令和5年12月31日をもって、電子帳簿保存法が求める電子取引保存の宥恕措置(印刷保存による罰則免除)が終了しました。以後、青色申告法人や消費税仕入控除を行う者は、法定保存期間、電子取引情報を真実性要件および可視性要件を満たして電子保存し、税務調査時に提示する必要があります。
おさらいですが、電子帳簿保存法が要件とする電子取引の真実性確保方法は、以下のどれかを採用する必要があります。
①タイムスタンプが付された後、取引情報の授受を行う
②取引情報の授受後、速やかに又はその業務の処理に係る通常の期間を経過したのち速やかにタイムスタンプを付す
③記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認できるシステム又は記録事項の訂正・削除を行うことができないシステムで取引情報の授受及び保存を行う
④正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規定に沿った運用を行う
①~③まではITを利用して真実性を確保し、④はマネジメントによって真実性確保する方法です。
電子取引の件数がそれほど多くなかったり、IT導入を躊躇する企業では④の方法を採用するケースが考えられます。
さて、④での訂正・削除の防止に関する事務処理規程の例は、国税庁の電子帳簿保存法 電子取引一問一答 問29に以下のように記載されています。
(目的)
第1条 この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第7条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を履行するため、○○において行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録を適正に保存するために必要な事項を定め、これに基づき保存することを目的とする。
(適用範囲)
第2条 この規程は、○○の全ての役員及び従業員(契約社員、パートタイマー及び派遣社員を含む。以下同じ。)に対して適用する。
(管理責任者)
第3条 この規程の管理責任者は、●●とする。
(電子取引の範囲)
第4条 当社における電子取引の範囲は以下に掲げる取引とする。
記載に当たってはその範囲を具体的に記載してください
(取引データの保存)
第5条 取引先から受領した取引関係情報及び取引相手に提供した取引関係情報のうち、第6条に定めるデータについては、保存サーバ内に△△年間保存する。
(対象となるデータ)
第6条 保存する取引関係情報は以下のとおりとする。
(運用体制)
第7条 保存する取引関係情報の管理責任者及び処理責任者は以下のとおりとする。
(訂正削除の原則禁止)
第8条 保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。
(訂正削除を行う場合)
第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。
(施行)
第10条 この規程は、令和○年○月○日から施行する。
この例文に準じて、電子取引の訂正削除を禁じた規程を制定したことで、電子取引の真実性確保対策ができたと安心されている企業が見受けられます。また、電子帳簿保存法に関するITベンダーや税理士の方々の説明において、「電子取引の真実性確保は訂正削除を禁じた事務処理規程の制定で良い」という論調が見受けられます。
しかし、要件をよく確認する必要があります。④で真実性を確保する方法は、「正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規定に沿った運用を行う」であり、要件として、規程に沿った運用を伴う必要があるのです。「電子取引の真実性確保は訂正削除を禁じた事務処理規程の制定で良い」という説明は、この規定に沿った運用を行うという要件を見落としているのです。
そもそも、税法令における国税関係帳簿書類の保存は、税務調査時に税務官が証拠として確認するための制度です。税務調査時に、保存データに訂正削除が発覚すると、訂正削除の禁止規定を制定していると主張しても意味がなく、罰則の対象となりえます。要は、現実的な電子取引の真実性確保策(規程に沿った運用)が行えるかどうかが重要なのです。
ここで、規程に沿った運用とは次のようなものが予想できます。
さて、文字にすることはたやすいのですが、どのような方法によって具体的に運用を実現すればいいでしょうか。
電子取引を扱う社員の上司(管理職)が常に目を光らせ、規程で禁じた業務処理を部下が行わないように、注意しておけばいいと考えるかもしれません。取引が発生してから経理部門へ提出するまでの作業範囲においては、従来の内部統制チェック時に、データの訂正削除が行われていないかの確認ができるかもしれません。
しかし、人による監視・管理には限界があります。経理部門員が電子取引情報の保存を開始してから、法定保存期間(7年から10年)を通してデータの訂正削除を発見するためには、保存情報の棚卸しを半年ごとに定期的に実施し続ける必要があるかもしれません。また、1か所の保存では訂正削除されてしまうと危険なため、電子取引情報を複数コピーして分散保存し続ける必要があるかもしれません。
これでは、電子取引の真実性確保のために、新たな業務工数が発生して、とても面倒になることが予想されます。
真実性確保を規程・運用で満たすというのは、簡単な方法ではないのです。
ですから、正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、それに沿った運用はなんらかの電子帳簿保存法対応支援のITツールを採用して、省人化を図るのが良い手立てです。
電子取引情報を添付して経理に提出できるワークフローや、一旦保存をすると法定保存期間訂正削除されないクラウドサービスなど、自社の業務運用に適した真実性確保のためのITツールを取捨選択しましょう。