トナーのサイズは5ミクロンほどと非常に小さく、なかには樹脂やワックスなど10種類以上の有機材料が入っています。これらの材料のトナー粒子中での分布状態は、トナーの定着や着色などの諸機能を実現する上で重要です。これまでトナー粒子中の材料の観察には、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)が用いられてきましたが、各材料をうまく特定することができませんでした。
そこで、トナーをスライスした薄い切片から、各材料によって異なるX線の吸収の度合いで各材料の分布を図示(マッピング)する走査型透過X線顕微鏡(Scanning Transmission X-ray Microscopy:STXM※1)を活用し、トナー粒子中の有機材料の分布を観察できるようにしました。この観察方法は、リコーのトナー開発において、さまざまな有機材料が設計通りに分布しているか確認するために必要不可欠となっています。この方法は、トナーだけでなく、さまざまな複合材料の中の有機物の分布の観察に用いることができます。
STXMは社外施設を利用します。
困り事 | 実践効果 |
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複合材料に含まれる各有機材料の分布が分からない。 | 有機材料の分布を30 nm(ナノメートル)の空間分解能で可視化した。これまで識別出来ていなかった複合材料に含まれる各有機材料の分布を明らかにすることで、設計した通りの材料の分布になっているか確認できるようになり、複合材料の品質向上・機能改善につながった。 |
これまでトナー粒子中の材料の観察には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いていましたが、ワックスなどの限られた材料しか観察できませんでした。そのため、設計通りのトナー品質にするためには試行錯誤が必要でした。
STXMは、有機物によって異なる炭素のX線吸収スペクトルを利用し、有機物を見分けることができる観察装置です。この装置をトナー粒子観察に適用することで、複数の有機材料を識別し、複合材料のミクロ構造を30nm(ナノメートル)の空間分解能で可視化することができました。
これにより、開発者は、トナー粒子中での各材料がどのような分布になっているかを深く理解することができるようになり、材料開発における品質向上や機能改善につながっています。
リコーは、日本にまだSTXMが無かった2000年頃から、海外の放射光施設でSTXMを活用しており、サンプルの準備や測定において独自の技術とノウハウを蓄積してきました。これにより、STXMでの観察に用いるサンプルを、ミクロトーム※2を用いて薄くきれいに作成することができ、高精度な観察結果を得ることが可能です。
また、リコーが作成するサンプルは、STXMだけでなく、TEMや走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope :SEM)でも活用できるので、複数の顕微鏡のデータを組み合わせた検証にも対応できます。これにより、SEMやTEMで観察していたときの有機成分の帰属における曖昧さをSTXM観察像と照合することによって取除くことが可能です。
ミクロトーム:透過した像を見られるように物を数百nm(ナノメートル)の厚さに薄く切断するための装置
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