パワハラ防止法が義務化!|罰則や中小企業ができる防止施策を解説
2024年03月18日 07:00
この記事に書いてあること
優位な立場を背景とした嫌がらせを意味する「パワーハラスメント」は、職場におけるハラスメントのなかでも働く人すべてが関わる可能性があり、受けた人の心身に大きな負荷をかける、深刻な問題です。
2020年6月1日に、そんなパワーハラスメントの防止策を企業に義務付ける法律、通称、パワハラ防止法がスタートし、2022年4月1日には中小企業においても防止措置が義務化されました。
この記事では、パワハラの定義からパワハラ防止法の内容や罰則、中小企業ができるパワハラ防止策などについて解説します。
パワハラ防止法とは
パワハラ防止法とは、労働施策総合推進法の通称です。多様な働き方を推進するための法律として整備されましたが、パワーハラスメントの防止についても規定されているため、パワハラ防止法と呼ばれています。
2020年6月1日に改正労働施策総合推進法の施行により、大企業における職場のパワハラ対策が義務化されました。中小企業においては、2022年3月31日まで努力義務とされていましたが、同年4月1日より義務化されました。
パワハラ防止法は、労働者が実務を遂行する「職場」で働く「労働者」が対象となっており、これには正規雇用労働者だけでなく、アルバイトや契約社員などの非正規雇用労働者も含まれます。
パワハラの定義とは
厚生労働省が発表した指針によると、職場におけるパワーハラスメントとは、職場での「1.優越的な関係を背景とした言動」であり、「2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」で「3.労働者の就業環境が害される」、この3つの要素をすべて満たすものと定義されています。
厚生労働省発表の代表的な6つの言動
厚生労働省が発表した指針では、パワーハラスメントを「身体的な攻撃」、「精神的な攻撃」、「人間関係からの切り離し」、「過大な要求」、「過小な要求」、「個の侵害」の6つのタイプに分類しています 。
- ①身体的な攻撃・・・蹴ったり、殴ったり、体に危害を加える行為
- ②精神的な攻撃…脅迫や名誉棄損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加える行為
- ③人間関係からの切り離し…隔離や仲間外れ、無視など個人を阻害する行為
- ④過大な要求・・・業務上明らかに不要なことや、遂行不能な業務を押し付ける行為
- ⑤過小な要求・・・業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えないこと
- ⑥この侵害・・・私的なことに過度に立ち入る行為
指針によると、下記のような言動もパワハラにあたるとされています。
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上司が業務を行う上で必要な範囲を超えて、長時間にわたって激しく叱ることを繰り返す
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同僚の見ている前で、大声で威圧的に叱ることを繰り返す
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指示に従わない社員を仕事から外し、長期間にわたって自宅研修を命じる
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新卒社員に必要な研修を行わずに難しい目標を与え、達成できないことを厳しく叱る
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リーダーだった社員を退職させようと、誰でもできる業務にあたらせる
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遅刻などのルール違反を繰り返し、何度注意しても直らない社員を強めに注意する
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社員を成長させるために、現状よりも少し高いレベルの仕事にあたらせる
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社員を配慮する目的で、社員の家族状況などプライベートなことを質問する
なお、下記のように業務上必要かつ相当な範囲で行われる指示や指導などはパワハラに該当しません。
ただしこの事例に従うだけでは、職場の状況や個別の事情によってはパワハラだと判断できないケースもあるので注意が必要です。また、企業側には相談への対応やパワハラ発生後の対処を行う体制づくりも求められます。
パワハラの現状
厚生労働省発表の「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、都道府県労働局と労働基準監督署に設置した総合労働相談センター(全国379か所)へ寄せられた相談件数は124万8,368件でした。
そのうち、パワーハラスメントに関する相談も含まれることになった「労働基準法等の違反の疑いがあるもの」は18万8,515件と、前年比で10%以上増加しています。パワハラ防止法によってパワハラについて周知されたことにより従業員の問題意識があがったこと、問題が顕在化されたことも増加の原因として考えられます。
しかし、パワハラ防止法ができたにもかかわらずハラスメントが減っていないことのあらわれでもあるため、企業側は取り組みに対して、より力をいれなければなりません。
パワハラ防止法の5つのポイント
企業側は、パワハラ防止法に対する理解を深めていく必要があります。では具体的に、パワハラ防止法では具体的に何が義務化されたのでしょうか。この章では、企業がとるべき対策や罰則の有無などを含めて、法律を理解するためのポイントを5つ解説します。
1.中小企業では2022年4月から義務化された
2020年6月1日に改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行されて以降、大企業においては職場のパワーハラスメント防止措置が義務化されていましたが、2022 年3月31日までは努力義務だった中小企業においても、2022 年4月1日より義務化されました。
大企業と同様、すべての従業員が対象となるほか、パワーハラスメントだけでなく、セクシュアルハラスメント(セクハラ)や、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ)への対策も求められます。また、企業側は、パワハラを防止するための対策を講じなければなりません。
厚生労働省が運営している「あかるい職場応援団」では、ハラスメント関係資料をダウンロードし、マニュアルとして利用できます。どのように対策を講じればいいのかわからない場合は、動画やオンライン研修講座などを活用するといいでしょう。
あかるい職場応援団|厚生労働省
2.労働者への不利益な扱いは法律違反
従業員に対して、パワーハラスメントについての相談などを行ったことを理由に、企業側が不利益な取り扱いをすることは禁止されています。従業員がパワハラを受けていると伝えたことや、パワハラに関して労働局に相談をしたことなどを理由に、解雇やその他の不利益な扱いをすることは法律違反です。
パワハラ防止法には、罰則は定義されていません。ただし、厚生労働大臣によって必要があると認められた場合には、事業主に対する助言、指導または勧告をすることができます。また、規定違反への勧告に従わない場合にはその旨が公表される可能性もあるため、注意が必要です。
3.相談・対応体制を整備しなければならない
企業側は、労働者がパワーハラスメントに関する相談をしやすい体制を整備しなければなりません。具体的には、相談へ対応するための窓口を定めて労働者に周知すること、相談後には適切な対応・改善ができるよう体制を整えることが挙げられます。
相談窓口は「面談」に限らず、「メール」や「電話」など、労働者が使用しやすい手段を複数用意することが必要です。また、企業には相談内容や状況に応じた適切な改善が求められます。
4.就職活動中の学生、個人事業主なども対象に含まれる
パワーハラスメントの対象は従業員だけでなく、就職活動中の学生や個人事業主なども含まれることも重要なポイントでしょう。
2022年4月1日にパワハラ防止法が義務化された際に、厚生労働省は、パワーハラスメントの対象を「自らの雇用する労働者以外の者」にもあたると発表しました。ただしこれは義務化されているものではなく「望ましい」とされている項目です。
しかし、働き方の多様化が進んでいる今、雇用形態によって態度を変えることは従業員からのマイナスの評価にもつながります。社内全体の意識を高めるためにも、誰に対してもパワハラを発生させないように気をつけましょう。
5.パワハラ発生時にはすぐに対処と再発防止を
パワーハラスメントが発生した場合、企業側は事実関係を迅速に確認して、適切な対応を行わなければなりません。
具体的には、パワハラを受けた社員(被害者)に対しては、パワハラを行った社員(加害者)との関係改善に向けたサポートや両者を引き離すための配置転換、メンタルヘルス不調への対応など、被害者に配慮する措置をスピーディに行う必要があります。また、パワハラを行った社員に対しては、再発防止策や被害者への謝罪などの措置が求められます。
企業に求められるパワハラ防止施策|厚生労働省による関係指針
では、具体的に企業にはどのようなパワハラ防止施策が必要とされているのでしょうか。この章では、厚生労働省による関係指針をもとに3つご紹介します。
1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
まずは事業主がパワハラに対してどのように対応すべきか方針等を明確にし、それらを周知・啓発していきましょう。パワハラに関して経営陣の理解を深めたあと、社内では具体的にどのような周知をするか、もし被害が起きた場合誰がどのように対応するかを決める必要があります。啓発にあたっては、パワハラ講習などを従業員に受けてもらうことも効果的でしょう。
2.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
パワハラに関する相談に対応する担当者や、相談があった際の制度の整備が必要です。担当者を設定するだけでなく、研修などを行い、人事部門と連携するなど実際に相談を受けられる体制になっていることが重要です。
3.職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
パワハラの防止に関して周知・啓発を徹底したとしても、被害が出てしまうこともあります。その場合には、迅速な対応かつ適切な対応を行う必要があります。
設置している相談窓口の担当者が事実関係を確認することになりますが、その際は相談者に配慮を行うようにしましょう。
ハラスメントの被害が起きたときの対応は? 再発防止のためにできること
これまでパワハラの防止策について述べてきましたが、実際に被害が起きてしまった場合はどのような対応が必要となるのでしょうか。この章では、ハラスメントが起きた際に企業がとるべき行動を解説していきます。
1.両者から事実関係を確認する
まず、両者から事実関係を確認しましょう。加害者・相談者(被害者)どちらからも話を聞くことで、公平な視点でパワハラの有無を判断することができます。
具体的には、第三者の証言などの証拠と照らし合わせて不自然な点はないか、相談者側から虚偽の申告をする理由はないか、などを考えながら聞くといいでしょう。また、記録をつけておくことで調査報告書の作成が必要になった場合においても活用できます。
2.加害者側に対して処分の限度を考える
もしパワハラが事実だと認められた場合、加害者側に対して処分の限度を考えます。具体的には、被害者への謝罪や必要な懲戒などの措置が挙げられます。しかし、加害者と被害者を対面させず、距離を置くことが必要なこともあるため、被害者の心身のケアを第一に考え、状況に応じてどのような措置をとるべきか判断しましょう。
3.被害者や相談者に処置を行う
パワハラが事実だと認められた場合、相談者は「被害者」となり、処置が求められます。先述のように加害者からの謝罪や加害者と対面しないようにするといった対応はもちろんのこと、被害者側が会社に足を運びづらくならないように、相談を受けたことをあきらかにしないなどの対応も求められます。
もしパワハラが事実だと判断できなかったとしても、相談者の受けた傷は変わりません。そのため、相談に留まった場合も、上記のように対象と距離を置けるようにしたり、仲介に入ったりといった対応が求められます。
4.ハラスメントに関する講習を受ける
パワハラが起きた場合にだけ対応するのでは、再発防止につながりません。そのため、全従業員がハラスメントに関する講習を受け、パワハラに対する理解を深めることが大切です。パワハラにあたるかあたらないかという感覚には個人差があるため、認識をすり合わせることで、パワハラ防止につながります。
まとめ
労働施策総合推進法の改正にともない、パワハラのルールが明確化され、企業が防止施策を講じる必要があります。
パワハラを防ぐことは、企業や働く人たちにとってもトラブルを防ぐ上での大きなメリットです。上司や同僚からのハラスメントに悩む人の問題を解決することで、働きやすさ向上にもつながります。法整備を職場環境改善のチャンスととらえて、対策を積極的に進めましょう。
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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