BCPとは?中小企業にも必要?BCP策定が必要な理由とメリットを徹底解説
2022年06月03日 06:00
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大地震、水害、そして新型コロナウイルス感染症のようなパンデミック……。経営には、いつなんどき「万一」の事態が生じるか、予測ができません。
中小企業は一般的に経営資源に乏しいため、大きな災害に見舞われたとき、復旧が長期化したり、場合によってはそのまま廃業に追い込まれてしまったりすることもあります。
そうなると、自社従業員のみならず、取引先や地域経済にも甚大な被害を与える恐れがあります。そこで、被災からの速やかな復旧と、スムーズな事業の継続を目指すためのBCP(事業継続計画)の作成が、中小企業にこそ求められているのです。
本記事では、BCPとはなにかにはじまり、中小企業におけるBCPの必要性やメリットについて解説します。
そもそもBCPとは?登場の背景や感染症対策への効果。「BCM」「BCMS」の違いなど
ほとんどの経営者の方は、BCP(事業継続計画)という言葉自体は、どこかで見聞きしたことがあるでしょう。しかし、その意義について、しっかり理解している方は少ないかもしれません。
BCPは英語の「Business Continuity Plan」の略で、日本語では「事業継続計画」と訳されます。事業継続といっても、平時のそれではなく、大災害などの非常事態の際に、いかにして短期間に事業を再開させるかという計画のことです。
BCP登場の背景
BCPの登場は1970年代です。その頃から、コンピュータシステムが企業経営の中枢を担い始めていました。そのコンピュータシステムがダウンすると、経営上甚大な被害が生じるため、システムをダウンさせないための情報セキュリティ―上の一分野として、BCPが注目され始めました。
日本でBCPが強く認識されるようになったのは、2001年9月に起こったアメリカの同時多発テロがきっかけだといわれています。ニューヨークの世界貿易センター近くに合ったメリルリンチをはじめとする企業が、準備していたBCPに沿って、予め準備していたバックアップオフィスを活用することによって、事業の中断を最小限に抑えることができたといわれたことから、注目されました。
その後、日本でも2011年3月11日に東北大震災が発生し、多くの企業が事業の中断を余儀なくされ、BCPに対する関心がさらに高まっていきました。
さらに、近年多発している異常天候による水害、また、新型コロナウイルス感染症のまん延などにより、年々、BCPの注目度が高まってきています。
そのため現在では、大企業や地方自治体ではある程度BCP策定は進んでいます。しかし、中小企業ではまだその導入はあまり進んでいないのが現実です。
そこで、国(経済産業省)では、中小企業強靱化法による「事業継続力強化計画認定制度」を制定し、中小企業に対してその導入推進を図っています。
BCPと通常の防災計画とはどう違うのか?
BCPとよく混同されるものに、「防災計画」というものがあります。災害に対する備えという点では共通する部分もありますが、防災計画は災害の被害を最小限に抑えることが目的です。一方、BCPでは被害そのものの最小化も含みますが、事業の早期復旧や継続が主な目的とされます。
つまり、BCPとは、防災計画より広い範囲を含む概念であるといえます。
新型コロナウイルス感染症にもBCPは役に立つ?
従業員が新型コロナウイルスに感染した場合、本人の健康上のダメージもさることながら、社内の他の従業員が濃厚接触者として欠勤を余儀なくされたり、会社設備や店舗の消毒清掃、休店などの措置が求められたりすることにもなります。会社の規模や業種にもよりますが、小規模の飲食店などの事業であれば、影響はかなり大きくなるでしょう。
そこで、自然災害と同様に、感染症の場合もBCPは活用されるべきものです。国(経済産業省)や地方自治体などでも、企業に対して、積極的にBCP策定を要請しています。
【参考】経済産業省Webサイト:コロナ禍における事業継続に向けたBCP(事業継続計画)の公表・登録
これは、コロナ禍において事業継続が課題となる事業者が増える中で、国として事業者に対して、感染症に対応したBCP(事業継続計画)の策定・点検、着実な実行を依頼するものです。
そして、単に国から「お願い」をするだけではなく、BCPを策定し積極的に公表している企業は、経産省のWebサイトに登録、公表されるような仕組みが作られています。
いわば、この企業はBCPに取り組んでいますよという「お墨付き」が経産省から与えられ、公表されるわけです。
BCPの策定は、その企業を取り巻くステークホルダーにとっても有意義なものであるため、そのような「お墨付き」が与えられることは、その企業の信頼性を高めることにもつながります。
BCPと「BCM」「BCMS」との違い
BCPには関連した用語がいくつかあります。このことが、「BCPは難しいもの」というイメージにつながっているようです。しかし、その違いは簡単です。
すでに述べたように、BCPは事業を継続するための計画そのものを指します。一方「BCM」は、「Business Continuity Management」の略語で、「事業継続マネジメント」という意味です。BCPを計画し、実行し、その結果を検証するプロセス全体のことを指します。つまりBCPも含めた、BCPより広い対象を指すものということになります。
さらに、BCMSとは「Business Continuity Management System」の略語で、「事業継続マネジメントシステム」という意味です。様々な環境の変化に対し、BCPを最新で有効に維持・管理する仕組み、つまり、BCMを運用していく仕組みのことです。
中小企業にもBCPが求められている4つの理由
なぜ中小企業にとってBCPが必要なのでしょうか。それには以下のような理由があります。
理由1:災害などの発生リスクが増加している
どんな時代でも、災害などの被害を受けるリスクはありえます。地震をはじめとした自然災害はもちろん、新型コロナウイルス感染症のようなパンデミック、あるいは近隣諸国での戦争や国内でのテロなどにより事業継続に影響を受ける恐れもゼロとはいえません。さらに、先日、トヨタ自動車が操業停止に追い込まれたことは記憶に新しいところですが、ランサムウェアなどのネット犯罪による被害も無視できなくなっています。年々、事業継続に影響をおよぼす様々なリスク要素が増えているのです。
特に、我が国における自然災害のリスクの高さはよく認識しておきたいところです。
国連大学の調査によると、日本は先進国の中でもっとも自然災害のリスクが高い国です。世界171か国中、リスクが高い順で17位になっています。欧米の先進国の多くは100位以下ですから、いかに日本が自然災害のリスクにさらされているかがわかります。
【参考】『日本経済新聞』2016年8月25日記事「自然災害リスク、日本17位と高く 国連大学が171カ国調査」
災害には様々な種類があり、そのレベルも軽微なものから甚大なものまでありえます。さらに、地震と津波など、複数の災害が重なる場合もあります。すべての災害やそのレベルに対応することは理想ですが、現実に対応することは困難です。
企業の立地や規模、業界特性に応じて、可能性の高い災害を特定・想定してBCPを策定することが現実的でしょう。
理由2:取引先からの信頼の確保
災害時に製品や部品の供給を止めてしまえば、製品を納入している取引先からの信用が失われる可能性があります。特に、サプライチェーンを組織するような製造業では、この点は重要な要素です。
もちろん、BCPを策定していたとしても、自然災害という不可抗力により操業が不可能になることはありえます。しかし、しっかりしたBCPを策定し、災害時にも事業継続ができる準備を整えていれば、その可能性を大きく減らすことはできます。そして、そういった対策・準備を実施していること自体が、取引先からの信頼につながるはずです。
理由3:安定した雇用の確保
災害時に、事業が長期間にわたってストップしてしまえば、従業員の雇用を続けることも困難になります。一度従業員がいなくなってしまえば、事業を再開できる状態になっても、再び雇用することは大変です。BCPにより事業継続の準備をしておけば、被災時の雇用の確保が可能になります。
さらに、BCPを念頭に、テレワークなどの方法で労働が代替できるようにしておくと、平時においても、遠隔地勤務やパート勤務などの多様で柔軟な雇用形態が可能になり、安定した労働力の確保にも結びつきます。
理由4:地域や産業への影響
個々の企業において、BCPがしっかり策定されていれば、広範囲におよぶ大規模な災害が発生した場合も、早期に、地域の産業の立ち直りが実現できるでしょう。それは地域経済と地域住民の生活を守ること、ひいては国全体でみた産業サプライチェーンの維持にもつながります。
中小企業がBCPを策定することで得られる3つのメリット
BCPは、災害という有事に備えた対策であり「マイナスを少なくするもの」というイメージがあります。しかし、BCPの策定プロセスを通じて平時の経営におけるプラスの効用も期待できます。
メリット1:長期的に企業体質の強化が図れる
BCPを策定する際、その出発点として、現状の事業上の優先順位やリスクを洗い出して、分析します。そのことが、従来の仕事の仕方を見直すよいきっかけとなるのです。たとえば、各工程の業務手順に重複や無駄があったり、特定の担当者に属人的に業務が集中していたりすることが判明したりします。
中小企業は、基本的に経営資源(人、もの、カネ、情報)が不足しています。BCP策定をきっかけに、業務プロセスや経営資源の配分を見直すことで、長期的にみた経営体質の強化が図れます。
メリット2:働き方改革やDXへの対応を進めやすくなる
現行業務のリスクの見直しや、災害時の業務の代替手段を考えていく中で、業務プロセス自体を新しい技術や手法によって改善したり、AIなどで代替したりできることが発見できる場合もあります。いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)や働き方改革につながります。
たとえば、災害時の出勤困難に対して、クラウドサービスを使ってテレワークによる業務継続ができるのであれば、それは平時でのテレワーク実現、ひいては働き方改革につながるでしょう。
工場での製造工程においても、AIやセンサリング技術、3Dプリンタなどによるオンデマンド生産や無人生産、遠隔操業などによる、DXの可能性が検討されます。
メリット3:事業継続力強化計画を受ければ様々な特典が得られる
先にも触れましたが、国は中小企業のBCP導入を推進するため、中小企業強靱化法に基づき、中小企業が適切なBCPを策定していることを経済産業大臣が認定する「事業継続力強化計画」(一社単独)、「連携事業継続力強化計画」(複数社連携)の制度を設けています。
中小企業がBCPを策定し認定を受けると、特典として様々な支援施策が受けられます。
・認定マーク取得によるビジネス開拓の可能性
事業継続力強化計画の認定を受けた企業(計画認定企業)は、中小企業庁のホームページで企業名が公開されるとともに、認定ロゴマークを使用することができるようになります。
たとえば、サプライチェーンの継続性を重視する企業にとっては、発注先の企業がこの認定を受けていれば、被災時の事業継続性が高いと判断できるため、認定を受けていない企業よりも発注しやすくなります。新規取引先の開拓にも、既存取引先との関係強化にも、直接役立ちます。
・BCP策定に対する金融支援、税制措置、補助金の優先採択等の支援施策
【融資】
認定を受けている企業は、日本政策信用金庫の低利融資を受けられます(要審査)。また、銀行などの民間金融機関から融資を受ける際の信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等(通常枠)とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。
【税制】
中小企業防災・減災投資促進税制により、認定計画に記載された対象設備(自家発電設備など)を、取得等をして事業の用に供した場合に、特別償却20%(令和5年4月1日以後に取得等をする対象設備は特別償却18%)が適用できます。通常の定額法による償却よりも早期に、多額の減価償却費を計上できることとなります。
【補助金の加点】
認定を受けた事業者は、「ものづくり補助金」等の一部の補助金において、審査の時に、加点を受けられます。そのため、補助金の交付審査に採択されやすくなります。
まとめ
中小企業にとってBCPの策定は単なる防災対策ではなく、業務の見直しを通じた企業体質の強化や、働き方改革、DXの推進、さらにはBCPを活用した取引先開拓など、平時におけるメリットも多くある取り組みです。
ハードルは低くはないですが、事業継続力強化計画の認定を受けることができれば、優遇融資などの特典もプラスで享受できます。
かんたんにBCPのひな形ができる、BCP策定のワークシートをご用意しました。こちらから無料でダウンロードし、実際に印刷してお手もとで記入しながら、自社のBCPを策定してみてください。
これを機に、BCP策定に取り組んでみてはいかがでしょうか。
記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報はFacebookにてお知らせいたします。
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