従業員満足度を高めるとどうなる?業績につながる理由と実践方法を紹介
2025年06月24日 08:00
この記事に書いてあること
近年、「従業員満足度」の向上を図るための施策を重視する企業が増えています。なぜ従業員満足度が重要とされているのか、具体的にどうすれば向上を図れるのか、疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、従業員満足度の定義や向上を図るメリット、従業員満足度が低下することで起こり得る事態について、わかりやすく解説します。従業員満足度を高めるために、求められる取り組みとあわせて見ていきましょう。
従業員満足度(ES)とは
はじめに、従業員満足度の定義と重要視されている背景について解説します。そもそも従業員満足度とは何かを明確に理解しておくことが大切です。
従業員が職場や仕事内容に対して感じている満足度
従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)とは、従業員が職場や仕事内容に対して感じている総合的な満足度のことを指します。具体的には、職場環境や社内の人間関係、働きがい、福利厚生、給与といった要素について、従業員がどの程度満足しているかを表す指標です。
従業員満足度は、特定の要素のみ改善しても向上させるのは困難です。たとえば、給与だけを上げたとしても、長時間労働や社内の人間関係に対してストレスを感じる場面が多々あるようでは、従業員満足度は向上しません。従業員満足度には複合的な要因が関わっているという点を押さえておくことが大切です。
従業員満足度が重要視されている背景
従業員満足度が重要視されている背景には、人材の流出防止が喫緊の課題となっている企業が増えていることや、顧客満足度の向上を図る必要性が高まっていることが挙げられます。
労働人口が減少に転じた現代において、労働力の担い手不足はあらゆる業界において深刻な課題の1つです。とくに優秀な人材が退職・転職してしまった場合、組織全体に大きな影響が及ぶことも十分に考えられます。こうした事態に陥らないようにするには、高い従業員満足度を維持していかなくてはなりません。
また、従業員満足度の向上は結果的に顧客満足度の向上にもつながります。すべての従業員が当事者意識をもって業務を遂行することにより、顧客対応の質が向上するからです。自身が所属する組織やその環境に対してポジティブな感情を抱けるからこそ、質の高い仕事ができるという考え方が、従業員満足度を重視する風潮へとつながっています。
従業員満足度の向上を図るメリット

従業員満足度の向上を図ることによって、次に挙げる3つのメリットを得られます。
- ・生産性の向上につながる
- ・人材の流出防止と優秀な人材確保につながる
- ・顧客満足度の向上につながる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
生産性の向上につながる
1つ目のメリットは、生産性の向上につながることです。従業員満足度が高い状態を維持できれば、必然的に従業員のモチベーションも向上していきます。各従業員が担当業務に専念し、高い集中力をもってミッション達成を目指した結果、正当に評価されるという経験を積み重ねていくことになるからです。
また、社内の人間関係が良好な状態に保たれていれば、緊密に連絡を取り合い、情報を共有し合えるため、結果的に業務の質が高くなりやすいというメリットもあります。結果として業務の3M(ムリ・ムダ・ムラ)が解消され、生産性が向上していくでしょう。
人材の流出防止と優秀な人材確保につながる
人材の流出を防ぐとともに、優秀な人材の確保がしやすくなるというメリットもあります。従業員が長く働き続けたいと本心から思える職場では人が辞めにくく、離職率が低くなっていくのが一般的です。現状に不満を抱いて退職する従業員が減少することで、突発的な欠員やそれに伴う業務量の増加が生じる懸念もなくなります。
また、従業員の評判が良い職場は、対外的にも魅力的な職場として映る可能性が高いと考えられます。優秀な人材にとって能力を発揮しやすい環境となるため、結果的に能力の高い人材が集まりやすくなっていくでしょう。
顧客満足度の向上につながる
従業員満足度の向上は、顧客満足度の向上とも密接に関わり合っています。従業員が自社の商品・サービスを主体的に理解しようと努めるようになることで、提供する商品・サービスへの愛着が深まっていくからです。会社側から指示されている必要最小限の仕事をこなすだけでなく、自ら創意工夫を凝らし、質の高い仕事をするようになっていきます。
担当者の心がけ次第で顧客の反応が大きく変わるケースは少なくありません。自身の仕事に誇りをもち、丁寧に対応しようと心がけるからこそ、質の高い顧客対応を維持できます。従業員満足度の向上を図ることは、顧客満足度を高めていくためにも欠かせない施策の1つです。
従業員満足度が低い職場で起こりがちなこと
従業員満足度が低い状態が続くと、職場ではどのような事態が発生しやすくなるのでしょうか。現状の従業員満足度を推し量る目安として、下記のような事態が発生していないかチェックしてみましょう。
コミュニケーションに対して消極的になる
従業員満足度が低い職場では各自が不満を抱えながら勤務しているため、できるだけ周囲の従業員との接触を減らそうとする傾向があります。コミュニケーションを図ったとしても不満が本質的に解消されるわけではないと感じることから、コミュニケーションの意義が見出せなくなってしまうケースも少なくありません。その結果、必要最小限の報告・連絡・相談しかしない職場になってしまい、共通認識の形成や価値観の共有がなされない組織になりがちです。
こうした状況が続くと、従業員は各自の担当業務にしか関心を示さなくなり、視野が狭くなっていきます。困っている人や悩んでいる人はますます孤立し、職場から活気が失われ、不満ばかりが高まっていく悪循環に陥りかねません。
非効率な業務が放置されやすくなる
従業員満足度が低い職場では、非効率な業務がそのまま放置されがちです。業務改善に取り組み、生産性を向上させる意義が見出せなくなっているため、担当業務に非効率な面があると気づいていてもわざわざ指摘しようとは思わなくなってしまいます。
非効率な業務の進め方を続けていれば、当然のことながら生産性は向上せず、仕事の成果や達成感も得にくくなっていきます。その結果、仕事に対するやりがいが感じられず、職場への愛着も失われていくことになりかねません。
製品やサービスの品質低下を招く
従業員満足度の低下は、製品やサービスの品質低下にもつながりかねません。従業員の当事者意識が欠如しているために、表層的な仕事の仕方をしていることに問題意識をもたなくなり、丁寧な仕事をしようという意識が失われていくからです。
たとえば、販売担当者が「接客マニュアルどおりに対応してさえいればよい」としか認識していなかった場合、どの顧客に対してもまったく同じ対応をしてしまう可能性があります。実際には、顧客によって一人ひとり異なる課題や要望を抱えているケースがほとんどでしょう。販売担当者として果たすべき役割を深く考えなくなることは、接客の質が低下する原因にもなりかねません。こうした状況が積み重なっていくうちに、サービスへの満足度が徐々に下がってしまうのです。
従業員満足度を高める上で必要な「欲求」「満足」への理解
従業員満足度を高めるための施策を講じるにあたって、従業員の「欲求」や「満足」への理解を深めておくことが重要です。従業員満足度がどのように醸成されていくかを知るには、「マズローの欲求階層説」と「ハーズバーグの二要因理論」が役立ちます。
マズローの欲求階層説

マズローの承認欲求の階層を表した図
マズローの欲求階層説は、アメリカの心理学者アブラハム・H・マズローが提唱した人間の欲求構造に関する理論です。マズローによれば、人間の欲求は階層構造になっており、低次の欲求から高次の欲求へと順に満たされていくことによって幸福度や満足度が高まっていきます。下表は、欲求の階層構造を段階ごとに示したものです。
| 階層 |
欲求 |
概要 |
|
(高)
↑
↓
(低) |
自己実現欲求 |
自分らしい人生を築いていきたいという欲求。 |
|
承認欲求 |
他者からの承認・称賛を得たいという欲求。 |
|
|
社会的欲求 |
身近な人や組織に受け入れられたいという欲求。 |
|
|
安全欲求 |
心身ともに健康で安定した暮らしを望む欲求。 |
|
|
生理的欲求 |
食欲・睡眠欲などの本能的な欲求。 |
たとえば、昇給や昇格によって日頃の努力やこれまでの成果を正当に評価することは、従業員の承認欲求を満たすことにつながります。一方で、従業員一人ひとりが自分らしい生き方を実現するには、より高次の自己実現欲求を満たしていくことが重要です。従業員が本当にやりたいことに打ち込める職場環境を実現できるよう、定期的にヒアリングや面談を実施するなどして状況を確認し、適宜改善を図っていくことが求められます。
ハーズバーグの二要因理論
ハーズバーグの二要因理論とは、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグによって提唱された理論です。ハーズバーグによれば、満足度を高めるための動機付け要因と、満足度を低下させる衛生的要因は分けて捉える必要があります。
顕著な例として「昇進したものの、仕事量が増えたために心身が疲弊してしまった」といったケースが挙げられます。昇進したことで「今まで以上に頑張ろう」と一時的に思えたとしても、「あまりにも忙しすぎる」「プライベートの時間をほとんど確保できない」といった要因が折り重なれば従業員は疲弊してしまいかねません。満足度を高めるための施策と、不満を抱く要因を減らしていく施策は同時並行で講じていくことが大切です。
従業員満足度を構成する要素
従業員満足度を構成する5大要素について解説します。いずれかの要素に偏ることのないよう、バランスよく強化していくことが重要です。
企業としての理念やビジョンへの共感
従業員のモチベーションの軸は、企業としての理念やビジョンへの共感によって形成されていきます。組織として目指している方向性や目標としているものに対して誇りを感じられるからこそ、高いモチベーションの維持が可能です。各自の担当業務と組織の理念・ビジョンがどのように結び付いているのか、丁寧に説明した上で、一人ひとりの従業員が目的意識をもって働ける職場づくりを目指していく必要があります。
マネジメントに対する納得感
従業員が所属する組織に貢献できていると実感するには、正当な評価や称賛を得ることが欠かせません。とくに評価に関しては上長が関与するケースが多いことから、マネジメントに対する納得感の有無が従業員満足度を形成する上で重要な要素となります。指揮系統が適切に機能しており、部下が各自の役割を正確に理解していること、役割を果たして組織に貢献したことが正当に評価されていることが不可欠です。
組織における自身の存在意義や社会的影響
従業員は、自分が組織に在籍していることによって貢献できている・役立っているという実感を求めています。さらには、所属する組織に貢献することが社会的に良い影響を与え、世の中のためになっていると実感できることが重要です。自社の事業が社会的にどのような役割を果たしているのか、実際に喜んでいただけた顧客や地域住民の声などを積極的に発信し、従業員に実感してもらうといった取り組みが求められるでしょう。
職場における人間関係
職場における人間関係が良好な状態に保たれているかどうかは、コミュニケーションが1つのバロメーターとなります。適切な頻度や内容のコミュニケーションが図られているか、そのための手段が確保されているか、定期的に確認していくことが大切です。必要に応じて1on1を実施したり、従業員が部門を超えて横断的に参加できる社内イベントを開催したりするなど、交流を深めるための取り組みを推進していくことが求められます。
働きやすい職場環境
働きやすい職場環境が整備されていることは、従業員が長く安心して働く上で欠かせないポイントといえます。現時点における働きやすさだけでなく、将来的にライフステージが変化した際にも、個々の状況に合わせて柔軟に対応可能な勤務体制を構築しておくことが大切です。テレワークや時短勤務などの柔軟な働き方を導入することで、働き方改革の実現と従業員満足度の向上を両立する職場づくりが期待できます。
従業員満足度を高めるための取り組み
従業員満足度を高めていくには、具体的にどのような取り組みが求められているのでしょうか。とくに重要度の高い3つのポイントを紹介します。
1. 定期的に社員の意識調査を実施する
社員が現状の職場環境についてどう感じているのか、定期的に意識調査を実施することをおすすめします。社員アンケートを通じて現状の満足度をヒアリングしたり、不満に感じている点を挙げてもらったりすることにより、改善が必要な点が可視化されるからです。
意識調査は一度実施するだけでなく、継続的に調査することによって社員の意識の変化が確認できます。不満が解消されているかどうかによって、現状の取り組みが効果的なものであるかどうかを適切に評価できる点が大きなメリットです。
2. 企業ビジョンの共有化を図る

自社の理念やビジョンをあらためて浸透させていくための取り組みも不可欠です。主に上長と部下との間で行われる1on1面談や、経営層によるトップキャラバンといった機会を設け、自社の理念やビジョンを伝えていくことをおすすめします。
理念・ビジョンを浸透させる取り組みの1つとして、ワークショップを開催する方法もあります。従業員が自ら考え、チームで意見交換を行いながら理念・ビジョンへの理解を自然な形で深められるからです。
3. 仕組みの整備を強化する
業務効率化につながるシステムの導入や評価方法の見直し、福利厚生の充実化といった、仕組みの整備を強化することも重要です。仕組みが整備されることによって仕事を進めやすくなるだけでなく、企業側が従業員の働きやすさを考慮しているというメッセージを伝える効果も期待できます。テレワークや時短勤務といった勤務体制を整備する際には、多様な働き方に対応する評価方法もあわせて検討し、従業員の納得感を高めていくことが重要です。
従業員満足度の向上は組織力の強化につながる
従業員満足度を高めていくことは、組織への帰属意識や自発的な業務改善、さらには顧客対応の質の向上といった多くの効果をもたらします。裏を返すと、従業員満足度の低下は組織力の低迷や顧客満足度の失墜へとつながりかねません。従業員満足度の向上は、働きやすい職場づくりの第一歩です。今回ご紹介した内容をヒントに、働き方改革を加速させる取り組みをぜひ始めてみてください。
記事執筆
バックオフィスラボ編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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