2000年にスタートした介護保険制度は今回で第9期となります。様々な論調が存在しますが、超高齢者社会の在り方を抜本的に変えていく方向性が見えてきているのではないでしょうか。
2024年度の介護報酬改定では、前回2021年度の大きな変革のテーマを更に加速させる内容となりました。人口減少、少子高齢化は、人類の進化の1コマであり、前向きに対応すべき課題です。そして、この課題に挑む最も重要な業界が介護事業であると言えるでしょう。
目前にせまるシンギュラリティの世界で、介護事業がどのように変貌していくのか。エキサイティングでやりがいに満ち溢れた業界の未来を描くことが大切でしょう。
今回の改正は医療との同時改正となり、医療系サービスのみ6月、他は従来通り4月からの改正となります。
また、処遇改善加算の一本化等、激変を伴う事項については、業務負担増を考慮した経過措置が設けられています。
大切なのは、その期間でどのように対応スケジュールを組むかです。できる限り前倒しで取り組むことが事業の安定化につながります。
訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、居宅療養管理指導、訪問看護
改訂事項 | 経過措置 |
---|---|
介護職員等処遇改善加算(新加算体系への移行) | 経過措置1年 |
介護職員等処遇改善加算(職場環境等要件の新基準移行) | 令和7年より適用 |
介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の設置 | 経過措置3年 (施設系サービス、居住系サービス、多機能系サービス、短期入所系サービス) |
BCP策定の未実施減算 | 経過措置1年 |
協力医療機関との連携体制の構築義務化(特養、老健、介護医療院等) | 経過措置3年 |
口腔衛生管理体制加算の廃止(特定施設入居者生活介護) | 経過措置3年 |
2015年に地域包括ケアシステム構築の一環として、要支援1,2が介護保険から市町村事業に移行されました。しかし、その根幹である地域住民による共助ネットワークは"理想"のまま停滞しています。2024年度の介護報酬改定ではこの課題には踏み込まず、重度化防止のための医療連携の充実や増加する高齢者世帯・認知症への対応として、看取りや認知症ケアなどに関する取り組みが強化されました。
まずは"地域づくり"の基盤構築に重点が置かれたと言えます。
2021年度改正でクローズアップされたアウトカム加算やLIFE加算は今回は拡充されませんでした。介護現場が自立支援にかかわる余裕がなく、LIFEの活用や、医療的アプローチの体制が整っていないという状況判断によるものと思われます。
2024年度の介護報酬改定では、本格的な自立支援・重度化防止の基盤づくりに向けて、医療との連携、リハビリ・口腔・栄養の一体的な取り組みが強化されています。
2024年度の介護報酬改定で注目されるポイントの"処遇改善加算の一本化"は、処遇の向上と事務負担の軽減が目的です。また、配分ルールの撤廃によって、必要な知識やスキルに応じた事業者独自の人事戦略が可能となるでしょう。もう1つのポイントである"生産性向上の取り組み"は、前回改正のLIFEに続き、次世代介護を示唆する大きなテーマと言えます。生産性向上の手段はデジタル化です。介護業界全体の戦略が、人材の量的確保から、デジタル人財の育成へと大きくシフトチェンジされたと見るべきでしょう。
2024年度の介護報酬改定では、"ケアプラン有料化"や"自己負担2割の対象拡大"などの財源確保の施策は見送られました。全体では1.59%のプラス改定でしたが、限られた財源での厳しい配分が続きます。
前年の経営実態調査で高い収支差率であった訪問介護がマイナス改定となりましたが、過疎地域と同一建物でのサービス提供事業者では状況が異なり、一律の改定について疑問の声が出ています。
今回の介護保険法改定では全事業者に財務状況の公開が義務化されました。これによって、より正確な事業状況に基づいた適正な配分を期待したいところです。
2024年度の介護報酬改定は、本格的な科学的介護、自立支援評価のための基盤づくりの改正と言えます。ポイントは3つです。
①医療ニーズへの対応強化
今回の改定では急変時や看取り時の医療連携、入退院時の情報連携の強化、施設系は協力医療機関との連携構築が求められました。これらは、今後本格的な自立支援メソッドにおいて、医療がどう係わるべきか、その期待が込められていると見るべきでしょう。
②リハビリ・口腔・栄養の一体的取り組み
リハビリ・口腔管理・栄養管理の計画書の統合、LIFEデータの活用、多職種連携によって、より自立支援に有効なケア計画の策定が評価されることになりました。
③生産性向上の取り組み
生産性向上委員会の開催が義務化され、また、生産性向上推進体制加算が新設されました。これはデジタル人財の育成施策といっても過言ではありません。委員会については3年の経過措置がありますが、早急に取り組み、次回の改定に備えた体制づくりが必要です。
対象:施設系サービス、居住系サービス、多機能系サービス、短期入所系サービス
区分 | 単位 | 実施事項 | 見守り機能等のテクノロジー |
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Ⅰ | 100単位/月 |
|
複数導入 |
Ⅱ | 10単位/月 |
|
1つ以上導入 |
生産性向上推進体制加算は、施設系、居住系、多機能系サービスに適用される加算です。これは今後の介護施設の在り方に変革を迫る画期的な加算であると言えます。
特に上位区分(Ⅰ)は、介護ICTのフル導入や成果の見える化等、コストや業務負担を要する要件が設定されています。
このハードルをクリアできるか否かで、二極化が進むとも言われています。上位区分算定によって高い加算を得ると同時に生産性が高まり、安定した業績を確保することにつながります。
取組区分: 生産性向上のための業務改善の取組
⑰ | 厚生労働省が示している「生産性向上ガイドライン」に基づき、業務改善活動の体制構築 (委員会やプロジェクトチームの立ち上げ、外部の研修会の活用等)を行っている |
---|---|
⑱ | 現場の課題の見える化(課題の抽出、課題の構造化、業務時間調査の実施等)を実施している |
処遇改善に関する加算の一本化とともに、算定要件である職場環境等要件も見直しされました。注目すべきは生産性向上に関する取り組みです。上位区分(Ⅰ)(Ⅱ)算定のためには、この項目から3つを実施し、更に⑰と⑱は必須とされています。文言の違いはあれど、いずれも生産性向上のガイドラインに基づく現場改善活動を実施することが求められます。
人材定着のためには、ムリ・ムダ・ムラの改善、現場の声が経営に届く風通しのよい職場の実現が、処遇改善と両軸で必要となります。
前回改正で施行された特別養護老人ホームにおける、ICT活用による夜間配置基準、夜勤職員配置加算要件の緩和が、2024年度介護報酬改定では介護老人保健施設や認知症グループホームにも適用されます。
また、特定施設入居者生活介護については、ICTや介護助手の活用によって3:1の配置基準が3:0.9に緩和されます。経営への影響はまだ限定的ですが、その効果によっては次期改定を待たずに更なる緩和や、他サービスへの拡充を検討すべきとされています。
介護保険法は、完璧な法律ではありません。国の施策に従っていれば、必ずうまくいく、というものではありません。様々な施策に対して“様子見”の風潮が強い業界でもありましたが、それはもう過去のことでしょう。
もはや3年に1度の改正では世の中の急激な変化に追いつけない可能性があります。国の施策を活用し、更に独自に改革を進めていく先進事業者が増えていると感じます。次回2027年度改正を見据え、この3年間で何を変え、何を強化するのか。それを決める重要なターニングポイントにきているのではないでしょうか。
(介護サービスの質の確保と職員負担軽減の方策検討委員会)
この委員会は、"利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会"とされています。効率化が悪影響を及ぼさぬよう配慮した上で、職員の負担を軽減し、科学的介護等新たな課題にチャレンジする時間を確保することが目的と言えます。
施設系、居住系、多機能系サービスが対象で、この委員会と生産性向上推進体制加算に関する取り組みは、ほぼ一体です。テクノロジーの活用や厚労省が提示している生産性向上ガイドラインに準じた改善活動が委員会の主テーマとなります。
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)は、見守り機器、インカム等、介護記録ソフトの内、どれか1つを導入して、委員会を実施し、更に入居者の満足度や職員の総業務時間・残業時間・有給休暇の実績データを提供することで算定可能です。
(Ⅰ)は、原則として加算(Ⅱ)の取り組みを3か月以上実施し、上記機器を全て導入した上で、テクノロジー導入による成果を提供することで算定できます。成果は、上記(Ⅱ)の実績データが導入前後で維持・改善していること、加えて職員の心理的負担やタイムスタディーによる業務分析のデータ提出が求められます。
ア | 見守り機器 | 複数利用者を同時に見守り、複数介護職員に同時に情報共有できる |
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イ | インカム等 | 職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器 |
ウ | 介護記録ソフト |
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1 | 上記アからウの機器を全て使用している |
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2 | (ア)の見守り機器は全ての居室(事前に同意を要す)に設置 |
3 | (イ)のインカムは全ての介護職員が使用 |
厚労省の見守り機器の定義は、"利用者がベッドから離れようとしている状態又は離れたことを感知できるセンサーであり、当該センサーから得られた情報を外部通信機能により職員に通報できる利用者の見守りに資する機器をいう。"です。加算(Ⅱ)の算定のためには、1床以上の導入、(Ⅰ)は全床への設置が要件となります。
定義は"インカム等職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器"とされており、チャットシステムも該当します。こちらは(Ⅰ)(Ⅱ)に係わらず、"同一の時間帯に勤務する全ての介護職員が使用すること"が要件です。
定義は、"介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器(複数の機器の連携も含め、データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限る。)"とあります。(Ⅰ)(Ⅱ)ともに同じ定義です。
"複数の機器との連携"が必須要件であるかどうかは、この文面からは判断できませんが、見守り機器との連携は、要件に関係なく記録業務の負担軽減のために検討すべき機能と言えるでしょう。
介護事業所の勤務体系は複雑であることが多く、そのため一般企業に比べ、システム化が進んでいない領域でもあります。限られた事務職員の属人的な業務となっている可能性もあり、労務管理をシステム化することで、よりスムーズな運営とリスク管理が可能となります。
2024年度介護報酬改定で、ケアマネジャーのモニタリングについて、2回に1回のオンライン活用が可能となりました。また逓減制が更に緩和され、ケアプランデータ連携システムの活用と事務員を配置することで、要介護者49名まで担当が可能になりました。要支援1、2も直接担当できるようになり、要支援3名で要介護1名のカウントとなるため、更に多くの利用者を担当することが可能となります。
これらの施策を活用することで収益改善が見込まれ、深刻なケアマネジャー不足の対策として期待されます。
事業所の運営規程のインターネット上での公開が、令和7年度より義務化となります。公開先は"ホームページ等、または情報公表システム"との要件ですから、必ずしもホームページが必要ということではありません。しかし、これからは他社との差別化を図るため、サービスの強みや独自の取り組みを発信し続けることが大切です。介護職員等処遇改善加算(Ⅰ)(Ⅱ)を算定する場合にも、職場環境改善の取組について、同様の手段による公表が義務化されます。ホームページを情報発信ツールとして有効に活用すべきでしょう。
職員の健康が最優先であり、健康経営は介護経営の根幹と言えるでしょう。メンタル面の実態把握と改善については、今回の生産性向上の成果項目としても重要視されています。メンタル悪化の要因の1つは、"体調の悪化"です。ICT導入で成功している事業者の事例をみると、移乗負担の軽減から着手する例が少なくありません。職員の健康を維持できてはじめて、次の課題にトライできる、ということではないでしょうか。
これからの介護現場において、"デジタル人財の育成"は重要な課題です。前述の委員会でも、このような人財が生産性向上の取り組みを牽引していくことになるでしょう。
自社内での育成が難しい場合は、外部の研修制度、資格制度を活用することも有効です。株式会社善光総合研究所が運営する"スマート介護士資格"は、"介護ICTを活用できる人財を日本中につくる"ことを目的としています。この資格のメリットは、資格取得後も、定期的に無料のフォローアップ研修に参加でき、全国の資格者と一緒にスキルアップしていける点です。介護事業の課題は全国共通であり、同じ目的をもった仲間とともに歩むことができます。
介護現場には、大きな変革が押し寄せています。お世話型介護から科学的介護へ、ストラクチャー評価からアウトカム評価への移行は、現場に求められる知識・スキル、そして人材育成のあり方に大きな変化をもたらすでしょう。これまでの集合型研修に加えて、オンラインによる個別研修等、教育手段の多様化が必要です。しかし、何より大事なのは、強力でブレないリーダーシップ力です。一方的な指示ではなく、全職員との対話を重視し、全員参加で取り組む組織風土づくりが求められます。
スマートフォンやタブレットを使用して、いつでもどこでも簡単に記録入力や情報共有が可能となり、後で行っていた転記業務を大幅に削減できます。記録業務の効率化により、スタッフの負担が軽減され、サービス品質を向上させることができます。
ハンズフリーで一斉通話を開始でき、両手を使う作業が多くてもいつでもコミュニケーションをとることができます。後からテキストや音声で内容の確認も可能です。職員間の連絡や情報共有がスムーズになり、業務効率が格段にアップします。
利用者様のベッド上での活動状態を職員間で常時確認できるようになります。訪室回数を大幅に削減し、転倒事故の発生を抑止することができます。
シフト作成・勤怠実績・常勤換算表に関する業務を効率化することで、労働時間を短縮し、職場の労働環境を改善できます。
外出先や自宅から事務所のパソコンを遠隔操作でき、会社のファクスも閲覧可能です。モニタリングだけでなくオンライン会議や研修も実施でき、どこからでも参加が可能です。時間のロスを最小限に抑えたり、業務を柔軟に行えるようになり、生産性が向上します。
24年度介護報酬改定にて、介護サービス事業者は、原則として重要事項等の情報をウェブサイトに掲載・公表する必要があると定められました。専門知識がなくても簡単にホームページを作成・更新でき、サービスの魅力を発信できるため、介護報酬改定への対応だけでなく、企業価値の向上や求職者・利用希望者様へのアピールが実現できます。
移乗介助や入浴介助などの中腰姿勢を長時間維持する作業時に腰をサポートします。電源不要で稼働時間に制限がないため、業務での身体への負担を一日中軽減できます。職場環境の改善と生産性向上を実現し、求職者やご利用希望者へのアピールが可能です。
ICTを活用した人財育成システムを導入し、集合研修に加えてe-ラーニングを活用することで、効率的にプロフェッショナルを育成し、サービス品質と生産性の向上に貢献します。また、公正な評価やキャリアアップのために従業員のスキルや状況を見える化し、共有することで組織の活性化を促し、人財定着に向けた課題解決を支援します。
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遡ること1977年、リコーが提唱したOA(オフィスオートメーション)。そこには「機械にできることは機械に任せ、人はより創造的な仕事をするべきだ」という想いが込められていました。人間にしかできない創造的な仕事を通して、生み出される付加価値を増幅することに、はたらく歓びがあるのだという考え方です。
リコーの使命は、“はたらく”に寄り添い、変革を起こし続けること。 その先に見据える未来は、人ならではの創造力が発揮され、働きがいと経済成長が両立する持続可能な社会。
そんな想いが、2023年に新たに制定した使命と目指す姿「“はたらく”に歓びを」に込められています。