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月60時間超残業の割増賃金率とは?注意したいポイント・必要な対策について解説

From: 働き方改革ラボ

2024年11月22日 07:00

この記事に書いてあること

働き方改革関連法が改正されたことにより、月60時間を超える時間外労働に対しては50%の割増賃金を支払うことが企業に義務付けられています。割増賃金率について、企業はどのような点に留意する必要があるのでしょうか。

今回は、月60時間超残業の割増賃金が企業に義務付けられるようになった経緯や残業手当の計算方法、企業に求められる対策についてわかりやすく解説します。残業が月60時間を超えやすいパターンについてもふれていますので、ぜひ労務管理に役立ててください。

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月60時間超残業の割増賃金率とは

時間外労働に対する割増賃金率は、これまで下記の経緯で法改正がなされてきました。

20103月まで

労働時間にかかわらず、法定労働時間を超えた労働に対して25%以上の割増賃金を支払うことが企業に義務付けられていた。

201041日〜

大企業に対し、月60時間を超える労働に対して50%以上の割増賃金を支払うよう法律が改正された。

202341日〜

中小企業に対しても、月60時間を超える労働に対して50%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられた。

つまり、2023年4月1日以降はすべての企業が次のルールに則って割増賃金を支払う必要があります。

  • 月60時間以内の時間外労働:25%以上の割増賃金
  • 月60時間超の時間外労働:50%以上の割増賃金

このように、大企業だけでなく中小企業にも法改正へ具体的な対策が求められています。中小企業への適用が猶予されていたのは2023年3月末までだった点に注意が必要です。

割増賃金率について注意したいポイント

割増賃金率について、とくに注意しておきたいポイントとして下記の3点が挙げられます。

  • 深夜・休日労働と重なった場合
  • 契約社員・アルバイトやみなし残業・歩合給でも割増賃金は必要
  • 割増賃金の代わりに休暇を付与することも可能

それぞれ詳しく見ていきましょう。

深夜・休日労働と重なった場合

ポイント

月60時間を超える時間外労働を22時〜翌5時の時間帯に行わせた場合、時間外割増賃金率50%+深夜割増賃金率25%=75%以上の割増賃金の支払いが必要。

月60時間を超える時間外労働が深夜労働や休日労働と重なった場合には、75%以上の割増賃金を支払う必要があります。

【時間外割増賃金率と深夜・休日労働の関係】

 

60時間以下

60時間超

通常の時間外割増賃金率

25

50

深夜・休日労働の場合

50

75

ただし、月60時間の時間外労働の計算には法定休日(4週間に4回または1週間に1回)に従事する労働は含まれません。法定休日に労働させた場合の割増賃金率は35%以上です。一方、法定休日以外に設けた社休日に働いた場合は法定時間外労働にカウントする必要がります。法定休日かそれ以外の休日かによって、割増率が異なる点に注意しましょう。

契約社員・アルバイトやみなし残業・歩合給でも割増賃金は必要

ポイント

正社員以外の雇用形態で就業する従業員にも、正社員と同様の割増賃金率が適用される。

労働基準法の規定は雇用形態を問わず適用されることから、契約社員やアルバイトといった従業員にも規定どおりに割増賃金を支払う必要があります。

また、残業代が固定額で支給される「みなし残業制度」を導入している場合も、割増賃金を支払う必要があるというルールは同様です。みなし残業として定められている時間を超えた分の労働に対しては、時間外手当(残業代)を支払わなければなりません。1日8時間、週40時間の法定外労働を超えた労働時間には25%以上、時間外労働が月60時間を超えた場合は50%以上という割増率に従い、時間外手当を適切に支払いましょう。

また、仕事の成果に対して給与が支払われる「歩合給制」の場合も例外ではありません。歩合制の割増賃金は、その月の実績給を総労働時間で割った1時間あたりの賃金をベースに計算します。法定内労働を超えた時間数に、1時間あたり25%、もしくは50%を掛けた額を、その月の割増賃金額として支払うのがルールです。

割増賃金の代わりに休暇を付与することも可能

ポイント

25%の割増分を超える労働時間に対しては、労使協定に基づいて休暇に振替が可能。

月60時間を超える法定時間外労働に対し、割増賃金を支払う代わりに有給休暇を付与することも可能です。25%の割増分までは必ず金銭で支払う必要がありますが、それを超えた分については労使協定に基づき、休暇に振り替えても構いません。

なお、労使協定を締結する際には、代替休暇について下記の4項目を定めておく必要があります。

  • 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
  • 代替休暇の単位
  • 代替休暇を与えることができる期間
  • 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

また、代替休暇は取得者の十分な休息を確保することを目的に付与するものであるため、1日や半日といったまとまった単位で与えることが推奨されています。

月60時間超の残業手当の計算例

月60時間超の残業手当の計算方法を、2つの具体例を用いて見ていきましょう。基本的な計算方法は「1時間あたりの賃金×時間外労働時間×割増率」です。

例1:基本給 月25万円・残業時間70時間(1カ月の所定労働時間160時間)の場合

・60時間以内の労働に対する時間外手当
→(25万円÷160時間)×60時間×1.25=11万7,187円

・60時間超の労働に対する時間外手当
→(25万円÷160時間)×10時間×1.5=2万3,437円

・残業代合計:11万7,188円+2万3,438円=14万624円

例2:基本給 月35万円・残業時間80時間(1カ月の所定労働時間160時間)の場合

・60時間以内の労働に対する時間外手当
→(35万円÷160時間)×60時間×1.25=16万4,062円

・60時間超の労働に対する時間外手当
→(35万円÷160時間)×20時間×1.5=6万5,625円

・残業代合計:16万4,062円+6万5,625円=22万9,687円

なお、割増賃金を計算する際に、労働時間の端数切捨てをすることはできません。ただし、一ヶ月の労働時間を通算して30分未満の端数が出た場合には切り捨て、30分以上の端数を一時間に切り上げて計算することは認められています。

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企業に求められる対策とは ?

割増賃金に関するルールを遵守するために、企業はどのような対策を講じる必要があるのでしょうか。求められる対策と対策を講じる意義、具体的な対策の事例を紹介します。

勤怠管理システムの整備による労働時間の正確な管理

必要な対策

法律で定められた割増賃金を適正に支払うには、労働時間を正確に管理しなければなりません。勤怠状況を正しく、かつ効率的に記録できる勤怠管理システムの導入を検討しましょう。

対策を講じる意義

労働時間を正確に把握することは、働き方改革の観点においても重要なポイントといえます。時間外労働をできるだけ減らせるように創意工夫を重ねることは、従業員のワークライフバランスを整えるためにも欠かせない取り組みです。システムを活用して従業員の労働状況を可視化することは、労働環境の改善に役立ちます。

事例

香川県でホンダの特約自動車販売店を運営するサカイ自動車販売株式会社では、タイムレコーダーと給与計算システムを連動させる勤怠管理システムを導入しました。自動の給与計算によって省力化が実現したほか、社員の労働時間や有給消化状況をリアルタイムで管理できるようになり、働き方に関する適切な社内コミュニケーションの浸透に寄与しています。また、データから把握した繁忙期・閑散期に従って勤務体制を組み立てられるようになり、業務の効率化が実現しました。

勤怠管理システムで勤務状況を可視化 働きやすい職場実現 サカイ自動車販売(香川県) │中小企業応援サイト

業務効率化による労働時間の削減

必要な対策

割増賃金率の引き上げに伴い、時間外労働をできるだけ削減するための取り組みも求められます。業務フローの見直しによるムダの削減や、ICTなどのテクノロジーを活用した生産性向上など、具体的な対策を講じていくことが大切です。

対策を講じる意義

業務効率化は労働時間の削減につながるとともに、業務の質向上にも寄与します。ムダのない業務フローは、作業の手戻りや重複の回避にもつながるからです。また、ICTによるコミュニケーションの活性化やタスクの自動化により、見落としや入力ミスといったヒューマンエラーを未然に防止できるケースも少なくありません。

事例

新潟県の建設会社・豊和建設株式会社は、ICTによる業務効率化を目的に、2018年にクラウドシステムを導入。2020年からは、原価管理や給与、勤怠管理などのシステムを一新しました。原価管理や勤怠管理、年末調整などの法定調書に関する業務もクラウド上で行えるようになり、総務・経理担当者の負担が軽減。在宅勤務の導入もスムーズに実現するなど、業務効率化に加えて働き方の多様化にも効果を発揮しています。

クラウド導入を機に総務・経理系ソフトを一新 毎月の“決算残業”の大幅削減が可能に 豊和建設(新潟県) │中小企業応援サイト

研修の活性化によるスキルアップ

必要な対策

効果的な研修によって優秀な人材を育てることも、業務効率化や時間外労働の削減に向けた対策として有効です。従業員一人ひとりがスキルアップすることにより、既存の業務をより早く正確にこなせるようにしていきましょう。

対策を講じる意義

従業員一人ひとりのスキルアップを図ることで生産性が向上するほか、教育に力を入れる企業として優秀な人材が集まる可能性が高まります。また、オンライン研修や動画研修を取り入れることで、空いた時間を活用して従業員が研修を受けやすくなり、時間の有効活用にもつながるでしょう。

事例

地域の老健施設の質の向上や機能強化に取り組む業界団体の1つ、愛媛県老人保健施設協議会は介護施設向けの研修をデジタル化しました。組織内動画配信プラットフォームなどをパッケージ化したサービスを活用し、研修動画を施設向けに配信しています。パッケージサービスを使えば、ICTの知識がなくても動画を簡単にアップロードでき、受講対象者の視聴状況も把握可能。参加が積極的ではない施設に視聴を勧めるなど、研修の活性化につなげています。協議会は今後も、DX化した効率的・効果的な研修を充実させ、介護スタッフのスキルアップを実現していく見込みです。

コロナ禍をバネに介護研修をデジタル化、見え始めた様々な効果。DXで介護業界を変えていく愛媛県老人保健施設協議会(愛媛県) │中小企業応援サイト

アウトソーシングの活用

必要な対策

アウトソースを活用し、社内でしかできない重要な業務に従業員が集中しやすい環境を整えることも、労働環境の改善につながります。まずは現状の業務を売上や将来にかかわるコア業務とそれ以外のノンコア業務に分類し、アウトソースする対象業務を選定しましょう。

対策を講じる意義

データ処理や入力作業など、これまで多くの時間を要していたノンコア業務を専門家に依頼することにより、従業員の労働時間を大幅に削減できる可能性があります。これにより従業員は戦略の立案や創造性の高い仕事に集中できるようになり、モチベーションの向上も見込めるでしょう。従業員満足度の向上を図る上で、アウトソースの活用は有効な改善策の1つです。

就業規則の変更・代替休暇制度の新設

必要な対策

割増賃金率の引き上げに伴い、就業規則の変更が必要になる場合があります。月60時間を超える時間外労働には賃金を50%以上の割増率で支給する旨、就業規則に明記しましょう。また、月60時間超の法定時間外労働に対して支払う時間外手当の代わりに休暇の付与を検討している場合は、代替休暇制度の導入が必要です。代替休暇の時間数の算出方法や休暇の単位などを決めた上で、労使間での話し合いを進めておく必要があります。

対策を講じる意義

割増賃金率に則った時間外手当の支給、もしくは代替休暇の付与は企業が履行するべき義務であり、法令を遵守した経営を実現する上で不可欠な対策といえます。代替休暇制度は、月60時間を超えて働く従業員の休息時間を確保する目的で定められています。従業員に長く働き続けてもらうためにも、代替休暇の導入は有効な対策の1つです。

残業が60時間を超えやすいパターンと対処法

月60時間を超える残業は、月間20営業日と仮定すると1日あたり平均3時間以上残業していることを意味しています。こうした状況が発生しやすいパターンと対処法をまとめました。長時間労働の是正に取り組む際には、下記の対処法を参考にしてください。

パターン1:人手不足

慢性的な長時間労働に陥る原因として、人手不足が挙げられます。業務量に対して人員が不足していると、一人あたりの業務量が過大になるのは避けられません。既存の従業員に多くの仕事をこなしてもらうことにより、新たに従業員を採用するよりもコストを抑えられます。一方で、月60時間を超える残業が年7回以上に達すると労働基準法違反となることから、できるだけ早く人手不足を解消する必要があるでしょう。

対処法

最も効果的な対処法は新たな人材の採用ですが、状況によっては今すぐに新規採用に踏み切れないケースもあります。人員配置の見直しや業務効率化の推進により、従業員一人あたりの業務量を調整してみてはいかがでしょうか。また、必要に応じて派遣社員やアルバイトの採用も検討するなど、人手不足をできるだけ解消するための方策を講じることが大切です。

パターン2:繁忙期

業種や取り扱う商材によっては、繁忙期のみ一時的に業務量が急増することが想定されます。業務量の増加が一過性のものであれば、繁忙期に必要な人員を基準に人員計画を立てるのはあまり合理的とはいえません。一方で、繁忙期に入ると従業員に過大な負荷がかかりやすく、適正な業務量を維持するための方策を講じるのが難しいケースが少なくありません。

対処法

繁忙期に限り、業務量が増える部門の業務をサポートできる柔軟な組織体制を築いていくことは有効な対策の1つです。たとえば、複数の部署を兼務できる人材を育成し、繁忙期のみ人員配置を変更するといった方法が想定されます。また、短期アルバイトの採用やフリーランスへの外注により、繁忙期の増員を図るのも1つの方法です。

パターン3:慣習・組織風土

残業が常態化している組織においては、長時間労働を肯定的に捉える風土が醸成されている可能性があります。上司よりも先に退勤しにくかったり、遅い時刻まで仕事をしている従業員が高く評価されたりするのは、長時間労働を肯定的に捉える慣習や組織風土の好例です。

対処法

長年にわたり組織に根づいてきた慣習や風土を変えていくには、経営層や管理職の意識改革が欠かせません。メリハリのある働き方を肯定するメッセージを積極的に発信したり、ノー残業デイを設けたりするなどして、効率良く仕事を進める重要性を浸透させていくことが重要です。

社員の健康を守るために時間外労働対策を進めよう!

時間外労働の割増賃金率を遵守することは企業にとっての義務であり、必ず取り組まなければならない対策といえます。一方で、社員がライフワークバランスを保ち、健康に働き続けられる環境を整えることは、長い目で見た場合に持続可能な経営を実現するための重要な要素でもあるはずです。自社の労働時間に関する課題を見直し、具体的な対策を講じるきっかけとして、時間外労働対策を推進してみてはいかがでしょうか。

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記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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