リアルな生産現場で使う高速X線CTスキャナで飛躍。ICTやホームページの充実で認知促進 日本装置開発(長野県)
2023年06月02日 06:00
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長野県安曇野市で工場用検査機器の開発・製造と自動化・省力化設備の設計・製作を手掛ける日本装置開発株式会社は、X線を使ったコンピューター断層撮影(CT)検査装置を工場の生産現場に初めて持ち込んだ独自の高い技術力を備える。通常、理化学機器として研究室などの非破壊検査で使われるCT検査装置をリアルな生産現場に実装。部品などの内部構造や欠陥を可視化できる産業装置として普及促進を行っている。(TOP写真:高速X線CTスキャナの前に立つ日本装置開発の木下修代表取締役社長)
脱サラし、工場の自動化・省力化設備をファブレスで
日本装置開発株式会社は、農業機械や自動化機器のメーカーでトラクターや産業ロボットなどの設計に携わってきた木下修代表取締役社長が独立し、1996年に立ち上げた。当初は設計事務所としてスタートしたものの、機械装置の設計を受注したことを契機に、工場を持たないファブレスメーカーとして工場の自動化・省力化設備の設計・製作に事業を広げる。さらに、X線検査装置の構造部設計やX線用シールドボックスの製作を手掛け、現在主力となっている高速X線CTスキャナの自社製品化につなげてきた。
しかし、ファブレスメーカーの事業形態は大きな壁にぶち当たる。木下社長は「装置がだんだん高度化してきて、外部委託の製品ではクレームが出るようになった。重要で難しい装置は自前で必要な組立技術を作らなければいけない、ファブレスはもう限界を迎えた」と当時を振り返る。これが大きな転機となり、2007年に現在「第1試験棟」と呼んでいる自社工場を安曇野市に設けた。
自前の工場を襲った「リーマンショック」を自社製品化で乗り越える
X線CTスキャナはアルミ部品などを非破壊検査する
自社工場は、既に機構部の開発・設計を終えて1997年から手掛けてきたX線CTスキャナのOEM(相手先ブランドによる生産)に対応するのが狙いだった。ところが稼働した翌年の2008年9月には「リーマンショック」が世界経済を襲う。当然、日本装置開発にも容赦なく嵐が吹き込み、大打撃を食らった。木下社長によれば「当時はOEMがほとんど経営を支えてきた中で、OEMの納入先からの注文はなくなり、翌年には売上が半減し、そんな状態が2年ほど続いた」。
その打開策として考えたのが自社製品の開発・製作だった。ただ、産業用のX線CTスキャナは既に島津製作所、東芝といった老舗大手メーカーが存在しており、自社製品での参入は容易でない。そこで打ち出したのは、工場の生産現場向けに高温でほこりっぽい作業環境でも高速で動く機種の開発だった。工場の自動化・省力化設備の設計などで生産の現場を知り尽くした日本装置開発ならではのアプローチだった。
生産現場に初の高速X線CTスキャナ、X線CTスキャナを理化学機器から現場で使える産業装置へ変えた
新機械振興賞で受賞した「機械振興協会会長賞」の楯(右)と「第35回中小企業優秀新技術・新製品賞」の一般部門で受賞した優秀賞のトロフィー
最初の完成したCTは木下社長が言うには「クルマに例えれば軽自動車のような小さな装置」で、展示会に出品しても反響はなく、2年程度は鳴かず飛ばずの状態が続いた。ところが開発して3年後に大逆転をつかむチャンスが訪れる。
ある展示会で自動車部品メーカーのアイシン軽金属株式会社(富山県射水市)から生産するアルミ部品の全量検査をX線CTスキャナでできないかとの打診があり、最終的に設計を引き受けた。通常は30分程度かかる検査時間は高速で1分程度で済む。しかも24時間稼働可能な、木下社長いわく「スーパーカーのような装置」が完成した。これがX線CTスキャナとして工場の生産現場に初めて持ち込んだケースとなり、これこそが「X線CTスキャンを理化学機器から産業装置に」との思いにつながった瞬間だった。
この技術は高く評価され、2017年に共同開発したアイシン軽金属とともに一般財団法人機械振興協会による2016年度新機械振興賞で権威ある「機械振興協会会長賞」を受賞した。
コロナ禍に見舞われた第2試験棟 危機下でも続けた製品開発が実る
日本装置開発の第1試験棟と第2試験棟の外観
しかし、自社製品への注力は、順調に推移したとは言えない。OEMを継続しながら生産量を増やし、自社製品の売上を伸ばそうとの判断から第2試験棟の建設を計画し、第1試験棟の隣接地に新事務所棟と併せて完成したのが2020年1月だった。新型コロナウイルス感染症が全国に蔓延し始めた直後で、その後2年間は営業ができないどん底の状態が続いた。この間、手をこまねいていたわけでなく、「製品開発を続けて機種を増やした」(木下社長)。
そこで完成したのがマイクロフォーカスX線発生器を採用した高速X線CTスキャナの機種で、これは今年4月、公益財団法人りそな中小企業振興財団と日刊工業新聞社が共催する「第35回中小企業優秀新技術・新製品賞」で一般部門の優秀賞を受賞した。まさに危機下で「開発型企業」の姿勢を貫いた取り組みが実を結んだ。
さらに、日本装置開発の強みは工場の自動化設備とX線CTスキャナの両方を手掛けている点にある。「X線CTスキャナを実際に工場に据えるには、ファクトリーオートメーション(FA)を理解していないとできない」(木下社長)からで、その両方の技術・知見を備えており、ユーザーの意見をくみ取り、それを的確に反映するサービスが提供できる。
マイクロフォーカスX線発生器を採用した高速X線CTスキャナ
技術承継に向けて、技術者は責任を持ち、匠になるな。技術を具体的な効果として相手に伝えられるかが重要
一方で、事業強化には技術の継承がより重要性を増してくる。木下社長は「老舗大手メーカーと日本装置開発のX線CTスキャナはどこが違うのか」とよく聞かれるという。その際、「大手は研究者が作っている。これに対し、当社は技術者が作っている」と受け答える。その意味は、「研究者は装置に総合的ないろいろな要素を求める。これに対し、当社は例えば通常30分程度かかる検査時間を1分で可能にする、といった明確な目的に向けて設計にあたる」と木下社長はその違いを語る。
それだけに社員には常々「技術者は責任を持て。匠の職人になるな、技術者になれ」と説いている。「匠と技術者の違いは自分が手掛けたことを言葉でちゃんと説明できるかどうかだ。技術者は、技術を言語化して整理でき、相手が納得する効果を伝えられるという点で匠とは決定的に違う」という。
その上で、技術者にはデザインレビューや試験を通じて製品化に失敗しない仕組みを取り入れている。商品を作って納入する以上、英文社名「Japan Equipment Developer」の略称からとった「JED品質」の水準に達していなければ図面にOKは出さないし、装置の製作を認めないことを徹底している。
ICTソリューションツールはコストと必然性の判断で即座に導入
課題解決に向けたICT(情報通信技術)などソリューションツールの導入について、木下社長は「普段に研究し、必要と判断した時に即座に導入する。その意味では目新しいツールを先走って導入することはしないし、必要だと思ったら自前でも構築する。石橋をたたいていては前に進めない」と語る。実際、LAN、NAS、セキュリティーに関してはコストと必然性に見合った瞬間に導入した。
ソリューションツールについては早い時期から積極的に取り入れており、「ネットワークは何十年前に自前で作ったし、パソコンにしてもWindows3.1の時代にCADができるようにした。その前はオフィスコンピューターを使っていた」と木下社長は振り返る。
現在、ICTを活用する狙いについては「社員一人ひとりがいかに多くの付加価値を出していくかにある」と明確だ。現在の生産性を高めた主なツールは「極めて基本的なツールながら、社員が社内で動き回ることなく無駄が省ける」としてパソコン、複合機、社内電話、それにメール、スマートフォンを挙げる。
同社の場合、設計、製造、経理のどの部門も少人数でこなしている。このためツールの活用で業務の機能性を高め、無駄と考える作業を減らした。その結果、仕事がスピードアップし、課題解決に向けた時間とコストが下がるという成果につながっている。「大事なことはソリューションツールを使いこなす立場にいられるか、使われる立場になるか」であり、今後は発注・納品・検収・経理の伝票処理のデジタル化に取り組む方針だ。
製品専用ホームページを開設し、特徴あるX線CTスキャナへの認知度を高めるため、機能や役割を明確に表示
日本装置開発の本社屋。奥が第1試験棟で手前が第2試験棟と事務所棟
また、現在注力しているのは製品専用のホームページの作成・拡充だ。企業紹介のホームページとは別に、ホームページ作成ソフトを導入して製品情報の充実を図っている。
そこで、X線CTスキャナのメリットをきちんと理解していただくため製品専用ホームページの開設に踏み切った。今では英語版も付け加えた。そこには「大手のようにブランドはなくても、高い独自の技術は持っており」、X線CTスキャナを産業装置として普及させたい木下社長の強い思いがにじむ。
日本装置開発が掲げる企業理念は「Step by step・未来につながる技術をつくる」。開発型企業として数度の波を乗り越えながら未来への挑戦は続く。
企業概要
会社名
日本装置開発株式会社
本社
長野県安曇野市堀金鳥川1640-1
HP
http://www.jed-a.jp/company/
電話
0263-71-1222
設立
1996年
従業員数
10人
事業内容
X線CTスキャナの製造・販売、OEM商品の設計・製作、自動化・省力化設備の設計・製作
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