副業を解禁すべきか?企業が知っておきたいメリット・デメリットと成功事例まとめ
2025年06月23日 07:00
この記事に書いてあること
働き方改革の推進に伴い、従業員の副業を認める企業が増えつつあります。柔軟な働き方を実現する一手段として、副業をどのように取り入れるべきか検討している企業も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、副業を認める企業が増えている背景や、副業解禁のメリット・リスク、実施に向けた準備のポイントを、企業事例とともにわかりやすく解説します。
従業員の副業を認める企業が増えている2つの理由
副業を解禁する企業が増えつつある背景には、政府主導の働き方改革と、企業側の人材確保・組織活性化へのニーズという、2つの側面があります。
- ・理由1:働き方改革実行計画の影響(政策面)
- ・理由2:多様な働き方を実現する必要性(企業側の課題・対応)
それぞれの側面を詳しく見ていきましょう。
理由1:働き方改革実行計画の影響(政策面)
2018年1月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定しました。このガイドラインでは副業・兼業について、下記の事項が示されています。
- ・副業・兼業は基本的には労働者の自由
- ・例外的に副業・兼業を禁止または制限する場合、就業規則にその旨を明記する
- ・企業は従業員の労働時間を本業・副業を通算して管理する必要がある
こうした政府による後押しが、副業解禁の動きを加速させている大きな要因の1つです。副業・兼業を促進する動きは働き方改革実行計画の一環であり、政府が多様な働き方の推進・浸透を目指していることの表れといえます。
理由2:多様な働き方を実現する必要性(企業側の課題・対応)
2024年7月、独立行政法人労働政策研究・研修機構は「副業者の就労に関する調査」を公開しました。この調査結果によれば、副業に取り組む理由として「自分が活躍できる場を広げたいから」「さまざまな分野の人とつながりができるから」「仕事で必要な能力を活用・向上させるため」といった要素を挙げる傾向が高年収層ほど顕著に見られます。副業は単に収入を増やすための手段ではなく、自己研鑽の手段として捉えられているケースが少なくありません。
また、企業にとって副業解禁は、優秀な人材を確保するための対策となりつつあります。このように、多くの企業が多様な働き方を実現する必要に迫られていることも大きな要因の1つです。
ベンチャー・スタートアップが副業先として注目されている背景

副業に従事する際、ベンチャー企業やスタートアップ企業が副業先として注目されていることも、近年見られるようになった傾向の1つです。本業ではなく副業でベンチャー・スタートアップにて就業することで、下記のメリットを得られることが要因として挙げられます。
- ・ミッションを軸とした環境で自身のスキルを磨ける
- ・自身の市場価値を肌で感じられる
- ・リスクを最小限に抑えつつ、新規性の高いビジネスに携われる
従業員が転職に伴うリスクを負うことなく、チャレンジングな環境に身を置けるメリットは大きいと考えられます。副業が単に収入を増やすための手段ではなく、自己研鑽の手段として捉えられつつあることの表れといえるでしょう。
企業が副業を解禁する3つのメリット

企業が従業員の副業を認めることによって得られるメリットは、主に下記の3点です。
- ・メリット1:優秀な人材を確保しやすくなる
- ・メリット2:従業員のスキルアップとシナジー効果が期待できる
- ・メリット3:自社ブランドの強化につながる
それぞれ具体的に見ていきましょう。
メリット1:優秀な人材を確保しやすくなる
1つ目の大きなメリットとして、優秀な人材を採用できる確率が高まることが挙げられます。多様な働き方が認められており、自己研鑽の機会が豊富に用意されている環境を、優秀な人材は好んで選ぶ傾向があると考えられるからです。
能力が高い人材ほど興味関心が多方面にわたっており、入社後も自己成長を続けたいという意欲が旺盛なケースは少なくありません。こうした人材を積極的に採用するとともに、入社後の定着率を維持しやすくなることは、企業が副業を解禁することで得られるメリットといえます。
メリット2:従業員のスキルアップとシナジー効果が期待できる
従業員のスキルアップや、本業とのシナジー効果が期待できることもメリットの1つです。本業以外で得た知見やスキル・経験が発揮され、相乗効果が生まれることで組織全体の能力が向上していく可能性があります。
また、本業の分野外の知識・経験が豊富な人材が増えていくことで、これまでになかったアイデアやインスピレーションがもたらされていくでしょう。近年は新たな事業の軸を模索する企業も増えています。業種の垣根を越えた実務経験が、企業の将来に大きく貢献するイノベーションへとつながることも、十分に考えられるでしょう。
メリット3:自社ブランドの強化につながる
副業解禁は、ブランディングの強化という面においても重要な要素といえます。従業員の多様な働き方を推奨する取り組みは、求職者に限らず多方面のステークホルダーに認知されていく可能性があるからです。
先進的な取り組みを積極的に推進している企業としてブランド力が向上することで、業界を超えたコラボレーションやイノベーションが生まれる確率も高まっていくでしょう。自社ブランドを強化したいと考えている事業者様にとって、副業解禁は重要なポイントの1つとなる可能性があります。
企業が副業を解禁する3つのデメリット・リスク

副業解禁は企業にさまざまなメリットをもたらす一方で、対策を講じておくべきデメリットやリスクが潜んでいるのも事実です。主なデメリット・リスクとして、下記の3点が挙げられます。
- ・デメリット1:職務専念義務に関するリスクが生じる
- ・デメリット2:人材の流出につながることが懸念される
- ・デメリット3:機密情報の流出への対策が必要
副業解禁に際して、想定しておくべき点を解説します。
デメリット1:職務専念義務に関するリスクが生じる
多くの場合、副業は本業の仕事が終わった後や休日に行われます。十分な休息を確保できなくなることで、本業に支障をきたすおそれがある点は否めません。
たとえば、本業と副業で繁忙期が重なった場合、どちらにも相応のエネルギーと時間を費やす必要があるでしょう。体力や集中力の面で本業に投じられるリソースが限られることにより、生産性の低下を招くことが懸念されます。夜遅くまで副業に従事した結果、翌日の勤務中に注意散漫になってしまったり、体調を崩して休むことになったりすることのないよう、対策を講じておくことが重要です。
デメリット2:人材の流出につながることが懸念される
副業がきっかけとなって、転職や独立を検討し始める従業員が一定数現れる可能性があることもリスクの1つです。実際、前掲の「副業者の就労に関する調査」では、年収1,100万円以上1,500万円未満の副業従事者のうち、約1割が将来的に独立したいと考えていることがわかっています。副業解禁に踏み切ることで、近い将来エース社員が離職し、独立していく可能性も否定できないのが実情です。
一方で、本業の収入源が確保されているからこそ、副業にチャレンジできるという見方もできます。副業解禁に際しては、従業員が自社に所属することで得られるメリットは何か、自社だからこそ提供できる環境は何かを再検討し、あらためて従業員に向け発信していく必要があるでしょう。
デメリット3:機密情報の流出への対策が必要
従業員が自社以外の事業者とやり取りをするようになることで、機密情報が流出するリスクが高まることは否めません。顧客情報や取引先情報などが副業に利用されることがあれば、重要な情報の漏えいに直結しかねないからです。
副業を解禁するにあたって、秘密保持義務や競業避止義務をあらためて周知徹底する必要があります。たとえば、副業先として選んではいけない仕事の内容や副業で禁止する事項などについて、具体例を挙げて説明する機会を設けるのが得策です。
前掲の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、従業員の副業を認めるにあたり、労務提供上の支障や企業秘密の漏えいなどがないか確認する観点から、副業を申請・届出制とするのも一案と述べられています。申請・届出が形式的なものにならないよう、従業員とコミュニケーションを取りながら、機密情報の取り扱いについて周知する場を設けるのが望ましいでしょう。
副業解禁に向けて準備しておくべきこと
副業解禁に向けて、企業としてどのような準備を整えておく必要があるでしょうか。とくに重要度の高い3つの取り組みについて解説します。
1. 就業規則の見直し
第一に検討すべきことは就業規則の記載内容です。現状の就業規則において副業禁止規定が設けられている場合は、関係する条項を削除または修正します。加えて、従業員が副業を始めることによって想定されるリスクに備えるために、ルールを追加しておくことが重要です。厚生労働省が公表している「モデル就業規則」では、副業・兼業について下記の記載例が紹介されています。
(副業・兼業)第70条労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。① 労務提供上の支障がある場合② 企業秘密が漏洩する場合③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合④ 競業により、企業の利益を害する場合
2. 労働時間を管理する方法の確立
労働時間の管理方法についても検討しておく必要があります。本業・副業の労働時間を通算した時間管理の方法や、割増賃金の計算方法を確立しておかなくてはなりません。
アルバイト・パートのように従業員が副業先と雇用契約を締結する場合、副業先での労働時間を本業の勤務先に報告する義務がある点についても、従業員に周知徹底しておくことが重要です。労働時間の報告を怠ったり、勤務先に隠して副業に取り組んだりするのは、会社・従業員の双方にとってデメリットとなることについて理解を促しましょう。
同時に、従業員が出先からでも労働時間を報告できる仕組みを整えておくことも大切なポイントです。クラウド勤怠管理システムを導入するなど、従業員がオフィスにいない時間帯にも、労働時間を随時記録・報告できる仕組みを取り入れてみてはいかがでしょうか。
3. 評価方法の見直し
何らかのペナルティを設ける際にも細心の注意を払う必要があります。副業トラブルとして多く聞かれる「本業に支障をきたしている」といった可能性が疑われるケースにおいても、安易な判断は避けたほうが無難です。営業職や販売職の場合は「売り上げ成績」などで成果が見えやすい一方で、それ以外の職種の評価方法はしっかり見直し、誤った評価を下すことのないよう対策を講じておきましょう。
副業解禁を実現した企業の事例
副業解禁に踏み切り、多様な働き方を実現している企業の事例を紹介します。各社のルール策定やリスク対策を、自社での取り組みに役立ててください。
事例1:労務時間管理の負担を軽減する管理モデルを採用
株式会社JTBでは以前から副業を禁止していなかったものの、コロナ禍を機に副業に関する社内ルールの明確化と社内ガイドラインの策定に取り組みました。
同社のガイドラインの特徴として、副業に従事できる範囲を明示している点が挙げられます。副業の形態が雇用/非雇用のいずれの場合においても、副業での労働時間を「月35時間以内」と明確に定めたのです。これにより長時間労働の防止と、労働時間管理の負担軽減を両立させました。こうした簡便な労働時間管理の方法を「管理モデル」といいます。労働時間の管理が煩雑になることが想定される場合には、管理モデルを採用するのも1つの方法です。
参考:副業・兼業における労働時間の通算について(簡便な労働時間管理の方法「管理モデル」)│厚生労働
事例2:自立性・自主性を磨く場として副業を解禁
SMBC日興証券株式会社では、社員のスキルアップや自発的なキャリア開発を支援することを目的に副業・兼業を解禁しました。同社の取り組みの特徴として、雇用による副業は認めず、個人事業主やフリーランスなどの立場での副業を推奨している点が挙げられます。
副業希望者にはeラーニング研修を受けてもらい、副業解禁の趣旨や注意事項への理解を促しています。さらに所属長の承認を経て人事部に申請書と誓約書を提出することにより、副業を始めることが可能です。安全配慮の観点から副業への従事は月30時間までを上限とし、危険業務や早朝深夜業務は禁止しています。労働時間に関しては、非雇用のため仔細に管理する必要がありません。労働時間の管理が負担になる可能性がある場合には、この事例のように非雇用の副業のみ解禁するのも1つの考え方です。
事例3:企業側から兼業先を紹介
全日本空輸株式会社では、以前から非雇用による副業のみ解禁していましたが、コロナ禍を機に雇用による副業に関しても解禁に踏み切りました。同社の特徴として、従業員自ら副業先を探すほか、会社が紹介する兼業先にも応募できる点が挙げられます。
会社が選定した兼業先は、従業員の経験やスキルの向上に資すると思われる事業者が厳選されています。また、雇用による副業に関しては労働時間を月30時間までとするとともに、自社の勤務日には1日4時間まで、公休日には1日8時間までに制限しました。これにより、副業を通じて従業員のスキルアップを促すと同時に、本業に支障をきたさない働き方を実現することに成功しています。
副業解禁のメリット面を効果的に引き出す仕組みの整備が重要
優秀な人材の確保や従業員のスキル向上、自社ブランドの強化といったメリットを享受する一方で、職務専念義務や情報漏えいといったリスクにも備える必要があります。
働き方の選択肢を広げ、従業員の多様なキャリア形成を支援することは、組織全体の活性化にもつながります。
今回ご紹介した企業事例を参考に、自社に合った制度設計とルール整備を進め、持続可能な働き方改革を実現していきましょう。
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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