帳票などをプリンターで印刷する際に、出力先を時間帯で自動的に振り分けられたら便利になると考える医療機関は多いのではないだろうか。黒部市民病院様は、医師が電子カルテシステムでオーダーする注射箋について、日中は注射薬を払い出す薬剤部門のプリンター、薬剤部の手が足りなくなる夜間は病棟のプリンターに、それぞれ出力している。それを可能にしたのが、リコーの仮想プリンタードライバー「RICOH Printer Selector」である。
電子カルテなどICTを活用した「顔の見える診療」を推進
黒部市民病院様は1949年に、前身の下新川厚生病院として開設された。初代院長の草野久也氏が開院時に掲げた「日々念心」(医療者の研究と工夫努力に裏打ちされた患者様との心の医療)を病院憲章に定めている。県東部の中核病院として高度医療の充実をはじめ、救急医療・保健活動・在宅ケアなど包括的で高度な医療サービスを地域住民に提供してきた。
「施設の充実や研究など、日々新たなものを求めて工夫努力が大切であるという草野先生の言葉は今も生かされ、最先端の医療機器やICTを活用した医療を進めています」と、院長の竹田慎一氏は話す。例えばICTの取り組みでは、1987年にオーダーリングシステムを導入し、2003年には独自の電子カルテシステムを導入した実績がある。
黒部市民病院様は「新川医療圏の基幹病院として、地域の医療・保健・福祉施設との連携」を基本方針の1つに掲げる。「セキュリティを担保しつつ、電子カルテの情報を地域医療に役立てたいと考えています。病院間や病院と診療所間の連携を進めるために電子カルテシステムについても現在では、標準技術が求められています」と竹田院長は言う。
そこで2013年3月に電子カルテシステムを、標準技術を採用したパッケージ型のシステムに刷新した。これを機に、地域連携を推進する「新・扇状地ネット」が稼働。参加する地域の開業医は承諾が得られた患者様の電子カルテの閲覧機能に加え、オンラインで予約や紹介状・返書の管理が可能になった。今後、電子カルテの利用範囲を歯科医師や薬剤師、訪問看護師、ケアマネージャーなどに広げる計画もある。「顔の見える診療」を、ICTの活用でさらに発展させていくという。
黒部市民病院 院長
竹田 慎一 氏
夜間は手動で出力先を切り替え、病棟で注射箋を印刷
黒部市民病院様のICTの活用で欠かせない機器の1つにプリンターがある。竹田院長は、「電子カルテシステムの導入によってカルテの情報は電子化され、ペーパーレス化に貢献しています。しかし、紙が無くなることはありません」と強調する。看護師が患者様の状態を申し送りしたり、患者様にクリティカルパスを説明したりする時などは紙に印刷した方が分かりやすく、「うっかりミス」を防ぐこともできるからだ。
そこで、黒部市民病院様は紙の出力環境を整備。リコーのカラーレーザープリンター「IPSiO SP C721」やモノクロレーザープリンター「IPSiO SP6310」、「IPSiO SP4300」など、約180台のプリンターを配置し、内視鏡検査で撮影したカラー写真を報告書に張り付けてカラーレーザープリンターで印刷したり、開業医に紹介患者様の検査結果を分かりやすいカラーの印刷物で報告したりする使い方をしている。モノクロレーザープリンターは外来患者様の受診受付、処方箋の印刷など様々な場面で活躍。「高速・高精細に出力するプリンターのニーズは高く、病院内の適材適所に配置しています」と、総務課主幹 企画情報係長の荻野仁氏は述べる。
黒部市民病院様のプリンター活用で特筆できるのが、「夜間の注射箋」の出力方法である。これまでに増改築を度々行った影響で黒部市民病院様は、既存の外来棟に「調剤薬局」を、新築した東病棟に入院患者様の注射薬を払い出す「病棟薬局」を配置し、日中はそれぞれの薬局に薬剤師を配置して業務を行っている。「病棟薬局の薬剤師は、注射箋の情報を基に注射薬を払い出します。看護師は病棟に払い出された注射薬と注射箋の情報を確認し、患者様に注射を施します」と、薬剤科主査の倉田徹氏は業務の流れを説明する。
しかし、夜間になると状況が一変する。夜勤の薬剤師は1人しかいない。その薬剤師は主に「調剤薬局」で勤務しており、「病棟薬局」に薬剤師が不在になる。そのため注射箋が病棟薬局に出力されても、調剤薬局にいる薬剤師が即応するのは難しい。
そこで、黒部市民病院様は2003年当時に導入した独自の電子カルテシステムをカスタマイズし、夜間は病棟のナースステーションのプリンターに注射箋を出力する機能を追加した。「出力先を手動で切り替える機能を搭載し、長年運用してきました」と、総務課の長谷川直紀氏は述べる。
黒部市民病院 総務課
主幹 企画情報係長
荻野 仁 氏
これに対して、2013年3月に導入したパッケージ型の電子カルテシステムは、時間帯によって注射箋の出力先を振り分けることができなかった。黒部市民病院様の要望は、「従来と同じ運用ができること」(倉田氏)である。具体的には、夜間に電子カルテシステムから目的の病棟のプリンターに注射箋を出力するというものだ。
電子カルテシステムのパートナーから解決策の相談を受けたリコーは、出力先自動振り分けソリューション「RICOH Printer Selector」に、時間帯の振り分けテーブルを持たせることを提案した。電子カルテシステムが備えるスケジュール機能と連携させ、時間帯(業務時間内、業務時間外)に応じて出力するプリンターを自動的に振り分ける仕組みである。
具体的には、電子カルテシステムの注射オーダーに記載されたキーワード(病棟2Fなど)とスケジュールを紐(ひも)付け、夜間には病棟の目的のプリンターに注射箋を出力する。日中はダミーのポートを設定したアイコンに振り分けることで、印刷データを破棄する。
以前の電子カルテシステムでは、病棟薬局の業務が終了する19時に薬剤師がパソコンで出力先を切り替えていた。これに対してRICOH Printer Selectorを利用することで、設定した時間帯で自動的に出力先を振り分けられるようになった。その効果について倉田氏は、「薬剤師や看護師は従来の手順を変えることなく、目的の病棟のプリンターに出力できるので助かっています」と評価する。また竹田院長は、「時間帯による自動振り分けの仕組みは、リスク対策にもなります」と言う。日中は院内処方箋をプリンターに出力せずに、自動で注射薬を払い出す仕組みになっているため、紙で印刷することに対する払い出し重複のリスクを排除できるというわけだ。
黒部市民病院 薬剤科 主査
倉田 徹 氏
RICOH Printer Selectorは、カスタマイズしないで導入できることも特長だ。仮想プリンタードライバーとして動作するため特別なプログラムが不要で、電子カルテシステムのバージョンアップなどにも影響を与えない。また、プリンターのトラブル時にエラーを通知する機能や、問題発生時に原因究明の手立てとなるログ機能を装備。プリンターのトラブルで注射箋を出力できないと、大変な事態になるリスクがある。「これまでプリンターのトラブルはありませんが、エラー通知やログ機能は必須です」と長谷川氏は述べる。
RICOH Printer Selectorの適用範囲について荻野氏は、「医療機関にとって、時間帯で出力先を振り分けるニーズは高いと思います。例えば、薬剤師が仮眠する時間帯に病棟へ帳票を出力するなど、これまでの働き方を大きく変えることも可能です」と強調する。リコーは黒部市民病院様と同様の困りごとを抱える医療機関のお客様に対しても今後、最適な提案を行っていく考えだ。
黒部市民病院 総務課
長谷川 直紀 氏
黒部市民病院様には、リコーのカラーレーザープリンターとモノクロレーザープリンターを数多くご利用いただいています。注射箋を出力するプリンターを時間帯で振り分けたいというご要望に応えるため、電子カルテシステムのベンダーと連携して「RICOH Printer Selector」を提案しました。仮想プリンタードライバーですので、システムに依存しません。ノンカスタマイズでどのベンダーの電子カルテシステムにも対応することができますので、是非ご相談いただきたいと思います。
黒部市民病院様と同様のニーズは、ほかの医療機関にもあります。仮想プリンタードライバーによって、時間帯で出力先を振り分けられることをご存知ではない医療機関は多いと思います。「RICOH Printer Selector」と電子カルテシステムを連携させることで、医療機関の出力に対するニーズを満たせるとともに、ベンダーはプラスアルファの提案が可能になります。今後もRICOH Printer Selectorの利便性を、積極的に提案してきたいと考えています。
黒部市民病院
本ページに掲載されている情報は、2013年11月現在のものです。