製造業(機械)

生産工程をカメラで可視化、品質向上につなげる。ロボット製造にも挑戦し、未来への布石も 常盤製作所(神奈川県)

From: 中小企業応援サイト

2023年04月03日 06:00

この記事に書いてあること

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産経ニュース エディトリアルチーム

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チェーンが回転して木を切り倒すチェンソーは、自然が豊かな日本で古くから営まれている林業には絶対に欠かせない機器だ。丸いノコギリが回って草を刈る刈払い機も、雑草が生い茂る土地を整備する道具として、日本に限らず世界中で使われている。いずれも使いやすさが求められる上に、安全性も重要となるこうした機器に使われるシャフトやギアといった部品にも、同じように高い耐久性が求められる。(トップ画像:工作機械がずらりと並ぶ常盤製作所の工場)

「折れたり欠けたりすれば使っている人に危険が及びます。高精度で高品質の部品を供給する必要があるのです」と話すのは、神奈川県鎌倉市でこうした林業用や農作業用機械向けの部品を製造している株式会社常盤製作所の加藤寛代表取締役社長だ。

株式会社常盤製作所の看板と加藤寛代表取締役社長

株式会社常盤製作所の看板と加藤寛代表取締役社長

チェンソーなどに使われる部品を高精度で加工・製造

「自動車のエンジン部品なら1分間に2,000回転くらいですが、こうした農林業向けの機器は1分間に1万回転くらいで回ります。それだけ欠けたりすり減ったりする可能性も高くなるので、品質がより重要になってきます」(加藤社長)。ハイレベルの部品を求められる分野だが、同社は幾つもの大手電動工具メーカーや、工作機械向けの部品メーカーを顧客に持って事業を展開している。作っている部品への信頼の表れと言えるだろう。

常盤製作所が製造しているギアケースやクラッチドラム、シャフト
常盤製作所が製造しているギアケースやクラッチドラム、シャフト
常盤製作所が製造しているギアケースやクラッチドラム、シャフト

常盤製作所が製造しているギアケースやクラッチドラム、シャフト

同社の創業は1956年で、当初はネジの加工を手掛けていた。農機具メーカー向けの部品を受注するようになったことで、エンジンの回転を伝えるシャフトやクラッチドラム、ギアといった部品の製造を中心に行うようになっていった。ホームページの製品情報を見ると、刈払い機の棒の先端に付いていて、エンジンの回転を丸いノコギリに伝えるギアケースのような部品もあれば、回転数や回転の方向を変えるギアもある。大小さまざまな部品が、新潟工場での生産から鎌倉市にある本社工場での加工を経て送り出されている。

コロナ禍で多くの企業が需要の低迷から生産をダウンさせた中で、同社は「逆に需要が伸びました」(加藤社長)。理由はいわゆる“巣ごもり”からのDIYブームだ。オフィスへ毎日通っていた状況がコロナによるテレワークの導入によって変わり、家の中に目を向ける機会が増え、庭木などの手入れをしたいという人が大勢現れた。この結果、「刈払い機や草刈機の需要が伸びて部品の製造も増えました」(加藤社長)。もっとも、ある種の先取り需要に近いところもあるため、コロナが落ち着いた今は逆に、慎重なスタンスで臨む必要が出てきているという。

カメラで生産工程を監視しトラブルをすばやく察知

慎重なスタンスとは、より高品質の製品を、品質に見合ったコストで、しっかりと納期を守って製造することだ。その実行のために同社では、カメラを通して生産工程を可視化して把握するシステムを取り入れた。工場内で動いている何台もの工作機械を見守るように取り付けたカメラが、それぞれの生産工程を常時ウォッチしていて、いつもと違った動きがあればすぐに知らせてくれる。これによって不良品が作り続けられるような事態を防いだり、録画された映像を確認することで、何が問題だったかを容易に洗い出したりできるようになった。

稼働する機械をカメラで常時監視して異常がないかを見守る

稼働する機械をカメラで常時監視して異常がないかを見守る

工場内に設置された生産工程監視システム

工場内に設置された生産工程監視システム

「機械にはりついて製造工程を監視していた人員も減らすことができました」(加藤社長)。工場内の自動化を進めて作業に携わる人員の数を少なくし、全体のコストを下げようとしても、その機械自体の監視に人手を割いていては本末転倒になってしまう。生産工程可視化システムの導入は、コストの削減と品質の安定化を同時に行って、同社が目指していた効率化を実現した。

検査装置を導入して品質管理も強化

高額だが精度の高い検査機器も導入して、製造した部品のチェックも今まで以上に厳密に行うようにした。取り扱っている部品点数が多いため、そのすべてを迅速にチェックできるようになるまでにはしばらくかかりそうだが、部品ごとに必要な検査用のデータをすばやく読み出せるようになっていけば、効率化も図れるようになる。「何か適切な方法があれば探して導入を検討したいですね」(加藤社長)と、進化に対しても前向きだ。こうした柔軟なスタンスが、世界との競争もある農林業の機械器具向け部品製造の世界で同社を重要なポジションに置き続けている。

各社の検査装置を導入して品質向上に努めている

各社の検査装置を導入して品質向上に努めている

図面のデジタル化を進め事務処理のRPA(自動化)にも取り組む

企業によっては、製造する部品の図面をデジタル化してサーバーに保管し、常に最新のバージョンのデータを手早く取り出せるようにする作業を、ようやく始めたばかりのところもある。事業を立ち上げ大きくしてきた創業者やベテランの従業員たちが持つ“勘と経験”に頼っていても事業が回っていた時代もあるが、業容が大きくなって製造する部品が増えてくると、それだけ管理も大変になってしまう。

「当社では20年以上前から、図面はデジタル化してサーバーに入れるようにしました」(加藤社長)。そうしておけば、サーバーで必要な図面をさっと取り出し、必要ならプリントアウトして作業の現場まで持っていくことができる。CADのような精緻な図面ではなく、印刷物をPDF化しただけのものでも、デジタル化さえされていれば扱いは効率化できる。加藤社長が先代から会社を引き継いだのは2022年10月と最近のことだが、20年前に働き始めた頃からDXの必要性に気づき、取り組んできた成果と言える。

工場内にもパソコンが置かれ様々なデータを閲覧できる

工場内にもパソコンが置かれ様々なデータを閲覧できる

こうした気風で、今も効率化に向けたITCの活用を探り続けている。その一つが、バックオフィス業務をロボットによって自動的に行うようにするRPA化の取り組みだ。プログラムを作り、購買や経理といった月次のデータを、パソコン上に作ったExcelに自動的に入れていくように命令することで、「毎月行うルーティーンワークにかかっていた人手を減らすことができます」(加藤社長)。事務処理における革新的な仕組みに目をつけ、いち早く取り入れようとしているところが実に目ざといと言える。

次世代を担う若者の夢の実現と企業の未来のためにロボット開発を共同で推進

「感謝 情熱 創造」をモットーに

「感謝 情熱 創造」をモットーに

2022年末から、福島県にある企業やコンサルティング会社などと共同でオリジナルのロボットを作ろうとする取り組みを始めた。「当社が持っている精密なギアやシャフトを製造する技術と、導入済みの5軸マシニングセンターを活用すれば、たいていのものは作れるのではないかと考えています」(加藤社長)。展示会に出して製品として売り込み、収益につながる可能性も見据えてはいるが、一方に世の中の人が面白いと感じる製品を出していくことで、従業員のモチベーションが高まり、「自分も面白いことがしたい」と優れた人材が入ってきてくれるといった狙いも持っている。

加藤寛社長

加藤寛社長

「いずれ工場も大半が自動化されて、オペレーターもロボットになっていくでしょう。そうした時代に日本の中小企業が生き残っていくためには、量産加工品を作る部門でロボット化を進めると同時に、職人が手作業によって一品ものを作り上げるような分業を行えるようにする必要があります」(加藤社長)。共同事業によって作り出すロボットも、まずは自社内で活用して効率化につなげつつ、そこで得たノウハウを活かした新しいプロジェクトを、自分たちで企画して進めていけるような設備と人材を整える。

ロボットというと、夢はあるが危うさを持ったプロジェクトのイメージだが、加藤社長の考えは「持っているリソース」をしっかりと把握し、着実に進めていこうとしている印象だ。その先に、新時代を切り開いていく中小企業の姿が見えているようだ。

株式会社常盤製作所

株式会社常盤製作所

事業概要

会社名

株式会社常盤製作所

住所

神奈川県鎌倉市植木709-1

電話

0467-46-0711

HP

https://tokiwa-mfg.jp/

設立

1980年9月(創業 1956年4月)

従業員数

70人

事業内容

小型汎用エンジン周辺部品、チェンソー・刈払い機などのエンジン、機械部品の受注生産

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