工場内物流は、原材料部品や資材などを最適なタイミングで必要な場所に必要な量を運ぶ役割を担っています。工場内物流に支障が生じると仮に各製造ラインが正常稼働していても、工場全体の機能や生産性に影響が及びます。本稿では、そのような工場内物流を自動化することでどのようなメリットがあるのか、自動化を実現するAGVとはどのようなものなのかを解説します。工場内物流の課題解決を目指すご担当者は、ぜひ参考にしてください。
工場内物流とその課題
まず初めに、生産現場における工場内物流の役割やその課題について確認しましょう。
工場内物流の役割
工場内物流には、仕入先から届いた原材料や部品などの受け入れ、入庫作業やそれらの保管、在庫管理、生産指示書に基づいたピッキングや生産ラインへの配膳などの役割があります。また多くの作業には物を移動させる搬送作業が伴います。
工場内物流における課題
工場内物流における課題を工程別に見てみると次のようなものがあります。
・受け入れ、入庫作業
工場内、倉庫内物流では、パレットを運搬するためにフォークリフトや台車が使用されていましたが、その運搬作業は時間と労力を要し、作業員への作業負担が大きくなる傾向にあります。また目検での検品の際に見落としなどが発生する恐れもあります。
・保管
どの資材がどこに、いくつ保管されているかなどの保管状態を正確かつリアルタイムに管理する必要があります。手作業で管理する場合は、特に正確性やリアルタイム性が問題になる場合があります。
・ピッキング、配膳
手作業でのピッキングの場合には、ピッキングミスが発生する恐れがあります。また、必要なタイミングで配膳しなければならないので一定以上の作業効率も必要になります。さらに思い資材の場合は、配送時の負担が大きくなります。
物流ロボットによる自動化とそのメリット
前述のように工場内物流においては、作業員の負荷や作業効率、また作業の精度やミス防止などが課題となります。これらを解決する手段として効果的だと考えられているのが、物流ロボット導入による自動化です。物流ロボットにはさまざまなタイプがありますが(詳細は後述)、導入することで次のような効果が期待できます。
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・物流作業の効率化、迅速化
搬送作業をロボットによって自動化すれば、迅速かつ正確に荷物を搬送でき、物流作業全体の効率化につながります。
・作業員の負担軽減、事故防止
荷物の積み下ろし時などの重労働から解放され、作業員の負担軽減、さらには事故防止の効果が期待できます。
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・省人化、人件費削減
作業員の作業をロボットが代替するため省人化につながり、その分の人件費を削減できます。上記の作業効率化とこの省人化の効果を合わせると大幅なコストパフォーマンス改善も可能です。
≫ 関連事例:構内物流の省人化~無人搬送車(AGV)を活用して構内物流を効率化~
≫ 関連事例:製造ラインの省人化で生産性向上~小回りが利き、狭いスペースでも運搬可能なAGV(無人搬送車)~
・ヒューマンエラーの防止
決まった作業を正確に行うことができるのがロボットの最大の特徴。人に代わって作業することでヒューマンエラーの発生を防止することができます。近年画像認識技術の進歩などにより、判断が必要になるような複雑な作業も代替できるようになってきています。
・DXの推進
ロボット導入による工場内物流の自動化によって、さまざまな作業内容がデジタルデータとして蓄積され可視化されます。どのような時刻にどの資材がどこからどこへ運ばれたのかなどの情報が一目瞭然で分かるようになります。これらのデータを活用すれば工場内物流だけではなく工場全体のDX推進が可能です。
物流ロボットの種類と特徴
工場内物流で活用される物流ロボットには、適用する工程や作業、機能などによってさまざまなものがありますが、大きく分けて物を運ぶ「運搬系」と、ピッキングや積み下ろしを担う「アーム系」があります。それぞれタイプ別にご紹介していきましょう。
搬送系物流ロボット
・AGV(自動搬送車)
無人搬送車とも呼ばれます。床に貼られたテープなどをガイドとして走行。入荷した資材などを保管場所に運んだり、保管場所から必要な生産ライン上へ運んだりします。ガイドが必要なので一定のルートを走行・運搬するのに向いていますが、走行ルートの変更は比較的容易です。
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・AMR(自律走行型搬送ロボット)
AMRは、搭載したカメラやセンサーによって周囲の棚や障害物の位置などを検知しながら、自律的に目的の場所まで移動するタイプの搬送ロボットです。床面にガイドを貼る必要はありませんが、比較的軽量の物しか運搬できません。頻繁に走行ルートが変わる場合や、多くの異なる用途で使用する場合に強みを発揮します。
・GTP(棚搬送型ロボット)
商品が納まっている棚を作業員のいる位置まで搬送するタイプのロボットです。ピッキングや格納作業の際に作業員が移動する必要がなくなるので作業効率が向上。また、作業員が商品の格納場所を覚えなくてもよいため属人化を防ぐこともできます。棚に入らないような大型の物をどのように扱うかが課題です。
アーム系物流ロボット
・デパレタイザー/パレタイザー
アーム型の垂直多関節ロボットなどを使って、荷物の積み降ろしを担うロボットです。デパレタイザーが荷物を降ろす場合、パレタイザーが積む場合です。重労働である荷物の積み降ろしを代替することで、作業員の負荷を大幅に軽減できます。アームの可動域内であれば比較的容易に配置や積み降ろしパータンの変更できます。
・ピッキングロボット
従来ピッキング作業の自動化は難しいとされてきましたが、3Dビジョンでの3次元認識技術、および3Dビジョンとアーム型ロボットとの連携で、ロボットによるピッキングも可能になってきています。自動化によりピッキングミスなどのヒューマンエラーの発生が抑えられ、作業スピードも大幅アップ。搬送系のロボットと組み合わせることでピッキング作業の全自動化も可能です。
工場内物流プロセスを自動化する自動搬送車(AGV)
AGVは、ルートの指示が必要ですが比較的手軽に導入できることから、工場内や物流拠点などで導入が進んでいます。同じAGVでも走行方式や用途によって次のような種類があります。
<走行方式別>AGVの種類
AGVは走行方式の違いによって次の3種類があります。
・磁気誘導方式
磁気テープをルート上に貼り、磁気センサーでそれを読み取ることでロボットがルートを把握します。精度が高いと言われていますが、磁気テープが高価なので初期導入時やルート変更時に大きなコストがかかります。
・光学誘導方式
磁気テープではなく、通常のテープをルート上に貼って光学センサーで読み取ることでロボットがルートを把握する方式です。磁気テープなどが不要なので低コストでルート変更などに対応できます。
・画像認識方式
床や天井などロボットから認識できる箇所にQRコードやARマーカーを設置。それを読み取ることでロボットが今の自分の位置やルートを把握する方式です。この方式も柔軟にルート変更対応できます。
<用途別>AGVの種類
用途別には次のような種類があります。
・積載型
荷物をAGVの荷台に乗せて運ぶタイプ。荷物を手動で積載する方法とコンベアやリフターなどを使って自動で積載する方法があります。
・低床型
荷物が積まれた棚やカゴなどの下に潜り込んでリフターで持ち上げて、棚などをそのまま搬送するタイプのAGVです。特定の搬送物向けに特殊な棚などを使用している場合には、特に低床型が有効です。
・けん引型
荷台などをけん引して運搬するタイプのAGVです。いくつも連結できる点や違ったタイプの荷台も連結できる点がメリットです。
その他にも、重量物の運搬に特化したものや屋外向けのなどがあります。
AGVの活用事例
実際の活用事例を少しご紹介します。ます、業務用空調機メーカーでの導入例ですが、業務用空調設備は大きくて重く、運搬時の積み下ろし作業は2名以上で実施する必要がありました。作業的にも負担が大きいものでした。AGV導入により当該作業そのものが不要になり、作業員の負担が軽減。人件費削減にもつながっています。また、自動車製造メーカーでは、複雑な形状加工が必要なために長距離の搬送が必要な工程においてAGVを導入。コンベアなどを設置する空きスペースがない環境でしたが、搬送作業を効率化し無人化に成功しました。
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低コストで運用可能なリコーのAGV
リコーの開発したAGVは高精度ガイド方式を採用。床面のテープを光学センサーで検出して高精度で位置情報を把握します。一般的なビニールテープを使って経路設定できるので、コストを抑えて手軽に導入や経路変更できるのが特長です。90度/180度ターンができるので狭い場所での運用も可能。システム連携によって工程の進捗状況に合わせた部品の自動搬送もできるなど、生産現場全体の自動化にも貢献します。
けん引にも対応するモデル「M2」、積載/低床のどちらでも使用可能な「AGV 3000」をラインナップ。いずれも用途や製造現場の状況・要求に応じてカスタマイズ可能で、製造現場の細かな要望に応じた工場内物流の自動化を実現します。
リコーAGV(無人搬送車)の詳細は下記からぜひご確認ください。
≫ AGV(無人搬送車) | リコー
≫ セミナー紹介:AGV(無人搬送車)を活用した構内物流改革~リコーグループの構内物流効率化活動のご紹介~