コトづくり。モノづくり。サンプル提案でヒット率アップ
株式会社あけぼの印刷社
取締役 山田 周 氏
1946年(昭和21年)創業のあけぼの印刷社は、茨城県を中心に印刷によって最新の文化情報を提供している。2002年には茨城町工場を新設。IT時代に対応したDTPやCTPなどの印刷デジタル技術を核とするネットワーク対応の印刷技術を整備し、現在も進化を続けている。この数年において、昔ながらの御用聞き営業からの脱却を見事に果たし、提案する企業へ脱皮した。聖書印刷により、人類の情報改革に貢献し歴史に大きな影響を与えたグーテンベルグに習い、あけぼの印刷社は第二のグーテンベルグを目指しているという。
約2年前にターニングポイントを迎えたあけぼの印刷社。停滞する印刷業界の流れの中、POD(Print On Demand)活用を模索していた。すでにRICOH Proを2台導入済みで、1台は価格POP印刷にフル稼働。もう1台は、PODでの小ロット印刷やバリアブル印刷を特長として打ち出していた。「あの時点では業界内でのPODの盛り上がりを受け、これからはPODができなければ生き残れないとさえ、思っていました」と語る、山田氏。「しかし、思うようにPODの案件が増加していきません。セミナーに参加するなど試行錯誤を重ね、受注に結びつけるには提案型印刷会社へ変わらなければならないと決心。そして生み出されたのが、PODでサンプル制作し提案するというシンプルなアイデアでした」山田氏は小ロットやバリアブルにこだわらない、独自の活用法を見いだしていた。
PODの得意不得意を知る
印刷品位を上げるPPラミネーターの導入
カットができるカッティングプロッターの導入
以上の対策によって、得意先に対しスタンドPOPやスウィングPOPなどを自主提案できる体制に。
これが、得意先のハートをガッチリつかむことになる。
予期していないサンプル提案は、得意先から高い評価を受けた。「まず営業の目の色が変わり始めました。提案が受け入れられるのであれば、どのような提案がその得意先によろこばれるのか。そのために得意先の業界やそのお客様についても、自ら調べるようになってきたのです」
提案が上手くいくと、営業はさらに勉強し再提案するという。
「まずお客様に提案する事が大事。提案した商品に対するお客様の意見に耳を傾け、再考・修正。そうやって商品の完成度を向上させます」山田氏は、PODによるサンプル提案することで『コト』が始まり、『コト』はオフセット印刷による『モノ』づくりへとつながっていると語る。PODを用いた提案型ビジネスを実施して以来、オフセットで受注する案件も増加した。
この2年あまりの変化を肌で感じている営業部二課の吹野氏は、「PODであけぼの印刷社独自の強みをつくりたいという思いが大きかったですね。そんなときにサンプル提案というヒントをもらい、実践してみるとすぐに反応がありました。自分たちの提案が受け入れられるよろこびと自信。やれるという気持ちの変化がいちばん大きいです」と、笑顔で語る。
営業部では従来、印刷会社に見られる御用聞き営業を続けてきたが、現在は提案営業主軸に営業活動を実施している。また月に1回、成功・失敗事例発表会を実施し、営業部と企画部での共有化を図っている。提案によって自己啓発も進んでいるようだ。得意先の困り事に応えるためには、得意先のお客様をイメージできなければならない。そのために調査し学習していくことが、自然とマーケティングにつながっている。提案型ビジネスへの変革は、あけぼの印刷社にとって、人材の育成にも役立っている。
「自主提案により、価格競争とは違う切り口で営業する事ができるようになりました。現状に満足することなく、これからも努力していこうと思っています。」
提案がいつも評価されるわけではないが、サンプルによって得意先からは何かのリターンが得られるという。吹野氏は、それを次の提案に活かすのがポイントだと教えてくれた。
営業部 第二課
主任 吹野 博昭 氏
あけぼの印刷社にとって、サンプル提案効果が顕著な事例がある。折込チラシの制作印刷案件で、リクエストは統一感のあるチラシデザインだった。それまで取引のなかった相手に対し、統一感というリクエストを広げてとらえ、店頭でのスタンドPOP、スウィングPOPといった求められていないPOPを、チラシデザインと統一させ提案。これが得意先にとって、いいサプライズとなったのである。
「オリジナルサンプル提案はその場の空気を和ませてくれ、面白いねとの評価をもらえたときは、提案営業の手応えを感じました。この提案で折込チラシはもちろんPOPも受注できました」
自主提案することで、得意先の信頼を得ることができたと、システム・企画部企画課の倉原氏は当時の思いを語ってくれた。
システム・企画部企画課
課長 倉原 秀基 氏
RICOH ProとPPラミネーターとカッティングプロッターを使ったサンプル提案で、POD活用を成功させているあけぼの印刷社。提案は、まずやってみることが大切と語る山田氏。
「提案営業により価格競争とは違う切り口で営業でき、ビジネスが楽しくなります。実際に営業を中心に社員たちの表情が明るくなったと感じるのは、私だけではないはずです」
「印刷会社が提案型に変革していくのは、自然な流れです。将来への永続的な成長のためには、あけぼの印刷社は印刷という製造業だけではなく、サービス業的側面へもビジネス領域を拡大させていくでしょう」
山田氏は、モノをつくる技術、設備、人を守りながら、コトを起こすアイデアで、あけぼの印刷社を牽引していこいうとしている。
システム・企画部企画課 デザインチーム主任 佐藤 公治 氏
グラフィックデザインを担当している佐藤氏に伺った。
「現在、提案用のサンプルPOP制作は絶えず複数案件で同時進行しています。すべての営業が提案ありきで動いていますから、私たちの仕事も大忙しです。提案営業化に向けてデザインチームも体制強化されました。RICOH Proは、使いながら操作を覚えていくしかなかったのですが、短期間でスムーズに習得できました。使い方で困った事はとくにありません」と、操作性を高く評価してくれた。
サンプルPOP制作では、通常アートポスト220kgを使用し、RICOH Proで出力。その後PPをかけ、カッティングプロッターでカットしていくのだが、PPラミネートが片面だけでは、そりが起きるため両面PP加工するようになったとのこと。両面PP加工によりそりがなくなるだけでなく、強度も向上したという。
「実は以前から立体デザインに興味を持っていました。そこに立体POPのアイデアを、企画や営業から求められるようになってきた訳ですから、私にとってうれしい偶然です。とてもやりがいのある仕事です」
現在、さまざまなパッケージを集め参考にしているという。そこから生まれたアイデアを提案することで、社員みんなが立体デザインを意識するようになってきたことがうれしいと、佐藤氏は語った。
株式会社 あけぼの印刷社