製造業の若手育成 製造業ならではの視点で若手育成のポイントを解説
2023年02月08日 06:00
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戦後の高度経済成長期以来、一貫して日本経済を牽引してきたものづくり産業=製造業。経済のサービス化、情報化が進んだといわれる現在でも、製造業が経済全体にもたらす波及効果は大きく、日本の基幹産業であることには変わりありません。
一方、若い世代にとって、中小企業の製造業は入社前のイメージと入社後の現実とのギャップなどでとまどうことが多い業種でもあります。
本記事ではそんな製造業の若手育成についてのヒントをまとめます。
製造業の若手採用、定着の現状
人材がなかなか採用できない、特に若手の採用が厳しいという悩みを抱えている中小製造業の経営者は多いでしょう。また、せっかく採用した人材が、辞めてしまうことをどうにかできないかという声もしばしば聞かれます。
ただし、厚生労働省が公表している「雇用動向調査」や「新規学卒就職者の離職状況」によれば、産業別の比較において製造業の入職率・離職率は、他業種と比べると比較的低いほうです。つまり、相対的には、製造業は人材の定着率がよい業種だといえます。
それでも、製造業における新卒採用者の3年後離職率は、高卒者で27.2%(平成30年卒業)、大卒者で19.0%(同)となっており、わずかな数字とはいえません。
さらに、これは企業規模にかかわらない製造業全体の数字です。
入社後3年以内の離職率は、企業規模が小さくなるほど高くなっています。
| 事業所規模 | 高校 | 大学 |
| 5人未満 | 61.9% | 56.3% |
| 5~29人 | 52.8% | 49.4% |
| 30~99人 | 44.1% | 39.1% |
| 100~499人 | 35.9% | 31.8% |
| 500~999人 | 30.0% | 28.9% |
| 1,000人以上 | 25.6% | 20.7% |
このデータからも、中小企業においては、人材の離職防止、定着が大きな課題となっていることがわかります。
製造業で若手社員が辞めてしまう主な理由
中小製造業において若手人材が定着しないことには、大手企業と比べると給与水準等の待遇が低い、経営基盤が不安定であるといった、一般的な中小企業における状況とは別に、製造業ならではの理由があります。
会社の目指す理念、ビジョンと、社員の価値観との相違
若手社員の離職理由として上位にあげられるのが「仕事にやりがいが感じられない」というものです。
この場合、職務の内容そのものが要因であることは少ないのです。社員が会社として目指しているビジョンや理念に共感しており、その実現に向けた職務の意味を理解していれば、職務内容にかかわらず、やりがいが感じられないということにはならないためです。
つまり、根本的な要因は、会社の理念やビジョンと、社員個人の目指すもののズレが大きく、価値観が共感できていないことなのです。
入社前のイメージと実際の業務とのギャップ
入社前に抱いていたイメージと、入社後の実際の仕事にギャップがあることも、離職理由になります。
現在、中小企業といえども、多くの製造業の現場では、CADによる設計、コンピュータ数値制御の工作機械(CNC)による加工などがおこなわれています。
そこで中核的な業務を担える人材として求められるのは、数学やプログラミングに対する基礎的な素養を持ち、積極的に新しいことを学びながら、知識、技能を吸収していくような人材でしょう。
一方、中小企業の製造業での就業を希望する人には、知識の取得よりは身体を動かす作業を好んだり、ルーティーンワークの単純労働に近いイメージを想定したりしている人も少なくありません。もちろん、製造業においても、検品作業などそのような単純内容の業務もありますが、それらは徐々にAIやロボットに置き換わりつつあります。
製造業で若手社員の早期離職を防ぐための採用の考え方
大学の工学系の学部、あるいは高専などで専門的なエンジニア教育を受けた人材が、地元の中小製造業を就職先として志望することはほとんどないのが現実です。
現在では、工業高校卒業者も奪い合いとなっており、企業規模によっては採用が難しいことも多いでしょう。
そういった状況で、中小製造業が求めるべき優秀な人材の条件とは、なによりも、会社の目指す理念や価値観を理解し、それに共感できることです。その点を踏まえて、入社後にギャップを抱かせないよう、正しく業務内容を伝えて採用ができれば、早期離職率を低下させることができます。
それらを伝えるために不可欠なのが、「採用Webサイト」をしっかりと作り込むことです。
採用Webサイトの見直し
採用Webサイトでは、会社の理念や経営者の価値観を明確に表示し、「私たちのこのような理念、価値観に共鳴してくれる人材を求めます」と明言することがポイントです。その上で、採用後の業務におけるイメージギャップを埋めるための業務情報が、正確に伝わるようにします。
そもそも採用Webサイトを作っていない(一般的なコーポレートサイトしかない)であれば、採用Webサイトを作るべきです。また、採用Webサイトがあっても、上記のような情報がしっかり伝わるものになっていなければ効果は薄くなります。こういった観点から、まずは自社の採用Webサイトを見直してみましょう。
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経営理念が若手社員の定着・育成を左右する
中小製造業は下請け企業が多く、中には決まった親会社からの発注が売上のほとんどを占めるという会社もあるでしょう。そういう会社では、ビジョンや経営理念などを明確にしなくても経営を続けていくことはできるように思えます。そのため、経営理念のような文言をそもそも作っていないか、一応は掲げてはいても、死文化しているような会社も少なくありません。しかし、そのような状況の会社では、今後ますます優秀な人材の採用・定着は難しくなります。
まずは「経営理念」や「ビジョン・ミッション・バリュー」など、名前は何でも良いですが、会社が目標とする理念や価値観を明確にすることから始めましょう。
さらに、それを日々の業務における行動や考え方の基準として具体的に落とし込んだ、「行動規範」や「クレド」なども作成するべきです。
経営理念や行動規範は徹底的かつ具体的に浸透させる
「行動規範」や「クレド」は、単なる目標ではありません。経営者自身を含めた全社員の、日々の業務行動において具体的に適用されるべきものであるため、常に参照できるように、プリントした冊子などにして渡すことも必要です。
また、たとえば日々の朝礼や夕礼で、その一部を全員で読み上げるといったことをするのも、大変良い方法です。
業務での行動や判断をするときに、これは会社の理念に沿っているか、行動規範から外れていないかと常に考えられるようにしておくことが、価値観の共有を育みます。
経営理念はESGに沿ったバランスのよいものを作る
経営理念やビジョンは、経営者自身が本当に正しい、目指したいと思えることでなければなりません。そうでなければ、長い期間にわたって経営者自らが実践することはできないからです。
また、それと同時に、社会的な価値基準にも沿ったものでなければなりません。いまの時代なら、ESG(環境、社会、企業統治)の理念に沿ったものでなければならないでしょう。
極端にいえば、「儲けるためなら顧客を騙してもいい」とか「目標を達成するまでは、身体を壊してでも働く」といった、理念や行動規範を掲げるのは良くないということです。
なぜなら、「Z世代」と呼ばれる世代の人たちは、ESG的な倫理性について非常に敏感だからです。ESG的な倫理に明確に反することを強いるような文化風土のある企業は「ブラック企業」とされ、強く忌避されます。
経営者の想いと、社会的な要請のバランスが取れた経営理念や行動規範を作成しましょう。
行動規範作りは社員全員で
経営理念やビジョンは、経営者の想いを中心として作成されます。一方、行動規範やクレドと呼ばれるものは、社員全員が参加して協議しながら作成されるべきです。
その核となる部分には、もちろん経営理念がありますが、それを具体的に現場での行動や考え方にどう落とし込むかについては、やはり実際に現場で働いている社員の声を反映させないと、現実から乖離したものになりかねないためです。
また、社員がまったく参加していないところで、業務のルール作りが行われると、どうしても「押しつけられた」感じとなり、それを主体的に遂行しようという意識が薄れます。
経営者は自分を律して、社員の鑑となる
経営理念や行動規範を作成し、経営者自らがそれを遵守していくこと、また、たとえば毎朝、朝礼を実施して、行動規範を確認することなどは、経営者自身にも負担をかけるものです。
しかし、中小企業においては、少々大げさかもしれませんが、社員にとって、経営者は絶対的存在であり、その行動にならって、自分たちも行動していきます。経営者は常に社員から見られ、目標とされていることを意識して、自らの行動を律し、社員の鑑にならなければなりません。
たとえば、社員は全員9時から働いているのに、社長はいわゆる「重役出勤」で、たびたび昼近くに出社するといったことでは、やはり社員の規律は緩みます。一方、社長が必ず朝一番に出社していれば、社員も遅刻することははばかれるでしょう。
単純なことのように思えますが、中小企業においてはそのような社長の行動が社員に与える影響が極めて大きいのです。また、これは社長以外の役員などの幹部層においても同様です。
現代の中小製造業における教育制度のポイント
製造業の業務は、職人の側面もあります。そこで、以前は「背中を見て覚えろ」といった形での、以心伝心的な教育が中心となっていたこともありました。今でも、そういう文化が残っている会社もあるかもしれません。こういったやり方は、広くいえば「OJT」ですが、教える側と教えられる側とのそれぞれに、明確かつ体系的な教育の意識がないと、効率が悪いばかりか、離職率増加にも結びつきます。
Z世代などの若手社員は、一般的に高い成長意欲を持っています。これは逆にいうと、会社が自分を「成長させてくれない」と感じると、急速に意欲を失っていくということです。しっかりとした成長への見通しを示さずに「いつかお前にもわかる」といったやり方は通用しません。
成長へのキャリアパスをしっかり提示できない会社からは、若手は去っていくのです。
単能工から多能工など、キャリアパスの設定
教育の前提として、まずキャリアパスを設定します。たとえば、入社後半年、1年、3年、5年、10年など、就業期間に応じてその人にどのようになってもらいたいかという目標、およびモデルケースの設定です。
会社によって異なる部分もありますが、一般的に、中小製造業で中核的人材として求められるのは、いわゆる多能工です。
そこで、入社半年でA機械でのA作業ができる、それが身についたら1年後には、B機械でのB作業ができる、2年後にはC機械とD機械も使えるようになる、といった目標を設定します。各機械を扱える能力要件などの内容具体的に定めます。
あわせて、計画通りに技能取得が達成できない場合のフォロー制度についても、定めておきます。
属人性を排した教育内容を策定する
各段階で必要な能力を身につけてもらうために、誰が、どのような教育をおこなうのかも、定めます。
社内で各段階に必要な技能を持つ人が教育担当者として、教育を担当させます。最初の1年間などは、新人1人につき、メンター1人をつけて、すべての教育を担当させるのもよいでしょう。
ここで注意しなければならないのは、教育内容が担当者によってばらつく属人性を避けなければならない点です。そのため、教育計画の策定に先立って、社内の熟練工を集め、教育すべき技能を洗い出して、教育者用のマニュアルを策定しておく必要もあります。
社員が30名を超えたら人事評価制度が必要
技能教育制度を策定する際、それとリンクした人事評価制度もあったほうがいいでしょう。
たとえば、半期(半年)ごとなどの期間を区切って個人の技能取得目標設定を定め、期末にその達成度に応じて評価するといった、目標管理制度です。
人事評価制度については、一般的には、10名以下の規模では経営者がすべての社員を熟知できるために不要ですが、30名を超えると管理できない人数になるため、明文化された制度の必要性が高まります。
さらに、社員が100名を超えれば絶対に必要だといえるでしょう。
まとめ
ものづくりを志望する若手社員は、対人コミュニケーションが業務の中心となる営業職などに向いていないと自覚している人も少なくありません。そのような若手社員だからこそ、会社のほうから積極的に価値観や行動規範を示し、必要十分な教育環境を整えることが、製造業での若手育成の大切なポイントになるのです。
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監修
片山和也(かたやまかずや)
株式会社船井総合研究所 ものづくり支援室/DX開発推進室 ディレクター
上場企業から中堅・中小企業まで幅広くコンサルティングの実績を持つ。主な著書に「技術のある会社がなぜか儲からない本当の理由」(KADOKAWA)他、著作は優に10冊を超える。経済産業省登録 中小企業診断士。

記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報はFacebookにてお知らせいたします。
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