製造業におけるデータ活用のメリットと進め方、スマートファクトリーの実現方法
2025年03月07日 07:00
この記事に書いてあること
近年、さまざまな業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた動きが活発化しています。製造業も例外ではありません。製造現場におけるデータ活用は、業務プロセスに変革をもたらす可能性を秘めています。
今回は、製造業におけるデータ活用のメリットや具体的な活用方法、成功事例を紹介します。スマートファクトリーを実現するためのステップについても解説していますので、ぜひ参考にしてください。
製造業におけるデータ活用とは

はじめに、製造業におけるデータ活用が注目されている背景と、データを活用する目的について整理します。
データ活用が注目されている背景
製造業におけるデータ活用が注目されている背景として、DXの機運の高まりが挙げられます。データ活用は製造業だけが求められている取り組みではなく、世の中の大きな潮流の一端といえるでしょう。
厚生労働省が公表した「2024年版 ものづくり白書」では、DXによる製造機能の全体最適と事業機会の拡大が提唱されました。製造業におけるDXの取り組みには個別工程の改善に関するものが多く、製造機能の全体最適を目指す取り組みや新たな製品・サービスを創出することによる事業拡大の機会を目指す取り組みが少ない実態に言及しています。製造業におけるデータ活用は、DXの一環として取り組むべき喫緊の課題となっているのです。
参考:2024年版 ものづくり白書(令和5年度 ものづくり基盤技術の振興施策)概要│厚生労働省
データを活用する目的
製造業においてデータを活用する主な目的として、下記の3点が挙げられます。
- ・業務プロセスに変革を生み出すこと
- ・グローバル市場における競争力を強化すること
- ・優位性の確保を図ること
昨今は労働人口が減少に転じていることを踏まえると、従業員の勘や経験則に頼ったオペレーションは近い将来限界を迎える可能性が高いと想定されます。データの活用は、こうした課題や将来に向けた事業の維持・拡大を見越した施策の一環といえるでしょう。データの活用そのものが目的ではなく、あくまでも手段である点を十分に理解しておくことが重要です。
製造業におけるデータ活用のメリット
製造業においてデータを活用することは、具体的にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。主な5つのメリットについて解説します。
製造計画の精度向上と製造プロセスの最適化につながる
データにもとづいて分析・判断することにより、機器や設備の稼働状況や在庫状況を可視化できます。製造プロセスに3M(ムリ・ムダ・ムラ)が発生していないか、余剰在庫や在庫切れが生じていないかといった点を客観的に把握することにより、製造オペレーションの改善を図りやすくなる点が大きなメリットです。
こうした取り組みの積み重ねが、製造計画の精度向上と製造プロセスの最適化につながっていきます。結果として生産性の向上が実現し、製造コストの削減にもつながっていくはずです。
品質の向上・改善に寄与する
製品の品質向上や改善に役立つことも、データを活用するメリットの1つです。製造工程におけるデータの収集のみならず、出荷時・出荷後のデータもあわせて収集・分析することにより、多角的な視点から改善策を講じやすくなります。
たとえば、工場から出荷される時点では問題のなかった製品であっても、運送中の振動や衝撃、梱包・保管方法の問題などによって故障や不具合が生じる可能性があります。こうしたデータを総合的に分析することで、より実態に即した対策を講じることが可能です。
迅速な意思決定がしやすくなる
意思決定の迅速化につながることも、データを活用するメリットといえます。リアルタイムで収集されるデータを元に、今まさに進行している状況に対して適切な判断を下しやすくなるからです。
各製造部門の責任者や生産管理担当者の間で情報が共有されることにより、製造工程全体を見通した意思決定が可能になる点も大きなメリットです。結果として状況が悪化する前の段階で適切な対策を講じられるため、損害や事故が発生するリスクを最小限に抑えられます。
経営課題を正確に把握し、解決策を検討できる
データを元に判断することにより、経営課題の正確な把握や適切な解決策の検討に役立つというメリットもあります。事業の状況が可視化され、現状の経営課題を正確に把握しやすくなるからです。
たとえば、外見上大きな問題がないように映る製造プロセスにも、各工程にわずかな無駄が生じていることは十分に考えられます。データを元に製造プロセスを見直していくことで、問題点をより正確に抽出できる点が大きなメリットです。
新たなビジネスチャンスの創出につながる
データを元に課題の分析と解決策の模索を続けていく中で、自社の強みを活かせる新たな分野が見つかる場合もあります。たとえば、在庫管理を最適化する仕組みが確立されれば、その仕組み自体をサービスとして提供していくことも可能です。
厚生労働省が公表した「2024年版ものづくり白書」にも記載されているとおり、製造業におけるDXは個別の工程の改善に寄与するだけでなく、全体最適や事業機会の拡大にもつながる取り組みです。データの適切な活用を積み重ねていくことは、ビジネスモデルの大きな転換を図るきっかけにもなり得ます。
製造業における4つのデータ活用方法

製造工程において、具体的にどのようなデータの活用方法が想定されるのでしょうか。代表的な4つの活用例を紹介します。
1. 不良率改善
データの収集と分析は、不良率の改善に役立ちます。不良率を抑制することは、設備の適切な稼働率を維持し、製造原価を抑制する上で非常に重要なポイントです。誤って不良品が出荷されるようなことがあれば、取引先や顧客からの信頼を損なう結果にもなりかねません。
設備の温度や振動、製品のサイズ、表面の凹凸などをセンサーで検知することにより、目視では発見しにくかった不良を検知できる可能性が高まります。また、不良が発生する条件をデータから詳細に分析することにより、不良率を低減させることも可能です。
2. 製造プロセス最適化
データの活用は製造プロセスの最適化にも効果的です。現状ボトルネックとなっている工程をデータからあぶり出し、生産性の向上やコスト削減につなげられます。
製造プロセスが非効率になる要因の1つに、業務の属人化が挙げられます。担当者の勘や経験則によって業務が遂行されていると、品質が安定しなかったり、正確な納期を割り出せなかったりすることにもなりかねません。データにもとづく人員配置や作業分担の合理化により、潜在的にボトルネックとなっている工程を客観的に可視化できる点が大きなメリットといえます。
3. 故障予測
設備や機器から収集されたデータは、故障の予測にも役立ちます。目視や音の確認では察知できない微弱な振動や異音などをセンサーで検知することにより、故障のおそれがある箇所を早期発見できるからです。
また、過去に発生した故障や障害の履歴を分析すれば、故障のリスクが高まる前に部品を交換できるようになります。故障による製造ラインの停止を未然に防ぐとともに、保全に要していた工数を削減できる点も大きなメリットです。
4. 需要予測
データを元に市場の動向や過去の実績を分析することにより、需要予測が立てやすくなります。需要を見誤ったことによる供給不足や、余剰在庫の発生を防げる点がメリットです。
需要が増加する時期を予測しやすい季節性の製品などを除き、需要の変動を経験から予測するのは困難と言わざるを得ません。データにもとづく需要予測は、合理的な設備投資や製造計画の策定につながります。製品の適正な供給量を維持することにより、在庫の最適化を図れることは、製造業においてデータを活用する意義の1つです。
データ活用の成功事例
製造業におけるデータ活用の成功事例を紹介します。具体的な取り組み内容と、得られた効果について見ていきましょう。
手書きの生産管理版をタブレット化して情報を活用
愛知県で自動車や冷熱の部品を製造している株式会社半谷製作所??では、従業員の作業効率化や負担軽減を目的に、工場のスマート化を推進しました。
【取り組みの内容】
それまで手書きで毎日の実績を記録し、データ入力していた「生産管理板」を、タブレットに置き換えました。
【得られた効果】
製造実績データがシステムに直接記録され、工場の実績把握や異常検知のスピードが向上しました。さらに今後は、IoTに対応した設備の導入によって、生産情報や稼働情報の自動収集も実施する予定です。
中小企業白書2021 事業継続力と競争力を高めるデジタル化│中小企業庁
工作機械にIoTを導入して加工を最適化
愛知県で、自動車や産業用部品の設計・開発や金型製作を行っている久野金属工業株式会社??。複雑形状化、大型化に対するニーズが高まる金型部品の品質を確保する研磨加工の精度とスピードアップのため、スマート化に取り組んでいます。
【取り組みの内容】
人の熟練技×ロボット×ITの融合を方針として掲げ、IT活用を推進しました。工作機械をネットワークにつなぎ、加工状況を監視する仕組みを取り入れています。
【得られた効果】
作業員がスマートフォンで加工状況を監視する仕組みが構築されました。また、機械の加工データや稼働実績を照合し分析することにより、加工条件の最適化を図ることに成功しています。
「はばたく中小企業・小規模事業者300社」生産性向上│中小企業庁
業務の見える化とIT活用で効率化に成功
東京都の株式会社今野製作所??は、ジャッキの製造や板金加工を手がける企業です。3カ所の拠点の連携強化や、若手へのスキル継承という課題解決のため、2010年からIT化をスタートしました。
【取り組みの内容】
前提としてまずは不透明だった業務プロセスの見える化を行い、情報共有にITを活用しました。営業案件管理システムの導入により、社員間の情報共有を促進しました。
【得られた効果】
営業案件管理システムを通じて、ベテランも含めた社員間のスムーズな情報共有やサポートが実現しました。特注品の売上高が、同じ社員数のまま、2,000万円から9,000万円に増加するなど、業務効率化に成功しています。
株式会社今野製作所〈製造業〉 | 事例記事 | デジタル化推進ポータル(東京公社)
スマートファクトリーを実現するための5ステップ

製造業におけるデータ活用の先にあるのは、工場内の基幹システムや製造システムのほか、各生産設備がネットワークで接続された「スマートファクトリー」です。スマートファクトリーを実現するための手順を、5つのステップで紹介します。
ステップ1:自社が抱えている課題を洗い出す
第一に取り組んでおきたいことは、自社が現状抱えている課題の洗い出しです。データ活用はツールやシステムの導入を伴うケースが多いものの、これらはあくまでも手段に過ぎません。ツールやシステムの導入自体が目的化しないよう、解決すべき課題を明確にしておく必要があります。
多くの場合、解決すべき課題は1つだけではなく、複数の課題が併存している状況にあると考えられます。すべての課題を一度に解決するのが難しいようなら、優先順位を決めて取り組むことが重要です。まずは取り組みやすい課題からスモールスタートで着手し、徐々にデータ活用の範囲や規模を広げていくのも1つの考え方といえます。
ステップ2:必要なデータを収集する
解決すべき課題を絞り込んだら、次に分析に必要なデータを収集します。すでに収集・蓄積されているデータがあるか、既存のシステムや設備を調査した上で、状況を整理しましょう。
既存のデータが少ない場合や、利活用できそうなデータが存在しない場合にはデータの収集が必要です。具体的には、センサーなどデータ収集のための機材を選定し、測定すべき箇所に設置することになります。はじめから大規模な設備投資をするのではなく、優先度の高い測定箇所で測定と検証を繰り返し、導入効果を確認した上で測定範囲を広げていくのが得策です。
ステップ3:必要に応じて分析ツールを導入する
収集されたデータは膨大な量にのぼることが想定されるため、必要に応じて分析ツールを導入することをおすすめします。データの形式や種類に応じて、適切な分析ツールを導入するのがポイントです。
たとえば、故障の予兆を検知したい場合には、波形の微細な変化を確認できる解析画面を表示可能なツールが適しています。反対に、製造現場全体の稼働率などを把握したい場合には、稼働状況をリアルタイムで把握しやすいダッシュボード機能を備えたツールを選ぶとよいでしょう。
ステップ4:データを分析する
ツールを用いてデータを分析し、現状の問題点を明確にしていきます。勘や経験則に依存しない分析を可能にすることがデータ活用の目的であることから、先入観を排してデータを見ていくことが重要です。
なお、データを収集しただけで満足してしまわないよう、あらかじめ分析の工程も導入計画に組み込んでおくことをおすすめします。データにもとづく問題点の抽出と改善策の検討、改善策の実行を繰り返し、PDCAサイクルを回しながら効果を確認していくのがポイントです。
ステップ5:データ活用の範囲を拡大する
データ活用の効果が得られた事例ができたら、さらに適用範囲を拡大していくことも検討しましょう。たとえば、当初は一部の機器に限定して測定・分析・検証を実施し、効果が確認できた段階で他の機器にも適用範囲を広げていくといった進め方が想定されます。
あるいは、複数挙がった課題のうち、さらに難易度の高いテーマに取り組むのも1つの方法です。ある部門で挙げた成果を他部門の業務にも応用するなど、データ活用を網の目状に広げていくことによって、最終的には全社でのデータ活用を目指してみてはいかがでしょうか。
データ活用のメリットを活かしてスマートファクトリーの実現を目指そう
スマートファクトリーの実現と聞くと、大規模な設備投資や業務改革が不可欠な取り組みのように思えるかもしれません。しかし、製造業におけるデータ活用には限られた箇所での取り組みを徐々に拡大させていく考え方もあります。今回紹介したスマートファクトリーを実現するためのステップや、各社の成功事例を参考に、ぜひデータ活用のメリットを引き出す施策の実現を目指してください。
記事執筆
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