなければなりません。
3. 年次有給休暇を5日取得させなければならない
3つ目のポイントが、年次有給休暇を5日取得させなければならなくなることです。
年次有給休暇に関しては2019年4月から義務化されていましたが、建設業界は年次有給休暇の取得率が低いといわれています。職場で取りづらい空気を作らないように労働者に呼びかけをする、繁忙期に重なることがないように事業者側から有給休暇取得の時季を指定するなど、労働者に積極的に取得してもらえるように取り組んでいくことが大切です。
4. 同一労働同一賃金が導入される
4つ目のポイントが、同一労働同一賃金が導入されることです。
同一労働同一賃金とは、企業や団体内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を解消することが目的とされた制度です。こちらも働き方改革によって2021年4月から導入されていました。
この制度では、非正規社員にも正社員と同じ仕事を任せることで正社員の負担を減らし、キャリアアップにつなげることができるなどの効果があります。予算はかかりますが、業務効率化の一貫として取り組むことをおすすめします。
建設業の「働き方改革加速化」プログラムとは|企業が取り組むべきこと
続いて、建設業が働き方改革を行うにあたって参考にしたい「建設業働き方改革加速化プログラム」について解説していきます。
「建設業働き方改革加速化プログラム」とは
「建設業働き方改革加速化プログラム」とは、国土交通省が建設業界の働き方の課題を解決するための定めたプログラムです。
「建設業働き方改革加速化プログラム」では、以下に解説する「長時間労働の是正」「給与・社会保険」「生産性向上」という3つのカテゴリーごとに、働き方改革の取り組みを強化するための新しい施策がまとめられています。
長時間労働に対する取り組み
1つ目が、長時間労働を是正し、週休2日を確保するための施策です。具体的には、公共工事における週休2日工事の適用の拡大や、適正な工期設定が挙げられます。
1.週休2日制を導入する
週休2日工事の労務費等の補正の導入、共通仮設費、現場管理費の補正率を見直すなどの取り組みによって、建設業の週休2日制の導入を後押しします。
2.適正な工期設定を心がける
国土交通省発表の「適正な工期設定等のためのガイドライン」の見直しを行うなどして、適正な工期設定を推進していきます。発受注者の協力を促すことで長時間労働が起こらない仕組みを整え、労働者にとって働きやすい環境を実現します。
給与・社会保険に対する取り組み
2つ目が、働く人がスキルに見合った待遇や、公的な保障を得られる環境を作る取り組みです。具体的には、技能にふさわしい給与形態や、社会保険への加入が挙げられます。
1.技能にふさわしい給与を与える
適正な待遇を受けるための能力評価制度の策定、また技能者の資格や就業履歴などを業界横断的に登録できる「建設キャリアアップシステム」の構築などの取り組みを実施します。そのうえで、技能にふさわしい給与を与え、従業員のモチベーションや満足度向上につなげていきます。
2.社会保険に加入させる
発注者に工事施工の依頼を社会保険加入業者に限定するよう要請するなどして、社会保険の加入を建設業のミニマムスタンダードにするよう促します。福利厚生を充実させることで、従業員の安心感につながるうえ、企業にとっては、節税になる、処遇改善による人材流入が期待できるなどのメリットがあります。
生産性向上に対する取り組み
3つ目が、国土交通省が建設業のICT(情報通信技術)の導入を掲げたプロジェクトのひとつ「i-Construction」を中心としたICTの活用によって、建設業の生産性向上を進める取り組みです。具体的には、ITツールの活用、技術者配置要件の合理化が挙げられます。
1. ITツールなどで業務効率化を図る
公共工事の積算基準等を改善、申請手続きの電子化を推進するなどの取り組みで、企業のICT導入を促します。ICT導入によって、手作業の時間を減らすことができ、業務効率化が期待できます。
2.技術者配置要件の合理化を検討する
減少する技術者を適切に活用するため、技術者配置要件の合理化を検討するなどして、人材や資材を有効活用する仕組みの浸透も推進します。建設業の企業にとっては、今後さらに進む人材不足への対策がとれるというメリットがあります。
建設業の働き方改革で起こり得る2つの問題と対策
続いて、建設業の働き方改革で起こり得る2つの問題とその対策について解説していきます。
1.従業員の賃金が下がり、不満につながる
1つ目が、従業員の賃金が下がり、不満につながることです。
これまで時間外労働の割増賃金を含めた給与を想定して生活していた従業員にとっては、時間外労働の上限規制による賃金低下は避けられません。それによって不満がつのり、離職につながることがないようにすることが大切です。
具体的には、事業者側にはスキルアップの機会を与えて適切な賃金を再設定する、社会保険など福利厚生を充実させる、事情を説明して協力を仰ぐなどの努力が必要です。
2.ITツールの導入などに予算がかかる
2つ目が、ITツールの導入などに予算がかかることです。ITツールの導入には、製品の導入にかかるコストはもちろん、社内に浸透するまでのコストもかかります。
そのため、業務効率化のためにITツールの導入を検討している場合は、現在の残業代や人材流出のリスクを可視化したのち、さまざまな視点でコストを洗い出し、ITツールの導入にかけられる予算を明確にすることをおすすめします。
建設業界で働き方改革を実施した企業の事例
最後に、建設業界で働き方改革を実施した企業の事例を2つご紹介します。
株式会社丸西組
石川県小松市で土木・建築の両輪で事業を行う株式会社丸西組では、働き方改革の一環として、情報システムの見直しを実施しました。さらに、負担が特定の従業員に集中することを防ぐワークシェアを取り入れ、業務時間の短縮を実現。
また、従業員の健康増進のため、福利厚生によるスポーツジム利用も推進しました。女性限定の研修・交流を行うほか、女性が自主的に能力を発揮できる場面を用意したことで、社内に活気も生まれています。
みづほ工業株式会社
みづほ工業株式会社は、働きやすさはもちろん、働きがいのある企業づくりを目指しています。具体的には、整理・収納・清掃を指す3Sの活動の実施によって作業のムダが減り、労働時間が短縮されました。また、経費削減、社員同士のコミュニケーションの活性化という効果も生まれています。
さらに、みづほ工業株式会社では、社内の図面や備品などの保管場所を定めて整理する「定位置管理」を徹底。備品の管理をしていた総務担当者の負担が軽減したほか、働きやすい環境が整ったことで、業務の効率化が実現しました。
まとめ
建設業界にとって、時間外労働の上限規制が適用される2024年4月までに労働環境を改善することが急務です。その取り組みが、建設業界が抱えていた「きつい」「汚い」「危険」の3Kのイメージを払拭するきっかけにもなると考えられます。
魅力ある業界になれば、人材の確保も期待できます。反対に、労働環境が変わらなければ人材不足はさらに進みます。建設業は社会のインフラを守る意義ある仕事。構造的な課題を解決して、持続的に成長していきましょう。
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記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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