業務効率化を図る際に、大きな効果を発揮する方法が作業工数の削減です。作業工数の削減はどのような業種でも重要ですが、特に製造業では単に経費を削減するだけでなく、多様な効果が期待できます。
ここでは作業工数を削減することで得られる複数の効果や、具体的な作業工数削減の進め方、工数削減を成功させるためのポイントなどを、成功事例を交えて紹介していきます。
目次
作業工数の削減とは
作業工数の削減とは、仕事にかかるプロセスを減らすことです。製造業においては工程のうち不要な部分を省く、統合可能な部分を統合して工数を減らすなど、さまざまな方法で工程を効率的に改善することを指します。
作業工数の削減に成功すれば生産性が向上することに加え、コスト削減や品質の向上などさまざまな効果が期待できます。
作業工数の削減が重要視されている理由
近年製造業の現場では、作業工数の削減が特に重要視されるようになりました。その背景には少子高齢化の進行に伴う労働人口の減少や、「2025年の崖」と呼ばれる転換点の問題があります。
労働人口の減少の原因には職種や業界による人気の偏りもあり、特に肉体労働の現場では人手不足が叫ばれています。製造業も決して人気の職業とは言えません。
「2025年の崖」とは、経済産業省の「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」に登場した言葉です。あらゆる業界でデジタル技術の活用が進む中、時代に対応しきれない古いシステムを使う企業が生存競争に勝ち残れない可能性や、既存システムの弊害に伴う経済損失が、2025年以降に最大で年間12兆円まで膨れ上がる可能性が指摘されました。
限られた企業内のリソースでこれまでと同等もしくはそれ以上の成果を上げ、デジタル化をスムーズに推進して生存競争に勝ち残るために、作業工数の削減がこれまで以上に重要視されています。
作業工数を削減するメリット
作業工数を削減することで、具体的には次のような複数のメリットが期待できます。
コストを削減できる
コスト削減は利益率の向上や価格競争力の向上につながります。作業工数を削減すると、その工程にかかっていたスタッフの人件費、工場ラインの稼働にかかる原材料費や資材費、水道光熱費、品質管理にかかる人件費、生産管理を始めとする販売管理費など、多項目に渡るコストが一気に削減できます。
仕入れ先を変えて原料価格を抑えたり、節電によって光熱費を抑えたりといった一時的なコスト削減に比べ、作業工数の削減には大きく恒常的なコスト削減効果が期待できます。
生産性が向上する
作業工数が削減できれば同じ労力や原料・資材でより多くの製品の生産が可能になり、供給量が増やせます。
従業員の負担を軽減できる
削減できた工程にかかっていた手間がかからなくなるほか、作業ラインが減るので清掃や品質管理、生産管理などの手間が一気に削減でき、不良品の発生機会も減ります。
従業員の負担が軽減できるとミスの発生率が抑えられるほか、工程改善など、より生産的な部分に人的リソースを振り分けられる余裕が出ます。
工場の作業工数を削減する方法・手順
「作業工数の削減効果はわかったけど、具体的な進め方がわからない」「どこから手を付ければいいの?」という方のために、工場の作業工数を削減する方法や進め方の手順について見ていきましょう。
作業工数の削減は、次のように進めていきます。
- 1. 現状を把握する
- 2. 工程を見直す
- 3. 業務に優先順位をつける
- 4. 担当者ごとに業務範囲を明確にする
- 5. 新しいプロセスで作業を開始する
- 6. 効果検証を行う
1. 現状を把握する
まず、現在現場で行っている作業プロセスを詳細に把握します。ISO9001に沿って作られた手順書の内容だけでなく、その手順がなぜ必要なのかを同時に把握しておくことがポイント。「手順書には記載がないが、現場で行っている作業」にも注意し、理由を含めて把握しておきましょう。
2. 工程を見直す
現状が把握できたら、次の表にある「ECRS」を意識して工程を見直しましょう。過剰な改善や効果のない改善、トラブルなどを避けつつ、改善効果を最大化できます。
一般的に見直しの効果は「E(排除)」が最も大きく、「結合」「交換」「簡素化」の順に小さくなるといわれます。
排除(Eliminate) | 最優先で検討すべき視点。作業の中に省くことができる項目がないか。 |
---|---|
結合(Combine) | 複数に分かれている工程を1つのまとめられないか。 |
交換(Rearrange) | 順序を入れ替えることで効率がアップする工程はないか。 |
簡素化(Simplify) | 工程を単純化できないか。 |
3. 業務に優先順位をつける
作業工数を削減するには、業務に優先順位をつけることも大切です。優先順位をつける際のポイントが「納期」と「重要度」です。
納期が差し迫っている緊急度の高い製品と、発注数が多く主要な取引先に納品する重要度の高い製品では、進め方が異なる場合があるかもしれません。大量生産品ではボトルネックを作らないよう工程を最適化する必要があります。優先順位をつけることで、すべての業務を同じように進めるよりも作業工数が削減できることもあります。
4. 担当者ごとに業務範囲を明確にする
詳細な工程について、担当者ごとの業務範囲も明確にしておくこともポイントです。「手が空いている人がする」といった業務は責任の所在が不明確になりがちでミスにつながりますし、都度業務に当たる人を確認するという無駄な工程を生みます。
5. 新しいプロセスで作業を開始する
工程を見直す際は、まったく新しいプロセスで作業を開始してください。それまでの業務手順に捉われず、加工機のレイアウトや輸送工程なども加味して工程を作り直すことで、作業がぐっと効率化できます。
6. 効果検証を行う
実際に作業を開始してみると、思っていたような削減効果が出ないこともあります。見直し前のほうがよかったという場合もあるでしょう。見直した工程には効果検証を行い、ブラッシュアップを繰り返すことでさらなる効率化を図ります。
工場の作業工数を削減するためのアイデア
工場の作業工数を削減するための具体的なアイデアには、次のようなものがあります。
マニュアルを作成する
作業者が各自の判断で進めている工程があると、本人が気づかぬうちに無駄が生まれている場合があります。マニュアルを作成してもっとも効率的な手順を標準化すると、作業工数の削減につながります。
業務のフローチャートを作成する
業務のフローチャートを作成すると、後工程が見えてボトルネックの発生を防ぎやすくなり、作業工数の削減につながります。ボトルネックとはフローの中で停滞しやすく、生産性の低下につながる工程です。作業者が自分の担当工程だけでなく、ある程度フロー全体を意識して作業を進めることが大切です。
システムを導入する
製造業の現場では、不良品の発生を防ぎ作業者負担を軽減する優れたシステムが多数活用されています。習熟度に関わらずミスを防いでくれる画像認識システムを活用すれば、作業工数の削減につながります。
ここではおすすめのシステムをいくつかご紹介します。
RICOH SC-10A
カメラ、画像認識、アプリケーションが一体化したオールインワンシステム。マウスとキーボード、モニターさえあれば使えます。画像認識で類似部品や欠品、作業順序などの組立状況を自動でチェックします。部品のシリアルナンバーや作業時間などの実績、作業結果の画像を記録でき、作業分析やトレーサビリティーにも役立ちます。画像認識と作業指示が連動しており、正しい作業と認識しないと次に進めません。
RICOH SC-20
RICOH SC-10Aと同様の機器で、タッチパネルモニターを使えばマウスもキーボードもなく使用できます。
作業工数の削減を成功させるためのポイント
作業工数の削減を成功させるためには、まず社内の協力体制を整備しましょう。役員や従業員の協力を得るためには、作業工数の削減による負担軽減のメリットや、会社への貢献になることを伝えることが大切です。
作業工数の削減に成功した事例
実際に工程を見直し、作業工数の削減に成功した企業の事例を紹介します。
リコーインダストリアルソリューションズ株式会社
組立工程の品質チェックが人に依存しており、ヒューマンエラーなどの不具合発生リスク低減と工数改善が課題でした。
システム導入に合わせて作業工程を見直し、作業台車をリコーフレキシブルイメージチェッカーが取り付けられた検査治具へセットすれば自動でバーコードを識別する仕組みを構築。またマルチカメラで複数方向から検査できるラインを作りました。
その結果、タクトタイム(1つの製品の製造にかかる時間)の5%削減に成功。導入以降7か月間、不具合品の流出件数0件を継続しています。
富士フイルムテクノプロダクツ株式会社
品質基準が厳しい医療機器を扱うため熟練工による製造を続けていましたが、作業が属人化。品質を維持しつつ比較的経験が浅い人材にも作業してもらうため、不良の原因となるミスを減らす仕組み作りが課題でした。
そこで血液検査装置に使用するインキュベーターユニット(血液を体温と同じ温度に温めるユニット)の製造ラインにRICOH SC-10Aを導入。ネジ締めの順番を間違えたりトルクをかけていなかったりすると作業を進められない仕組みで、作業ミスがなくなりました。
作業履歴が保存されるので作業者が書いていたチェックシートも必要なくなり、負担軽減やペーパーレスにも繋がっています。製造品目の切り替えがかんたんなので、100以上の製品を1台でチェックできています。
株式会社小野測器
ポカミスの撲滅と作業者への依存をなくすことが課題で、ユニットを組み立てて大きさや計測システムが選べる計測機器「O-Solution DS-5000」というシステムの組立工程にRICOH SC-10Aを導入しました。
トルクドライバーと連動させ、製品ごとに定められたトルク値でネジを締められているか検出しています。画像で作業結果を残せるようになり、トレーサビリティーが確立できました。また、作り込みが必要な部分の工程管理が標準化できました。
※参考:導入事例|株式会社小野測器様
まとめ
労働人口の減少が進み「2025年の崖」を控えた今、作業工数の削減はどの製造現場でも重要な課題です。工程の見直しにあたり、工程改善に特化したシステムを導入することで大きな効果が期待できます。デジタル時代を生き抜くために、自社でいかせる方法を検討してみましょう。