コラム 13

コラム

電子帳簿保存法対応、税理士のホンネ

電子帳簿保存法対応の現場をレポート!

今回は、とある税理士職員の方に電子帳簿保存法について聞いてみました。
以前の「税理士事務所が電子帳簿保存法対応のネックになっている」という話を振ってみると、「事務所にもよると思いますが、ウチは対応が遅れてると思います。なにせ目の前の業務に追われてしまって…。クライアントさんの仕訳で精一杯って感じです」
「いや、対応の必要性は感じてますよ、そりゃ。ウチは、とある会計システムを使ってますが、そこのベンダーさんからも電子帳簿保存法対応のセミナーの案内が毎月のように届くのですが…」

それ、そもそも業務の電子化が進んでないからでは?と聞くと、
「まあ、そのとおりなのですが、やっぱり慣れてる紙でやりたいんですよね。確認なんかは抜群に紙がやりやすいですし」
それは確かにこれまで話を聞いてきた多くの経理担当の方々も、紙のほうがさばきやすいと言っていたけど…
「なんか、税理士が電子帳簿保存法対応が進まない原因になっているような雰囲気ですが、必ずしも我々だけじゃないですよ」
「意外と、取引先の大企業が紙でのやり取りを望んでいるって話をよく聞きます」

前述の内容を表した図

そういえば、建設業界ではそんな話があると聞いたけれど。
「知り合いの事務所の顧客の話です。そこはメーカーさんなのですが、社長が一気に進めたい、と言って実際に経理の電子化を実現したらしいです。で、原則、請求書はデータで送ることとし、紙で発行する場合は手数料を取ると宣言したらしいです」
「そこにクレームをつけてきたのが、取引先の大企業でした。『紙の発行じゃないと困るし、手数料なんて論外だ』と」
なるほど。それでどうしたのですか。
「その社長、その取引先に直談判に行って、こう言ったそうです。『今どき、大企業が紙取引を推奨していて良いのですか?御社のような会社こそが率先して電子化を推進して、取引先含めた業務効率化を進めるべきではないですか?』と」。
「結局、その取引先が折れて、晴れてPDFで請求書を送れるようになったようです。たぶん、今のところは印刷しているのでしょうけど…」

でも、電子データ保存の宥恕期間は2023年末迄ですよね?と聞くと
「結局、うちの事務所もそうですが、法的に罰せられるぐらいにならないと、なかなか重い腰が上がらないというのはあるかもしれません。私も忙しさを理由にしていますけれど、『まだいいでしょ』って感覚が無いとは言えないです」

なるほど。どうすればいいんだろうか。
「ポイントは、トップの意志、企業なら社長さん、税理士事務所だったら先生が電子化を進めるぞ、と強い意志を持って推進していく事かもしれません。正直、我々も電子化したほうがいいとはわかってます。でも、その一方で、紙での扱いに慣れてるので、電子化で混乱したり、ミスが起きたりしたら怖いというのがあります」。
「そこで、先ほどの会社の社長さんではありませんが、少し強権でも、取引先と一戦交えてでも、組織のトップが強いリーダーシップを持って電子化を進めたほうがうまくいく気がしています。我々も半ば強制的にでも電子化を体験して、『ああ、本当に仕事が楽になるんだ』という体感があれば、顧客先にも強く薦められると思うんですよね。ちょっと他力本願的ですけど」。

確かに未知のことは不安だろう。それに税理士であっても、経理担当であっても、ミスがあってはいけない仕事だから、保守的にならざるを得ないのは確かだ。
「正直ね、今はただの仕訳屋になってるなと思うんです。本当は経営数字見てるんですから、経営に対するアドバイスを会計面からやれるはずなのです。でも、日々の仕訳に追われているとね…」。
そう。税理士というのは、本来なら企業の数字を俯瞰できる立場にいるのだから、そういう付加価値の高い仕事をすべきなのだ。と、この対話を通じて改めて気付かされた。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の本質の一つは、「ITが効率よく処理できる面倒事はITに任せる」ことです。まだまだ電子化の進まないバックオフィス業務ですが、この改正電子帳簿保存法、そしてインボイス制度を契機に、多くの税理士事務所、そして多くの企業で、単なる法対応ではなく、社業を発展させるための原動力になるものとして、DXを進めてほしい、多くの経営者が早くそれに気づいてほしい、と、この一連の取材で感じました。

  • 本内容はお客様との会話をヒントにしたフィクションです。
  • 本文に掲載されている情報は、2023年1月現在のものです。
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