製造業(機械)

板取システム先行導入で事業拡大 技術伝承に動画マニュアル作成システム導入 野原商行(静岡県)

From: 中小企業応援サイト

2023年05月19日 06:00

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1963年に鋼板の加工販売を始めた野原商行株式会社は、加工する鋼板の種類を増やして事業を拡大。1989年には、同業者が全国から視察に来るほど先進的な板取(いたどり)システムを導入して作業を効率化させた。ICTの新規導入は、5年ほど前から複合機による文書管理を進めたほか、昨年には技術伝承やヒヤリハット防止のための動画マニュアル作成システムを導入し、事業拡大基盤を整え始めた。(TOP写真:動画マニュアルの必要性を話す野原一城常務取締役)

個人事業として鋼板加工業を開始

野原商行株式会社は1963年1月、野原準一氏(野原常務の祖父)が静岡市で創業。個人事業として工場をつくり、自動車などに使われる冷延鋼板、熱延鋼板を小売先の希望するサイズに加工、販売し始めた。

野原準一氏が個人事業として創業した当時の様子

野原準一氏が個人事業として創業した当時の様子

1968年には野原商行株式会社を設立して、同市内に本格的な工場を建設。4年後には同市内に2つ目の工場を設立、1978年には同市内の会社より事業継承するなどして、事業を拡大させた。
加工する鋼板も冷延や熱延だけでなく、表面処理された鋼板、家電製品に使われるプレコート鋼板の扱いも始めた。大手家電メーカーとの取引も増え、1985年には静岡県藤枝市の現在地に事務所を移転させ、当時3つあった工場を集約して事業基盤を確立した。

工場を集約して本社事務所が現在位置に移転した1985年当時の写真

工場を集約して本社事務所が現在位置に移転した1985年当時の写真

業界初の板取システムを導入

1989年に導入した板取システムは、増加する受注処理業務を省力化するためと、鋼板から最も効率的な板取(商品の加工、切り出し)方法を自動で作成するために導入した。導入にあたっては、システム開発会社にさまざまな注文を出して「完全オリジナルなシステム」(野原一城常務取締役)としてでき上がった。 その性能はすばらしく、例えばAという商品10個とBという商品20個を取り出す(板取りする)最適な方法を作成。手書きだった加工依頼書も自動化され、作業効率が大幅に高まった。

コイル状の鋼板から切り出され、ベルトコンベヤー上を流れていく加工済の商品。板取システムによってムダのないよう切り出されている

コイル状の鋼板から切り出され、ベルトコンベヤー上を流れていく加工済の商品。板取システムによってムダのないよう切り出されている

このシステムには同業者も注目し、全国から視察に来たというが、野原常務は「先進的な取り組みはここがピーク。板取システムの計算時間は瞬時に短縮できているが、大手がさまざまなICTを新規導入するなか、目新しい設備の導入は長らくなかった」という。

廃業した同業者の設備と取引先を得て飛躍

ICTの導入は進まなかったが、家電製品用プレコート鋼板の加工事業はその後も伸び、1991年と1998年に工場を増設。2000年には廃業した同業者の設備を買い取り、同業者の持っていた販売ルートも得て事業は拡大した。

工場内にはさまざまなタイプのコイル状の鋼板が保管されている

工場内にはさまざまなタイプのコイル状の鋼板が保管されている

事業拡大の背景には、プレコート鋼板の加工事業が「扱いに手間がかかる上、高い加工技術が求められる」(野原常務)ため、競合業者が少ないこともあった。2000年頃まで40人強だった従業員は70人にまで増え、プレコート鋼板の取扱量は全国指折りになっているという。

社長が亡くなる直前の経営バトンタッチ

一連の事業拡大はすべて、創業社長の野原準一氏の力によるもの。「親分肌で従業員を率いた」(野原常務)準一氏は、2014年11月に亡くなる直前まで社長を継続。四女の野原千枝代表取締役への交代は、亡くなる2ヶ月前の9月だった。

野原商行の本社オフィス(左)と工場(奥)

野原商行の本社オフィス(左)と工場(奥)

準一氏が第一線で活躍していた2008年に入社したのが、長女、野原安佐子総務担当取締役の長男、野原常務。祖父の仕事ぶりを見ていて、子どもの頃からあこがれていた。そんな野原常務がICT導入の立役者となった。

会社のICTの遅れ、野原常務の危機感、まず複合機導入でペーパーレス化へ

野原常務が、自社のICTの遅れに「本気でやばいと思った」のは5年以上前。FAX用紙がプリントアウトされたまま放置されていたことに加え、現場の作業マニュアルが全くなく、技術伝承は口伝状態だったからだ。

システム支援会社の協力ですっきりしたオフィス。最新鋭の複合機も活躍している

システム支援会社の協力ですっきりしたオフィス。最新鋭の複合機も活躍している

このため、まず複合機の導入を提案。個人ごとのルールで管理されていた文書管理のルールを共通化させ、複合機でスキャンしたデータは個人のパソコンに保管されるようにした。FAXは現在、データで保管しながらも紙でプリントアウトされているが、近くプリントアウトはやめることにしている。また、オフィスもシステム支援会社の協力を得てレイアウト作り替えて行き来しやすくなった。

技術伝承のための動画マニュアル、数年の手探りの後に動画マニュアル作成システムを導入

一方、作業マニュアル作りは一筋縄ではいかなかった。野原常務自ら作業時の動作を動画撮影してみたが、編集にも時間がかかり、「このやり方では無理」となった。とはいえ、いい方法が見つからなかった。

そんな時、システム支援会社を通じて知ったのが、動画マニュアル作成システム。作業時の動画を細かく分割して説明文を書き加えることができ、入力したデータをパワーポイントに変換することもできた。

自ら作成した動画マニュアルをチェックする野原常務と渡辺工場長

自ら作成した動画マニュアルをチェックする野原常務と渡辺工場長

導入したのは2022年3月頃。以降、野原常務が作業状況を撮影、編集して10本近い動画マニュアルを作ってきた。作業工程ごとに動画にリンクするQRコードを載せた1枚紙の作業マニュアルも作成し、現場にいながらにして、各自のスマートフォンでマニュアル動画を見られるようにしている。

動画のQRコードを載せた作業マニュアル

動画のQRコードを載せた作業マニュアル

危険な動作を撮影した労災防止動画マニュアルも作成、「専従従業員が必要」

「作業に慣れる時間は確実に減るし、作業動作の間違い防止にも、ヒヤリハットや労災の防止にも確実につながる」。野原常務はそう確信しているが、現在、動画マニュアル作成システムを扱えるのは野原常務だけ。動画マニュアルを作成すべき作業工程は100を優に超える。ヒヤリハット防止などのため、危険な動作を撮影した労災防止動画マニュアルも加えるとさらに増える。

ヒヤリハットを防止し、労災をなくすための動画マニュアルが求められる作業現場

ヒヤリハットを防止し、労災をなくすための動画マニュアルが求められる作業現場

渡辺道雄工場長は「作業で最も怖いのは、慣れて横着になること。ヒヤリハットがあれば朝会で注意喚起しているが、危険な作業状況を映像で見せるのが一番効果的」と話す。すでに労災防止動画マニュアルも1本作り、作業員との共有勉強会も開いたが、さらに増やしたい考えだ。
このため、野原常務は「動画マニュアル作成システムやSNSを含めたICTの専任担当者が必要」と話している。

年に1回行うメンテナンスのマニュアルは機械に配置、高校生、特別支援学校生の研修にも活用

作業動画マニュアルは新入社員らが新たな作業に慣れるのにも役立つが、年に1回しかない機械のメンテナンスなどにも役立つ。1年に1回の作業は何年働いていても忘れてしまいがちだが、機械にQRコード付き作業マニュアルを配置しておけば、動画で作業手順を確認しながらメンテナンス作業ができる。また、野原商行では、高校生や特別支援学校の生徒らのインターンシップを1〜2週間にわたって実施しているが、その際にも作業動画マニュアルは生かせるという。

先代の地域への思いでゴルフ場もサッカー場も地域住民に開放

創業から今年70年となる野原商行は地域貢献にも力を注いできた。その象徴が工場に併設されたサッカー場とゴルフ練習場。地域の人たちにも開放されており、開放時間内であれば自由にサッカーやゴルフができる。

工場に併設されたサッカー場。地域住民にも開放されている

工場に併設されたサッカー場。地域住民にも開放されている

本社のある静岡県藤枝市は「サッカーのまち藤枝」を掲げるほどサッカー熱が高く、「蹴球都市」のロゴマークを作成。そのロゴマークは工場の壁を彩っている。また、野原商行にもサッカーチームが存在し、サッカー場では従業員らがボールを追いかける姿がよく見られている。

工場の壁面に描かれた「蹴球都市」のロゴマーク

工場の壁面に描かれた「蹴球都市」のロゴマーク

野原常務によると、これらの取り組みは「創業者、準一氏のイズム(思い)を大事にしている」ことから続いている。会社のホームページには、「より良い環境のもと 一歩進んだ会社を理想とし お客さまからも従業員からも信頼され より良いものを提供し 全ての取引先から感謝され 利益を分かち合える会社でなければならない」との創業理念が掲げられている。

野原商行株式会社 創業理念

野原常務が目指すのは「入ったら安心し、学ぶ場にもなる会社」。メーカー希望の若者が少ない中、「そう思ってもらえないと、入社してもらえない」とも話すが、離職者は少なく、平均勤続年数は20年を超える。野原常務の目指す姿が実現できているからだろう。
筋トレ好きな男性従業員が複数人おり、野原商行では近く敷地内にトレーニングジムを開設予定。それも、従業員を大事にする創業者の心が引き継がれているから。取引先と従業員と地域を大事にする野原商行は、取引先からも従業員からも地域からも「安心できる会社」として、今後も発展していきそうだ。

事業概要

会社名

野原商行株式会社

本社

静岡県藤枝市横内888-1

HP

http://www.nohara-shoukou.co.jp/

電話

054-643-0781

設立

1963年1月

従業員数

70人

事業内容

プレコート鋼板や表面処理鋼板、冷延・熱延鋼板の加工販売

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