2次元検出器搭載X線回折装置を用いた結晶構造解析

2次元検出器搭載X線回折装置を用いた結晶構造解析により、
二次電池の信頼性向上に貢献

二次電池の信頼性向上において、充放電サイクル中の材料の結晶構造変化を追跡し、劣化の原因を解析することが重要です。
今回、両極炭素二次電池を用いて、正極の結晶構造解析を行った事例をご紹介いたします。
両極炭素二次電池は、正極に炭素を用いることで、アニオンが正極の層間に挿入することを利用し、急速充放電・高出力を特徴とする電池です。
Liイオン二次電池が、負極へのLiイオンの移動で動作しているのに対して、両極炭素二次電池はLiイオンの負極への移動に加え、アニオンであるPF6-が正極にも移動し、動作します。このとき、PF6-が炭素間に挿入・脱離していると、炭素の層間距離が変化します。イオンの脱挿入による充放電で炭素構造が変化するため、電池特性と炭素構造は密に関係していると考えられ、その結晶構造解析は非常に重要です。

方式 両極炭素(DCB) リチウムイオン(LIB)
電池モデル図
相違 材料 正極が炭素 正極が金属酸リチウム化合物
動作 リザーブ型 Li(正イオン)とPF6(負イオン)の両方が移動 ロッキングチェア型 → Liのみが移動

両極炭素二次電池とリチウムイオン電池の基本原理

近年、放射光施設を用いた充放電下での結晶構造解析が盛んですが、そのような施設での測定機会は限られます。そこで、実験室系の分析装置で詳細解析する試料を予め選定することが出来れば、効率的に評価を進めることが可能になります。しかし、実験室系の分析装置ではX線の輝度が低いため、結果として感度が不足し、充放電過程でのリアルタイムな結晶構造解析は困難でした。

充放電過程でのリアルタイムな構造変化を検出可能にするために、高い透過性を持つX線光源と2次元検出器を搭載したX線回折装置を活用することで測定感度を向上させました。さらに、X線回折装置内でアルミ製ラミネートセルを充放電可能なセルを作製することで、in-situ(その場)で正極材料の充放電過程の構造変化をリアルタイムで捉えることを実現しました。これにより、製品の信頼性向上に向けた、サイクル試験前後の正極へのアニオンの挿入・脱離の評価や、容量低下と紐づけた解析が実施可能になりました。

困り事/実践効果

困り事 実践効果
充放電過程で、ラミネートセル内部の正極の結晶構造をリアルタイムに分析できない。 Mo光源の高い透過性と2次元検出器による短時間測定を生かして二次電池電極の充放電過程における結晶構造をリアルタイムで評価可能にしました。

設計現場での困り事・課題

充放電過程で、ラミネートセル内部の正極の結晶構造をリアルタイムに分析できない。

ラボのX線回折装置で一般的に用いられているCu光源では透過力が低いため、二次電池で用いられるアルミ製ラミネートセルを十分に透過しない問題がありました。
また、感度が低いため、測定時間が掛かり、充放電過程をリアルタイムで分析できませんでした。

解決したこと

Mo光源の高い透過性と2次元検出器による短時間測定を生かして、
二次電池電極の充放電過程における結晶構造をリアルタイムで評価可能に

ラミネートフィルム越しに正極の結晶構造を分析可能にするために、ラボのX線回折装置で一般的に用いられているCu光源を透過力が高いMo光源に置き換えました。

Cu光源とMo光源の透過性の違い

さらに、検出器として2次元検出器を搭載しました。試料に照射されたX線は円錐状に回折しており、従来の検出器(0次元検出器)では1つの検出素子をスキャンさせて計測します。2次元検出器では回折位置情報を持った検出面全面でX線の一部をイメージとして取り込むことが可能です。これにより、従来の検出器で数十分掛かっていた測定が、数十秒で実施可能になります。

2次元検出器

従来の検出器(0次元検出器)

従来の検出器(0次元検出器)と2次元検出器の違い

さらに、X線回折装置内でアルミ製ラミネートセルを充放電可能なセルを作製しました。
以上より、Mo光源の高い透過性と2次元検出器による短時間測定を生かして、両極炭素二次電池の正極の充放電過程における結晶構造を評価可能にしました。これにより、製品の信頼性向上に向けた、サイクル前後の正極へのアニオンの挿入・脱離の評価や、容量低下と紐づけた解析が実施可能になりました。短時間測定が可能なので急速充放電時(例:充放電過程を1min毎に測定)の分析にも対応可能です。

二次電池の充放電過程の評価例

こんな方にお役立ちできます

  • 二次電池用電極材料の充放電時の結晶構造変化を明らかにしたい。
  • 電池の容量低下の原因を調べたい。
  • 二次電池以外の結晶材料も高感度に分析可能です。
  • その他、以下の測定も実施可能です。
    • ・加熱測定による相変化評価
    • ・残留応力評価
    • ・配向評価(広域逆格子マップ、極点図)

関連文献

  • 山形卓1,岩田周行1, 安福秀幸1,鈴木栄子1,石垣徹2 (1(株)リコー, 2茨城大) , 『アニオンインターカレート型正極の充放電状態及びリアルタイム回折測定』, 日本結晶学会年会講演要旨集(2016)
  • 山形卓1,鈴木栄子1,石原達己2 (1(株)リコー, 2九州大学), 『アニオンインターカレート型正極の充放電過程におけるリアルタイムXRD計測』,電気化学会第82回大会要旨集(2015)

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