病院内のどこからでも医療情報を利用できるように、シンクライアント環境を導入した済生会熊本病院様。しかし、院内のすべてのプリンターアイコンがシンクライアント端末に表示されるため、目的のプリンターを選ぶのに時間がかかるだけでなく、別のプリンターに出力してしまう誤印刷の恐れがあった。さらに、シンクライアント上で動作するシステムには、特別な設定・カスタマイズが必要だった。こうした出力業務に関する院内のお困りごとを一気に解決したのが、リコーの「仮想プリンタードライバー」である。
社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院様は、地域の中核医療機関としての大きな役割を担っている。九州新幹線の全線開通などで交通の便が良くなったため、熊本県外から来院する人も増えている。地域の人々から大きな信頼を寄せられている理由は、「4つの基本方針」にある。
1つ目の「救急医療」では、専門医療チームが24時間迅速に対応し、地域の人々が安心して生活できる体制と設備を整えている。2010年には、救命救急センターに認定された。2つ目の「高度医療」では、臓器別に診療体制を整備。2007年に新設された「外来がん治療センター」では、最新の放射線治療や化学療法を実施している。「これらの治療は通院で行えますので、患者様は日常生活を続けながら、最新のがん治療を受けることができます」と、院長の副島秀久氏は話す。
3つ目の「地域医療と予防医学」では、地域の医療機関と連携して最適な治療を行うとともに、予防医療センターでの人間ドックなど病気予防と健康増進に力を注いでいる。4つ目の「医療人の育成」では、地域の医療人向けに教育プログラムを用意。地域全体の医療の質向上を図る施策を推進している。
済生会熊本病院様のこうした先進的な医療活動を支えているのがITである。2011年10月から電子カルテシステムが稼働し、放射線や検査、薬剤、医事・会計、予約・受付などの各種システムを運用。そして院内の各所には、カラーレーザープリンター「 IPSiO SP C720」/モノクロレーザープリンター「IPSiO SP 4310」、ジェルジェットプリンター「GX e3300」、複合機「imagio MP C7501」など約300台の出力機器を配置し、利便性の高い業務環境を整備してきた。
医療とITのかかわりについて、院長の副島氏は「高齢社会を迎え、医療や介護をいかに効率的に行うかが重要になっています。ITを活用すれば、医療・介護分野にイノベーションを起こすことができます」と強調する。
済生会熊本病院様の先進的なIT活用の1つに、シンクライアントシステムの導入がある。HDDを持たないシンクライアント端末は、セキュリティの強化やアプリケーションの導入・更新など運用管理の一元化に加え、端末の設置場所に制約されることなく情報を利用できるといった様々な利点がある。
シンクライアントシステム(SunRay)を導入した2008年当時、院内の端末数は約900台に達し、既存のデスクトップ端末とシンクライアント端末が混在していた。デスクトップ端末のアプリケーションやプリンタードライバーのインストール・更新は、医療情報システム室のスタッフがサポートしていたため、医師や看護師、検査技師、事務職員などの利用者は面倒な設定などをすることなく、印刷時には端末の近くにあるプリンターから出力できた。
ところが、シンクライアント端末の場合は事情が異なる。院内にある約300台のプリンターの中から、利用者自身が日ごろ使用するいくつかのプリンターをあらかじめ登録しておき、印刷時にはそれらのプリンターアイコンの中から目的の1台を選択する必要がある。シンクライアントの使用場所が複数カ所にまたがるユーザーほど、事前の登録作業と印刷時の選択作業の手間がかかる問題があった。
例えば、予防医療センターのある検査技師は、センター1階の事務所と、2階と4階の検査室の合計3カ所のプリンターを登録していた。そして、「午前中に4階の検査室で受診者の検査業務、午後に1階の事務室で仕事をする場合、シンクライアント端末の画面から該当するそれぞれのプリンターを選びなおす必要があり、印刷操作に手間がかかっていました」と、医療情報システム室の野口忠祥氏は、当時の状況を説明する。
リコーでは、済生会熊本病院様の環境や要望を詳しくヒアリングした上で、独自の「仮想プリンタードライバー」を開発した。当初のシンクライアントシステム(SunRay)に加え、2011年10月の電子カルテシステムの本格稼働に合わせて導入したシンクライアントシステム(XenDesktop)に対応した製品である。
これは、院内のすべてのシンクライアント端末とプリンターを紐付けてデータベース(テーブル)にあらかじめ登録する。そして、シンクライアント端末からの印刷要求時に仮想プリンタードライバーがデータベースと連携し、自動的に端末の近くにあるプリンターへ印刷を振り分ける仕組みだ。データベースは熊本のシステムインテグレータである株式会社ブレスが開発した。
この仮想プリンタードライバーの導入により、「シンクライアント端末の利用者が使用するプリンターの事前登録と、印刷時のプリンター選択作業が不要になりました」と、野口氏は導入効果を話す。そして、どのシンクライアント端末からでも、画面に表示された1つの仮想プリンタードライバーに対して印刷操作を実行するだけで、最寄りのプリンターに印刷できるようになり、操作ミスによる誤印刷の心配もなくなった。
使い勝手は、既存のデスクトップ端末からの印刷操作と変わらないため、利用者は端末の違いを意識することなく出力できる。「端末の近くにあるプリンターに間違いなく印刷できるので、業務の効率化に役立っています。この仕組みは秀逸だと思います」と、院長の副島氏は評価する。
システム管理者のメリットもある。その1つは、シンクライアント端末からアクセスするユーザー別の仮想デスクトップごとに、機種ごとのプリンタードライバーをインストールする必要がないため、運用管理の負担を大きく減らすことができたことである。また、仮想プリンタードライバーは、ラベルプリンターなどリコー以外のプリンターでも使えるため、院内の印刷環境全体で利用できる利点もある。
仮想プリンタードライバーの導入効果として見逃せないポイントが、もう1つある。医療情報システム室の内重氏は、「リコーの仮想プリンタードライバーがなければ、シンクライアント環境で電子カルテシステムを利用するのは難しかったと思います」と話す。済生会熊本病院様が導入した電子カルテシステムは、端末ごとに一意のプリンターアイコンを割り当てる仕組みだったからだ。シンクライアントシステム環境上では困難であった、端末の識別とプリンターアイコンの選択を上位システムの改修なしに実現できた。
その結果、電子カルテの情報と仮想プリンタードライバーが連携できるようになり、例えば、電子カルテシステムから注射オーダーをすると、「注射処方せん」が自動的に操作している端末近くのレーザープリンターに出力される。また、万が一、プリンターの紙詰りなどで印刷不可の状態となっている場合は、利用者に通知する機能なども備える。
今後、済生会熊本病院様は、他の部門システム環境にも仮想プリンタードライバーを適用する計画である。リコーは今回のノウハウを活かしながら、システム運用に合わせたプリンターの振り分けなど、医療機関のお客様の様々な要望に対応していく考えである。
医療情報システム室 室長 内重 烈様
リコーの仮想プリンタードライバーを導入したことで、シンクライアント端末からの印刷に関する課題をすべて解決できました。以前は、席を移動して検査業務をこなす場合、検査技師がプリンターを選び直す必要がありましたが、自動で近くのプリンターに出力できるため、本来の業務に集中できます。また、仮想デスクトップ側にプリンタードライバーをインストールする必要がないため、私たちシステム管理者の負荷も大きく低減されました。シンクライアント環境の印刷での困りごとを、いくつかのプリンターメーカーさんに相談しましたが、解決案を検討し提示してくれたのはリコーさんだけでした。これからもリコーさんには、院内のIT活用に関する「困りごと」を解決してくれるソリューションの提案を期待しています。
社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院