
社会のあらゆる分野において、ICTの活用が広がり、社会基盤として不可欠なものになるなかで、改めて問われる災害発生時の情報共有の在り方。リコージャパンは、災害医療の最前線に立つ基幹災害拠点病院、DMAT※1(災害派遣医療チーム)などと協働し、災害に強い情報共有システムの構築と普及に取り組んでいます。
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- Disaster Medical Assistance Team
社会のあらゆる分野において、ICTの活用が広がり、社会基盤として不可欠なものになるなかで、改めて問われる災害発生時の情報共有の在り方。リコージャパンは、災害医療の最前線に立つ基幹災害拠点病院、DMAT※1(災害派遣医療チーム)などと協働し、災害に強い情報共有システムの構築と普及に取り組んでいます。
ICTは今や社会活動の基盤であり、災害対策の分野でも積極的な導入が進められています。しかし、大規模災害などにより通信サービスが途絶した状況下では、平時のICT活用度合いが大きいほど混乱も大きくなり、事態が深刻化することが懸念されています。有事の情報共有の在り方について、改めて問われている今、多様なコミュニケーションを提供してきたリコージャパンだからこそできるアプローチがあるのではないでしょうか。「ビジュアル情報衛星通信システム」が生まれた背景について、ICT事業本部の百瀬潔は、こう振り返ります。
「テレビ会議・Web会議システム RICOH UCS※2も、電子黒板RICOH IWB(以下、IWB)※3も、コミュニケーションを促進するツールです。企業の会議などで広く活用いただいていますが、この『普段使いできる』ことこそが、災害対策に欠かせない視点だと思うのです。訓練でしか使ったことのないツールを緊急事態で活用するのは、非常に困難でしょう。それならば、リコージャパンのリソースを活かして、普段使いと災害対策を一体にした提案をしていきたいと思いました。そのためには通信の確保が不可欠ですから、スカパーJSATさんと協働し、安定した衛星回線を活用する仕組みを構築しました」
災害発生時、あらゆる活動の起点となるのが情報共有です。「ビジュアル情報衛星通信システム」は、災害に強い衛星回線で、発災現場、対策本部、医療機関といった救護活動の最前線をつなぎ、映像や音声、画像などを通じて、迅速で正確な情報共有を促進します。
「ビジュアル情報衛星通信システム」の実現において、大きな転機となったのが、愛知医科大学 災害医療研究センター 小澤和弘先生との出会いです。災害医療に関する意見交換が行われる日本集団災害医学会総会・学術集会で、当システムを評価いただき協働がスタート。2017年10月、南海トラフ地震発生を想定し、DMATや病院職員、医学生らが参加した、愛知医科大学病院の総合防災訓練において、システムの実証実験を行いました。
通常、災害医療の現場では、次々と搬送されてくる傷病者の氏名・症状など、トリアージ※4の情報をホワイトボードに書き出して整理し、情報共有は主に無線を使用しています。この手法では、現場からの情報を元に搬送先等の判断・指示を行う災害対策本部が、現場の様子をより詳細に把握できないことが課題となっています。例えば、ホワイトボードの情報を元に、現場から災害対策本部へ「赤(重症者)、3名、受け入れられますか?」と、無線で伝えても、色と数字から詳細は把握できません。加えて、口頭のみの伝達では、どうしても間違いが生じてしまうのです。
今回の総合防災訓練では、こうした課題を解決するため、傷病者が搬送されてくる病院1階にIWBを設置。DMATがIWBに書き込んだトリアージの情報を、重症者の治療を行う2階と、3階の災害対策本部からも、ビジュアルを用いてリアルタイムに確認できるようにしました。さらに、1階の様子をRICOH UCSで撮影し中継。災害対策本部における迅速で正確な判断を助けました。
2018年1月には、愛知県半田市で実施された南海トラフ地震時医療活動訓練において、「ビジュアル情報衛星通信システム」を運用しました。当訓練には、愛知県および県内の5市5町、警察、消防、陸上自衛隊、海上保安本部、DMAT、災害拠点病院などが参加。この大規模な訓練を通じて一番印象に残ったのは、各団体の活動が縦割りになっており、横の連携が図られていないことでした。
「各団体がそれぞれ対策本部を立てるのですが、横の連携が非常に弱いのです。RICOH UCSとIWBの活用について、一つひとつ個別に調整するわけにもいかず、事前の調整がほとんどできないまま、訓練当日を迎えました。ですから、訓練開始当初は、見慣れないIWBを誰も使おうとせず、従来のホワイトボードが使用されていました。しかし、あるDMAT隊員が試しに使ってみたのをきっかけにして、どんどん活用されるようになっていったのです。手書きの文字が瞬時に読みやすいテキストデータに変換され、それが病院や搬送拠点である小牧空港に共有されていることがわかると、『これは使える』と。IWBのように直観的に使える操作性が重要であることを肌で感じました。
テキストデータ変換への精度の高さも、災害医療の現場で支持される重要なポイントのひとつ。
小牧空港で待機していた医師からは、傷病者が運び込まれてくる前に、実際の状況を映像で把握できることを高く評価いただきました。混乱を極める状況で、いち早く準備ができる価値は非常に大きいのです」
「ビジュアル情報衛星通信システム」をさらに進化させていくには、幅広いパートナーと協働し、それぞれのリソースや強みを一体化させていくことが不可欠です。パートナーシップによってシステムを進化させ、リコージャパンのネットワークで全国へと普及させていく。それがリコージャパンの使命だと考えます。
防災活動全体でも、災害医療の現場でも、非常に重要でありながら、不足しているのがコミュニケーションです。団体ごとの訓練は行われていても、横方向への情報共有はあまりされていないのが現状です。このことは、限られたリソースを有効に活用するため、喫緊に対策を講じるべき課題だと捉えています。「ビジュアル情報衛星通信システム」の普及は、当センターが今まさに取り組んでいる、横方向の連携強化にもつながっていくでしょう。訓練を通じて、いろいろな要望をお伝えしていますが、リコージャパンの皆さんとなら、よりよいシステムがつくれると思うのです。今後も進化と普及、両面において一緒に取り組んでいきましょう。