【連載】働き方改革を成功に導く「コミュニケーションの見直し」と「コラボレーションの活性化」 Vol.3
前回のコラムでは、異なる文化の人が集まるビジネスの場でコミュニケーションをうまくとる方法について紹介しました。第3回目は、コラボレーションの必要性とコラボレーションを成功に導く環境づくりについて考えていきたいと思います。
最近では一般的な言葉として使われる“コラボレーション”ですが、この言葉が広く使われるようになったのはそんなに昔ではありません。
日本で“コラボレーション”という言葉への関心を呼び起こした本の1つとして、1990年に出版されたマイケル・シュレーグ著の『SHAREDMIND:The New Technologies of Collaboraton(邦題:マインド・ネットワーク 独創力から協創力の時代へ1992年)※1』があります。シュレーグはこの中で「コラボレーションはめったに学者の研究対象とはなってこなかった」「ドラッカーのどの著書の索引にも“コラボレーション”という言葉はまったく見当たらない(対照的に“コミュニケーション”という言葉はトップに出ている)。」と書いています。また、「革新的な解決策、革新的な成果を創造するためには、異なる技能を持った人々がコラボレーションによって取り組むことが必要だという事実がいま、明らかになろうとしている」と述べています。
当時“イノベーション”の重要性が高まるにつれて、“コラボレーション”という言葉が注目されるようになってきていました。それまで、企業にとって「効率」を高めることが重要な経営課題でしたが、この頃からはいかに「新しい価値」を生み出すか(イノベーション能力)が競争力の源泉であると考えられるように変化しました。そして、その「新しい価値」を生み出すのに必要なのが“コラボレーション”だったのです。シュレーグは「今なぜコラボレーションなのか」と問いかけ、「ほかに選択肢がないだけでなく、コラボレーションこそが最上の選択肢であることが、その理由なのだ。」と述べています。いまや世界の企業トップが「コラボレーションを推奨する企業文化を重視」するようになっています※2。
ちなみに1990年はティム・バーナーズ=リーが世界初のウェブブラウザと世界初のWWWサーバを開発した年でもあります。情報技術もまた大きく変わろうとしていた時代だったのです。
シュレーグは、「コラボレーションは“メンバー間の相互作用”であり“プロセス”である。」と言っています。単にコミュニケーションを行うことではなく、相互作用を通して新しい共通理解(新しい価値)を作り出すことがコラボレーションの本質といえます。シュレーグは著書の中でコラボレーションの成功を大きく左右する要因として13の項目を挙げています。
<表1>コラボレーションの成功を左右する13の要因
コラボレーションは、人と人の相互作用であるので「個人の資質」や「組織の文化」などが大きく影響します。しかし、シュレーグはコラボレーションを支援する「環境」や「ツール」も非常に重要であると説いています。
では、コラボレーションに必要な環境やツールとはどのようなものでしょうか?
チームとは、単なるグループではなく、「ある目的のために協力して行動するグループ」という意味です。野球やサッカーはチームスポーツです。いろいろな役割の選手が勝利という目的のために協力して行動します。同様にコラボレーションも異なる専門性や知識を持った人たちが1つの目標に向かって協力して新しい価値を生み出すために「チーム」で行う活動です。
サッカーでは試合に勝つために、ディフェンダーが守ってボールを奪い、味方がパスをフォワードまでつないで点を取るといったプレイがその一例です。コラボレーションも同様で、「同じ目標を共有する」ことと「メンバー同士の連携」が重要となります。シュレーグの言葉で言うと「メンバー同士の連携」は「相互作用」といえます。
コラボレーションをするうえで「同じ目標を共有すること」、「メンバー同士の連携」が重要となります。しかし、この2つのコミュニケーション頻度は異なります。
まず、「同じ目標を共有する」ためのコミュニケーションはそれほど頻繁に行う必要はありません。頻度よりも全員がちゃんと共有することが重要になります。サッカーで言えば、試合前やハーフタイムでのミーティングがこれにあたります。
一方「メンバー同士の連携」をとる場合は、関連するメンバーが必要に応じてすぐにコミュニケーションをとることが重要になります。サッカーを例にすると、試合中に選手同士で指示を出したり、アイコンタクトを取ることに該当します。また、アメリカンフットボールでは1つ1つのプレイの前に集まって短い作戦会議(ハドル)を行います。
コラボレーションではメンバー同士が意見やアイデアを出し合い、議論することが大事になります。シュレーグはそのためには“共有された場”が必要だと言っています。“共有された場”とは、メンバーのアイデアや議論の内容が表現され、それをいろいろ操作しながらコミュニケーションができる“場”のことです。
たとえば、考えを伝えるときに紙やホワイトボードを利用したり、表計算ソフトでデータを表示しながら議論しませんか?これらのツールを使うことで、言葉だけでは表現できない内容を補足したり、アイデアをいろいろ比較し、変化させながら議論することができます。会話はそのままでは残らずに消えてしまいます。それではいろいろなアイデアの比較やブラッシュアップをすることができません。しかし、アイデアを「共有された場」に置くことで、物事を客観的に議論できるようになります。また議論の結果を記録として持ち帰ることもできます。コラボレーションを実現するためにはこのような「共有された場」が必須なのです。
コラボレーションを進めるために必要な環境として次の4点をあげることができます。
最近、会議室ではなく居室内にオープンなコラボレーションスペースを作る企業が増えています。予約無しですぐに使える「リアルな場」が重要であると考えているからです。また、他部門から集まるプロジェクトチームでは全員が同じ場所で働いていない場合があります。このような時、離れた場所にいるメンバーともすぐにコミュニケーションできる環境が求められます。テレビ会議やWeb会議、チャットなどのツールを活用した「デジタルな場」がこれにあたります。
「リアルな場」と「デジタルな場」をコミュニケーションスタイルに応じて用意することで、コラボレーションはより活性化されます。
効果的なコラボレーションには、ディスプレイ、ホワイトボード、紙とペン、模型やモックアップなど、頭の中のアイデアを見える形にしてみんなで議論ができるようなツールが必要になります。必要なツールは、どのようなコラボレーションするのかで変わってきます。最適なツールをみつけることは、コラボレーションの成功を大きく左右します。様々なコラボレーションの形に適応できる環境の準備が必要です。
コラボレーションは様々な分野の人が集まって行う活動です。そのため、誰もが使えるツールや環境でなければ成功しません。どんなに優秀なツールでも使いこなせるまでに何ヶ月もかかるもの、使おうとするたびに誰かの支援が必要なものは「使えない」ツールと言われてしまいます。このように、コラボレーションツールは「誰でも簡単に使える」ことが非常に重要になるのです。
チームや組織の中での情報の共有度が高いほど、コミュニケーションはスムースになり、コラボレーションは活性化します。そのためには、自然と情報やまわりの状況が共有できる環境を作るこが重要です。閉じた会議室ではなくオープンな場所に打ち合わせスペースを設置したり、人が集まるところに社員向けの情報を掲示するデジタルサイネージを設置することで、「まわりの業務の状況」や「誰が何をしているのか」が自然と共有する環境を作ることができます。
環境を用意したからといってすぐにコラボレーションがうまくいくわけではありません。しかし、コラボレーションのための環境がなければうまくいかないのも事実です。まずは身近なところから環境(すぐに集まれる場の設置・ツールの変更など)を変えてみることが、コラボレーションを促進させる近道かもしれません。
企業が競争力をあげるためには新しい価値を生み出すことが重要です。そして、「新しい価値」を生み出すのに必要なのが“コラボレーション”です。コラボレーションを促進するためには、“共有された場”でメンバー同士がアイデアを出し合い、議論することが重要となります。まずは、すぐに集まれる場の設置やツールの変更など身近なところから環境を変えてみることが、コラボレーション促進の近道になります。
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