企業活動の証拠として記録が重要ですが、記録はどのような情報であるべきでしょうか?
記録管理の標準であるISO15489*によると、真正な記録とは、次のことが証明できるものとされています。
そのため、記録は、関連する出来事の時点、そうでなければ、その後すぐに、その事実に関し直接知見をもつ人物によって、又はその処理を行うために常に使用しているシステムによって、作成することとされています。
これを踏まえると、税法が要求する帳簿・取引書類の保存と、電子帳簿保存法の要件は、税務署への説明のための記録管理要件であると考えて間違いがありません。
では、文書管理では、何のために文書を管理したいんでしょう?
一般に、「文書管理」の目的を社内の整理整頓と捉えたり、文書保管スペースの削減と捉えて書類を整理しようとする傾向があるようです。この場合、整理整頓されていない文書が社内に大量にあることで、どのような不具合が発生しているのか、それをどのように改善すべきなのかを意識しているケースは少ないように見受けられます。
私はある商談の中で、「社内で文書という物はスペースを占有して邪魔である。誰が読んでいるか分からない文書は、どんどん捨てれば良い。」と言う人にお会いしたたことがあります。かなり役職の高い影響力のある人でした。その企業にとって、この考えは非常に危険だと思いました。
そもそも、社内に大量にある文書は、それぞれの役割の社員がそれぞれの場面において、必要な情報を記載し、長年蓄積されてきたものです。いわば経験の蓄積情報なのです。
本来、この社内文書に記載された情報をもとに、過去の経験に学び、将来を予想して、様々な意思決定を行い、ステークホルダーに対して根拠のある説明をしていくことで、健全たる企業運営が行われていくべきです。でなければ、社員は自分の工夫のみで、新たな業務に常に臨むということを繰り返していく非効率な会社になってしまいます。
そのことに気づかずに、文書削減の名目で、一斉廃棄を実施してしまうと、取り返しのつかない経験の損失をしてしまいます。そういった貴重な文書、すなわち経験情報がオフィスに大量にあることが問題なのではなく、有効に利用できないことがそもそも企業価値の向上を妨げているのです。
あらためて、文書管理とは何を目的とすべきでしょうか?
言うまでもなく、その答えは対象の文書情報の価値にあるのです。
どういった分野の経験情報が文書に残されているのか?それがどの業務の改善や価値創造に活かせるのか?を文書ごとに考察していくことで、管理目的が見えてきます。
管理する文書が勤務台帳であったなら、目的は勤務管理ですし、文書が製造作業日報であれば目的が品質管理になるのです。
文書という中立的な用語に目を奪われてしまうと管理すべき目的を見失ってしまいます。
文書管理は企業の経験情報活用の手段であると意識することを特に経営者の皆様にお勧めしたいと思います。