鹿児島県の南南西492キロ、奄美諸島のほぼ中央に位置する徳之島。離島という地理的特性から、小規模校が多く、全小学校のうち62%が、2学年を1学級に編制した複式学級を抱えています。
こうした背景をもつ徳之島の教育現場において、リコー ユニファイドコミュニケーションシステム(RICOH UCS)とリコー インタラクティブホワイトボード(IWB)を活用した、先進的な遠隔合同授業が展開されています。ICT*で小規模校同士を効果的につなぐことで、少人数で学ぶメリットは活かしながら、複式学級の課題を克服。新たな授業スタイル「徳之島モデル」は、少子化が進む教育現場に、様々な変化・効果をもたらしています。
【導入前の課題】
【導入後の効果】
子どもの教育を第一とする精神が、地域全体に根付く、鹿児島県徳之島町。少子化を背景に、小規模校や少人数学級が増えていく中で、徳之島の教育現場では、どのようなことが課題になっていたのでしょうか。徳之島町立母間小学校の赤崎公彦先生に、お伺いしました。
「小規模校や少人数学級には、きめ細やかな個別指導ができるなど、児童が少ないからこそのメリットがあります。さらに最近では、児童一人にタブレット1台が整備されており、標準的な学校と比べると、ICT環境も恵まれているといえるでしょう。
こうしたメリットがある一方、2学年を1つの学級に編制した複式学級においては、先生が各学年を行ったり来たり“わたり”ながら授業を行うため、先生が各学年の児童を直接指導できる時間は、最大でも20分程度。1学年あたり1~2名であれば、それでも目が行き届くのですが、1学年6~7名、2学年で15名前後の複式学級となると、どうしても時間が足りません。その結果、詰め込み型の授業となり、主体的に学ぶ時間や理解を深める機会を、十分に設けられないことが、最大の課題となっていました。」
小規模校のメリットよりも、デメリットに、目が向けられがちだった、徳之島町の教育現場。“RICOH UCSとIWBを活用して、この状況を一変するような、新しい授業スタイルを実現できないだろうか。”その思いのもと、母間小学校、花徳小学校、山小学校が、一つのチームとして協働し、確立したのが「徳之島モデル」です。3校の強い思いと、リコーの商品が結びつき、全国に先例のない、複式双方向型の遠隔合同授業が誕生しました。
学校を超えて、複式学級の同学年同士をつなぎ、単式学級とほぼ同様の学習環境を実現する「徳之島モデル」。
RICOH UCSとIWBのリアルタイム性、臨場感を活かした、画期的な仕組みについて、赤崎先生にお話いただきました。
「A小学校の3・4年生の複式学級と、B小学校の3・4年生の複式学級を結んだ授業を例に説明します。
各教室を、3年生と4年生のエリアに二分する点は、通常の複式学級と同じです。違うのは、A小学校とB小学校の同学年同士をつなぎ、1つの教室で、2つの遠隔合同授業を同時に展開する点です。つまり、複式学級でありながら、原則、一人の先生が、1学年に専念します。ただ、完全に任せるのではなく、担当していない方の学年を、直接フォローする時間(わたり)も少し設けています。ですから、先生二人ともが、T1(発信側の先生)でありT2(受信側の先生)でもあるのです。1教室内で、2つの遠隔合同授業を行っているからこそ、こうした柔軟な“わたり”が可能になります。」
単式学級
複式学級
徳之島モデル
A小学校
【3年生:発信側】
RICOH UCSで、児童の様子を撮影し、B小学校へ配信。
Web会議システムで、先生が授業を行う様子を撮影し、B小学校へ配信。
【4年生:受信側】
RICOH UCSで、児童の様子を撮影し、B小学校へ配信。
Web会議システムで、B小学校の先生をスクリーンに投影。
「RICOH UCSは、児童の様子を相手校の先生や児童に伝えるために使用しています。一方、IWBは教材や資料を相手校と共有するツールとして活用しています。どちらも画像がクリアで、臨場感がありますね。だからこそ、スクリーンを通して授業を受ける受信側の児童も、集中することができるのだと思います。」
徳之島町の母間小学校、花徳小学校、山小学校において、「徳之島モデル」は、特別なイベントとしてではなく、通常の授業の一貫として、展開されています。どの学年、教科で展開されているか、引き続き赤崎先生に伺いました。
「母間小学校で、複式学級となっているのは、3・4年生と、5・6年生ですが、単式学級の1年生、2年生の遠隔合同授業でも、RICOH UCSとIWBを活用しています。単式学級になるか、複式学級になるかは、単純に児童数によって決まるものですので、『徳之島モデル』自体は、学年を問わず、展開できる授業スタイルだと思っています。
展開している教科は、国語、社会、算数、道徳、外国語活動の5教科です。基本的には2校をつないで行いますが、外国語活動では、3校をつないだ授業も展開しています。ALT(外国語指導助手)の先生が、各学校に来るのは、1ヵ月に1度だけですので、3校をつなぐことで、児童がネイティブな英語に触れる機会を増やすことが可能になります。先日は、大きなスクリーンに3校の様子を映し出し、ジェスチャーで動物の名前を当てるクイズや、ALT(外国語指導助手)の先生から発音を学ぶ授業を展開しました。」
「徳之島モデル」の展開により、どんな変化や効果が生まれているのでしょうか。
「最大の懸念であった、児童と直接対面する時間については、以前の20分程度から、2倍近くにまで伸びました。対面時間を、従来の倍近く確保できるようになったことは、期待を上まわる効果です。」
児童の様子はいかがでしょうか。
「児童に対しては、3つの効果が生まれています。一つ目は、多様な考え方に触れ、自分の考えと比較しながら、理解を深められるようになったこと。勉強の苦手な児童も、他校の児童と一緒に学ぶことに、新鮮な楽しさを感じるようで、学習意欲の向上につながっています。
2つ目は、相手に伝えようという意識が高まり、授業で発表する際、自ら工夫をするようになりました。その結果、コミュニケーション力、社会性が向上したことが、3つ目の効果です。」
赤崎先生は、「徳之島モデル」の運用は、先生の指導力向上にも、大きく寄与しているとおっしゃいます。
「『徳之島モデル』の運用には、先生同士の連携が不可欠です。そこで、RICOH UCSも活用しながら、3校で合同研修を行っているのですが、先生の少ない1校単位では実現し得なかった、幅広い意見交流や相談、研究の場ができたことで、指導技術の向上が図られているように思います。
加えて『徳之島モデル』の実践自体が、先生の指導力を高めています。画面の向こうの児童にも、集中してもらうために、先生一人ひとりが授業を工夫。そして、その手法を3校が共有することで、相乗効果が生まれ、さらなる指導力の向上、授業内容の充実が図られていきます。」
様々な効果を生み出している『徳之島モデル』ですが、先生への負荷が少し心配です。赤崎先生は、先生側の負担は軽減され、むしろ楽になったとお話くださいました。
「1学年に集中できるので、従来の複式授業に比べて、本当に楽なのです。この環境を実現する、RICOH UCSとIWBは、操作がシンプルで簡単。操作性については、100点といえます。」
徳之島町が、RICOH UCSとIWBを導入して約3年。『徳之島モデル』は確かな効果を生み出し、鹿児島県内はもちろん、全国からも関心が寄せられています。
「鹿児島県からは、画期的な取り組みとして評価いただきました。
また、少子化は離島に限った話ではなく、日本全体の社会課題ですから、『徳之島モデル』が、県内外の地域にも広がっていく可能性を感じています。私自身も、取材や講演の依頼が増え、全国的な期待の高まりを、肌で感じているところです。
『徳之島モデル』のさらなる進化と普及には、リコーさんとの連携が不可欠です。課題や可能性を共有しながら、ともに遠隔合同授業を極めていきたいと思っています。」
導入製品
■RICOH Unified Communication System P3500 6契約
■RICOH Interactive Whiteboard D6500 3台