3DPエキスパートの読者の方からも金属3Dプリンターに関する問い合わせは非常に増えています。永らく金属3Dプリンターの本流といえばPBF方式(Powder Bed Fusion: 粉末床溶融結合方式)の金属3Dプリンターでした。近年、MEX方式(Material Extrusion: 材料押出積層方式 別名FDM方式)の金属3Dプリンターが急成長をしており出荷台数でもPBF方式を上回る勢いです。
今回取り上げるマークフォージド社のMetal Xはその金属MEX方式の代表的な機種の一つで、2017年の発表以来世界中で導入が相次ぎ、金属3Dプリンターの裾野を広げたと言われています。「Metal Xはなぜ世界中で導入が進んだのか。」「日本の製造業でどのような活用が可能なのか。」マークフォージド社の一次店として活動するデータデザイン社に世界、日本での普及状況、活用用途、の現在と今後の展望に関して詳しく解説をいただきました。
(語り手:データ・デザイン日尾 紀暁氏 聞き手:3DPエキスパート編集部)
Metal Xの造形の仕組みを教えてください。
Metal Xは3DCADで設計された部品の設計データを専用ソフトで取り込んでから、造形・脱脂・焼結の3つのプロセスで金属部品を造形します。このプロセスはMIM(Metal Injection Molding:金属射出成型)の技術を応用しているといわれています。
CAD等で作成された設計データをクラウドベースの専用ソフトウェアEigerで取り込み造形準備を行います。後工程で行われる脱脂、焼結プロセスでは造形物が約20%程度収縮します。Eigerはこうした収縮の影響を織り込んで、設計データに補正を行い、脱脂・焼結後も意図通りの仕上がりになるような造形データを自動で生成します。造形物の材質、形状、厚みなどを加味した補正データを自動で用意できる点は非常に便利です。
設計・造形準備プロセスで生成された造形データを基に、3Dプリンターが造形します。造形材料は樹脂と金属を混錬した専用フィラメントを使用しますので取り扱いが簡単な上、セラミックス系材料のサポート材を利用していることで、ワイヤーカット放電機などを使わずにビルドプレートから造形物を取り除くことができます。手作業でもサポート材の除去が可能なほど剥離が容易です。
材料フィラメントにはバインダーと呼ばれる樹脂成分が含まれているため、加温した有機溶剤に造形物を漬け込むことでバインダーを溶かしながら除去します。このプロセスを脱脂と呼びます。Metal Xでは専用の脱脂装置を用意していますが、脱脂装置もEigerが自動制御します。
最後に、焼結炉で焼き固めることで金属部品を造形します。焼結プロセスは、温度、圧力、加熱時間などを形状によって調整する必要があるノウハウが求められる工程なのですが、Metal Xは専用焼結炉をEigerが制御するため品質を一貫して維持できます。焼結後の金属は最大密度96%以上といわれておりまして、滑らかな表面精度を実現しています。
ご説明のあったMIMとの違いを教えて下さい。
MIMも造形・脱脂・焼結という3つのプロセスを経て金属部品を生産する点ではMetal Xと同じです。違いは造形プロセスにありまして、MIMは金型を使った射出成型で造形するので、精密な微細造形を高速で行うことが得意です。一方、MEX方式の3Dプリンターは金型ではなく造形を3Dプリンターで行うため、射出成型ではできない形状の造形、金型の製作プロセスが不要等、多品種少数生産向きです。また造形できる大きさにも違いがありましてMIMは小さなもの(SUSで50g以下)しか造形できないのに対し、Metal Xではより大きなものが造形できます。(Metal Xの最大造形エリアは300mm X 220mm X 180mm)
PBF方式との違いを教えて下さい。
金属粉をレーザー等で熱溶解しながら造形するPBF方式の金属3Dプリンターは、Metal XのようなMEX方式で造形し、脱脂・焼結する金属3Dプリンターと大きく3点違う点があります。
BF方式では金属粉を使用する為、窒素やアルゴンガスを充填させる防爆設備、吸い込むことで健康被害につながる可能性があるため防塵対策等MEX方式と比較して大掛かりな設備が必要となります。また高額なレーザー照射装置を備えるため装置価格が高額になりがちです。一方で、MEX方式は脱脂・焼結装置を含めても、PBF方式の金属3Dプリンターよりも装置価格が低く、大幅に初期投資を抑えることができます。
材料変更をする際に、PBF方式の場合、充填されている金属粉末をすべて回収し、その後別材料に入れ替えるという工程が必要です。この段取り替えの際に、材料の混入も懸念されるため、手軽な作業とは言えないと思います。しかしMEX方式は材料がフィラメントであるため、材料交換が簡単にでき、通常であれば10分程度で材料を変えることができ様々な材料で多品種少数生産をする、金属を使った試作品製作等に最適と考えています。
先ほどもご紹介しましたが、Metal Xはサポート材にセラミックスを利用しています。剥離に切削加工機を利用せずに手作業での剥離が可能です。この点はビルドプレートとよばれる台座から取り外す際にワイヤーカット放電機などを使って切除する必要があるPBF方式の金属3Dプリンターとくらべると手間がかからないといえると思います。
つまり安くて手軽な金属3Dプリンターというわけですね。
はい。そういう意味でミッドレンジ帯という新しいカテゴリを切り開いた3Dプリンターだと言われています。マークフォージドの発表によると2017年の発売以来、世界中で600台以上導入実績があり、年間1千万パーツ以上製造されていると言われています。日本では正確な数字は公表されていないのですが、20台以上の出荷実績があると言われています。
どんな企業がどんな用途で利用しているのでしょうか?
PBF方式は初期コストが高いため、航空・宇宙・医療等、高付加価値分野での活用が大多数を占めています。しかしMEX方式は他業種でも高いROIを得られることもあり金属での試作・治具製作を目的として裾野を広げ始めました。また特にサプライチェーンの寸断が世界的に起こったコロナ渦では、保守・補修部品製造の活用が伸びたと言われていまして、世界中で大変活用が進んだと言われています。
海外と日本で何が違うのでしょうか?
日本では既存工法の歴史は長く、技術水準、設備、品質、また受発注の仕組みも長年の改善活動で高いレベルで確立されています。しかがって3Dプリンターのメリットを活かした製造を新規で検討する際に、既存工法を置換える点で慎重になっているように感じます。また日本企業は材料技術の面で独自のノウハウを多数保有しており、マークフォージドの3Dプリンターを検討する際に自社独自の配合の材料を使いたいというお客様は多く、この点も日本の特色と聞いています。
MEX方式の金属3Dプリンターを導入する際のハードルはなんでしょうか?
PBF方式と比較すると初期投資を抑えることはできますが、装置の設置条件、仕上がり寸法の面で考慮するべき点があります。脱脂装置で用いられる有機溶剤は環境負荷が高く取扱いには注意が必要で、揮発性のガスを排出する換気設備も必要になります。また高温で金属を熱する炉を持つ焼結炉は消防法の観点から耐火扉や一定以上の天井高を備える必要があり、どこにでも気軽に設置はできません。また仕上がり寸法に関していうと、脱脂・焼結プロセスでは造形物に20%程度の収縮が発生します。あらかじめ造形用のデータの収縮を考慮して作成する必要があると言えます。
そのハードルを補う支援はご用意されているのでしょうか?
マークフォージドのMetal Xでは、3Dプリンターと連携して機能する脱脂装置と焼結装置を用意しています。そのうえで、クラウドベースの専用ソフトEigerが各プロセスを制御しています。Eigerは設計データをもとにした仕上がり状況のシミュレーションや、造形指示データの作成など造形準備のために必要な機能をもっています。造形プロセスを制御するだけでなく、脱脂・焼結プロセスで収縮することも考慮にいれた造形用データを自動で生成します。簡単にいうとあらかじめ大きく作るためのデータを自動で準備し、各プロセスを制御してくれるわけです。Eigerはクラウドベースのソフトウェアなので常に最近の機能を使うことができます。マークフォージドの創業者メンバーはCAD系ソフトハウスの大手Solidworksの出身者である点もあってか、ソフトウェア面での対応にも力を入れています。発売後も精力的に利用者のからのフィードバックを収集して改善をクラウドベースのEigerに反映しています。
方式として持っている課題をハードウェア、ソフトウェアの連携で解決していることは理解できましたが、精度にこだわる日本のユーザーの反応はいかがですか?
すでに20台以上の出荷実績があるとご紹介しましたが、積極的に取り組んでいこうというお客様も多いと感じています。導入時の初期投資額がPBF方式と比較して手が出しやすいといっても、2,000万円以上の投資です。現在も複数の商談が進行中ですが、勢いで導入効果を検討せずに導入するケースはほとんどありません。お客様が設置をする前に、どのようなアプリケーションで導入効果がきちんと数字で説明できるかをお客様とROIを算出してから装置を販売するようにしています。
研究開発で使う、というユーザーだけではなく、利益を生む設備として金属3Dプリンターが導入されているという事ですね?
はい。発売初期は研究開発の目的で、ROIよりも可能性を追求するために導入する企業が目立ちましたが、現在は一定期間で治具や試作をどの程度作ると外注に出すよりもコストメリットがあるのか、などの収支計算を事前に行ったうえで、投資をおこなっていくというケースが主流になってきました。リードタイムを短縮し、コストメリットも出す。金属3Dプリンターもそうした利益に貢献する設備として位置付けられるようになってきました。
製造業にとって設備投資は経営判断ですが、3Dプリンターへの投資の位置づけがこの数年で大きく変わってきたと感じます。「利益を削って、見えない未来に備える研究」の位置づけから、「社内用途で導入コストがペイしながら、最終部品製造を検証するツール」にまで3Dプリンターの産業用途での実用性が高まってきました。
実際に、試作部品や治具で、モノづくりが行われ始めると、設計、製造、検査という製造ラインを一気通貫したAM製造の検証も並行して行われる可能性が出てきます。こうした実際の取り組みが3年後、5年後の最終部品製造のための準備期間となって日本のものづくりを一気に変えていく素地になっていくはずです。
ライタープロフィール
3Dプリンターのポータルサイト、シェアラボニュースの編集長として、これまで200人以上の業界関係者にインタヴューを実施。3DPエキスパート編集部ではライターとして取材・記事制作を担当。
商品選定やお見積もりなど、お客様のお悩みにお答えします。
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