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A工事、B工事、C工事とは?テナントビルにおける工事区の違いとコスト管理の注意点を解説

オフィス移転や退去、リニューアルに際しては、工事の内容に応じて「A工事」「B工事」「C工事」という区分を契約書の中で見たことがある方もいると思います。これらは、工事の責任者・費用負担者・施工業者の選定方法などが異なり、契約や運用に大きく影響します。各工事区分の定義はビルごとに異なるため、賃貸借契約書・工事区分表・仕上表などの関連資料を事前に確認し、必要に応じて専門家へ相談することが重要です。

総務担当者が施設管理や契約業務を行う際に、これらの区分を正しく理解しておくことは非常に重要です。工事区分の概要、注意点やトラブルを避けるポイントについて詳しく紹介します。オーナーや借主とトラブルを避けるためにも、本記事を読んで各工事区分について理解しましょう。

工事区分(A工事 B工事 C工事)とは?

オフィスや店舗の入居、改装、退去に伴う工事には、異なる工事区分としてA工事・B工事・C工事の3つが存在します。工事区分は、工事の発注者・施工者・費用負担者によって分類され、契約や管理の明確化を目的としています。この区分を理解することで、各工事の担当者が何を担当するのかを明確に把握することができます。

工事区分が存在する理由

A工事・B工事・C工事の工事区分はなぜ存在するのでしょうか。各工事区分の定義はビルごとに異なるため、賃貸借契約書・工事区分表・仕上表などの関連資料の事前確認が重要です。

工事区分を明確に取り決めておかなければ、オーナーとテナントそれぞれ、費用負担や施工会社の選定・発注についてどうすればいいか迷いが生じてしまいます。その結果、トラブルに発展することもあります。特にオフィスなどの工事費用は高額であるため、トラブルも膨らんでしまいます。工事区分は主にトラブル予防のために取り決められているのが一般的です。

A工事 B工事 C工事の違いとは?

それぞれの工事区分について違いをまずは端的に理解しておきましょう。主に4つの項目で分けられます。

A工事 B工事 C工事
施工会社の指定 オーナー オーナー テナント
施工会社への発注 オーナー テナント テナント
工事費用の負担 オーナー テナント テナント
主な対象範囲
(物件により異なる)
施設の共用部、テナント銘板など 建築内装、空調設備、衛生設備、電気工事、セキュリティ(共用部)など 内装仕上げ、間仕切り、家具・備品、電話工事、LAN工事、照明器具、セキュリティ(テナント部)、サインなど

施工会社は誰が指定し、誰が発注し、工事費用は誰が負担し、どこを工事するのかによって分けられています。
工事区分の理解は、入居時の計画・予算管理・退去時の原状回復に直結します。特にB工事は、費用負担が大きく、業者選定の自由がないため、事前の確認と工事区分変更の交渉が不可欠です。

この基本の区分を押さえながら、詳細を見ていきましょう。

A工事

1.A工事について

A工事は建物の構造や共用部分に関わる工事です。建物の所有者(オーナー)が施工会社を選び、工事費用を負担する工事のことを指します。つまり、工事の発注と費用負担はすべてオーナーが行い、工事の対象となる箇所や物の所有権もオーナーにあります。テナントが直接関与することは少ない工事です。

2.A工事の対象範囲

  • 外壁・屋上・内壁
  • エレベーター・階段・通路
  • 共用トイレ
  • 空調設備(共用部)
  • 消防設備(共用部)
  • 給排水設備(共用部)

3.A工事の注意点

専有部に設置済みの設備(空調・照明など)がA工事に含まれる場合、テナントが自由に変更できないことがあります。
工事のスケジュールが事業活動に影響する可能性があるため、事前に把握しておくことが望ましいです。

B工事

1.B工事について

B工事は、建物の所有者(オーナー)が施工会社を選び、工事費用を借主が負担する形で行われる工事のことを指します。多くの場合、工事は借主の要望に応じて行われますが、工事後の所有権は通常、オーナーに帰属します。

2.B工事の対象範囲

  • 空調設備(専有部)(移設・増設)
  • 電気設備(分電盤、照明、配線)
  • 消防設備(専有部)(感知器、スプリンクラーなど)
  • 給排水設備(専有部)
  • 看板設置、排気設備、防水工事など

3.B工事の注意点

業者選定の自由がないため、相見積もりが取れず費用が高額になる傾向があります。
多重請負構造により、見積もり取得や工事手配に時間がかかることがあります。
工事内容の変更・追加が発生した場合、手続きや費用負担の調整が必要です。
原状回復工事も基本的にB工事に該当し、退去時の費用負担が大きくなる可能性があります。


パーティション設置により、天井のエアコンや照明器具の移設が必要になる場合 → B工事
高いキャビネット設置によりスプリンクラーの機能が阻害される → スプリンクラー移設はB工事
OA機器の配線を天井内やOAフロアに通す → B工事

C工事

1.C工事について

C工事は、借主が施工業者の選定から発注、費用の負担まで全てを自ら行います。借主がオーナーの許可を得た上で施工業者に発注し、工事にかかる費用を借主自ら負担する形態の工事です。

2.C工事の対象範囲

  • 専有部分の内装や什器設置など、建物全体に影響を与えない範囲
  • 床・壁・天井の張替え
  • オフィス家具・OA機器の設置
  • LAN配線・電話線・電源の増設
  • 照明器具の取り付け(標準照明を除く)

3.C工事の注意点

工事内容によっては、事前にオーナーや管理会社の承認が必要です。
C工事で導入した設備や内装は、退去時に原状回復が求められることが多いため、将来的なコストも考慮して設計する必要があります。
借主が施工会社を選定できるため、工事業者の選定や価格交渉を行うことが可能な反面、選定や交渉に時間をかけすぎるとスケジュールに遅れが出ることがあるため、注意が必要です。

なぜB工事はテナントが費用を払うのに、オーナーが業者を決めるのか

なぜオーナーが業者を決めるのか(理由)

1. 建物の安全を守るため
空調や電気、防災設備などは、建物全体に関係するので、専門知識がある業者でないと危険です。

2. 資産を守るため
その設備はオーナーの持ち物なので、勝手に触られると困ります。信頼できる業者に任せたいのです。

3. 他のテナントにも影響するから
例えば、配線や排水の工事で他の部屋にトラブルが起きたら、オーナーが責任を取らないといけません。

たとえ話:マンションの共有スペースにあるエアコンを動かす話

あなたがマンションの一室を借りていて、「部屋のレイアウトを変えたいから、天井のエアコンを移動したい」と思ったとします。でもそのエアコンは、マンション全体の設備(オーナーの持ち物)です。勝手に触ると、壊れたり、他の部屋に影響が出たりするかもしれません。
だから、あなたが「エアコンを動かしたい」と思っても、オーナーが「うちの設備だから、うちが信頼してる業者にやらせるよ」と言うのです。でも、「やりたい」と言ったのはあなたなので、費用はあなたが払うことになります。

B工事は「借りてる人の希望 × 持ち主の責任」のバランス

B工事は、テナントの希望で始まるけど、オーナーの資産や建物全体に関わる工事のため、「費用はテナントが払うが、業者はオーナーが決める」というルールになっています。これは、安全・品質・責任のための仕組みとも言えます。

内装工事における工事区分の注意点

各工事区分の費用の確認

内装工事の費用は、規模感だけでなく工事区分にも大きく影響されます。特に、C工事の対象範囲が少なく、B工事の対象範囲が大きい場合、B工事はオーナーが業者を指定するため、費用が増加する可能性が高まります。事前にオーナーに工事区分の確認や、B工事をC工事に代えられないか相談することで、リスクを抑えられます。

責任の所在を明確化する

B工事とC工事については、借主とオーナーのどちらに該当するかで責任の所在が変わります。この責任の所在が曖昧だと、後々トラブルに繋がる可能性があるため、発注前にしっかり確認することが重要です。事前に工事区分表を確認することで、認識の違いによるトラブルを防ぐことができます。

特にB工事はトラブルに繋がりやすい工事となっています。オーナーや借主とのトラブルにならないためにも、オフィス移転やリニューアルは内装工事に限らず、プロジェクト立案時から全体を把握して進めることが重要です。

A工事・B工事・C工事のコスト管理ポイント

A工事(オーナー負担)

コスト管理の観点では直接的な負担は少ないですが、工事の影響(騒音・共用部の使用制限など)により業務に支障が出る可能性があります。
入居前にA工事の予定や履歴を確認し、将来的な改修工事の有無を把握しておくと、業務計画に役立ちます。

B工事(テナント負担+オーナー指定業者)

最もコスト管理が難しい工事区分です。
指定業者による施工のため、相見積もりが取れず、価格交渉が困難です。
多重請負構造により、見積もりが高額になりやすく、工期も長くなる傾向があります。
見えない部分の工事(天井裏、床下など)が多く、仕様や施工レベルが不明瞭なことも。

管理のポイント

契約前にB工事の対象範囲と指定業者の情報を確認。
工事区分表・仕上表・原状回復条件を精査し、将来的な費用を見積もる。
工事内容の変更・追加が発生した場合の手続きと費用負担ルールを明確にしておく。
退去時の原状回復費用の概算を事前に把握し、予算に組み込む。

C工事(テナント負担+自由業者選定)

コストコントロールがしやすい工事区分です。
自由度が高く、業者選定・仕様決定・価格交渉が可能です。
ただし、退去時に原状回復が求められる可能性が高いため、導入時に将来の撤去費用も考慮する必要があります。

管理のポイント

内装や什器の設置は、原状回復の対象になるかを事前に確認。
設計段階で「撤去しやすさ」や「再利用可能性」を意識する。
オーナー承認が必要な工事内容かどうかを事前に確認し、トラブルを防止。

物件選定から退去まで見据えたポイント

工事区分の明確さ

工事区分表・仕上表・賃貸借契約書に明確な記載がある物件を条件に入れながら選びます。
曖昧な区分や、契約書に記載がない物件は、後々トラブルや予期せぬ費用が発生するリスクが高いです。

指定業者の情報開示

B工事の指定業者がどこか、どんな施工実績があるか、見積もりの傾向はどうかを事前に確認します。
大手ゼネコンやデベロッパーが指定されている場合、費用が高額になる傾向があるため、予算に余裕を持たせる必要があります。

原状回復条件の確認

退去時の原状回復範囲・工事内容・費用負担のルールを契約前に確認します。
特に、特殊な内装や設備を導入する予定がある場合は、撤去費用が高額になる可能性があるため、慎重に検討します。

OAフロア・天井設備の扱い

OAフロアや天井内の配線工事がB工事になる場合が多いため、その扱いを事前に確認します。
LAN・電源・電話線の配線計画がある場合は、B工事費用が発生する可能性が高いです。

スケジュールの柔軟性

B工事は見積もり取得や施工までに時間がかかるため、入居スケジュールに余裕を持たせることが重要です。退去の場合はスケジュールが延びた分だけ賃料が上乗せになります。
工期が遅れると、業務開始にも影響が出るため、工事開始までのリードタイムを確認しておきましょう。

B工事の費用を抑えるアイデア

前述のとおり、B工事は対象範囲が大きくなれば、費用が増加する恐れがあります。そこで全体のコストを下げるためにも、B工事の費用を抑えるアイデアをご紹介します。

間仕切りを別の方法に変える

B工事で高額になりがちなのが、各所の間仕切りです。間仕切り工事を減らすことでも費用削減は可能です。とはいえ、間仕切りによってプライバシーを確保したい場合もあるでしょう。その場合は、間仕切り以外の家具・備品に該当する個室ブースや会議ブース、やぐらなどを設置するのもおすすめです。家具・備品なのでC工事に該当するからです。プライバシーをどの程度確保する必要があるのかを見定めて検討しましょう。

オーナーに交渉する

B工事全体の費用負担を減らすには、事前にオーナーに交渉するのもおすすめです。工事区分の調整、範囲の変更によりB工事分の項目をC工事扱いにすることで、テナント側の費用負担を減らすことができるでしょう。

C工事の業者選定の流れ

C工事は、テナントが自由に業者を選定できる工事区分ですが、選定を誤ると、コスト増・工期遅延・品質不良・退去時の原状回復トラブルなど、後々のリスクにつながります。一般的な段取りや、押さえておいた方が良いポイントです。

段取り

要件整理
どんな工事が必要か(内装、什器、配線、設備など)を明確にする
ビル管理規約や工事区分表を確認し、C工事で対応可能な範囲を把握

候補業者のリストアップ
実績、そのビルの工事ルール(搬入時間、騒音制限、申請書類など)に対応可能か

現地調査・ヒアリング
業者に現地を見てもらい、要望を伝えたうえで、提案と見積もりを依頼

見積もり比較・評価
金額だけでなく、仕様・工期・原状回復対応・担当者の対応力などを総合評価

契約・工事申請
ビル管理会社への工事申請書類を業者と連携して提出
工事スケジュールを社内と共有し、業務影響を最小限に

押さえておいた方が良いポイント

「工事申請に必要な書類は業者側で準備してもらえるか」を確認します。総務担当者の負担を減らすことができます。

「追加費用が発生する条件を明記してほしい」と依頼します。予算管理・社内稟議の精度が上がります。

管理ポイント
工事前に社内で「工事内容・工期・影響範囲」を共有します。
工事中は進捗確認・写真記録・トラブル対応の窓口を明確化します。
工事完了後は竣工図・仕様書・保証書などを保管します(退去時の備えです)。

まとめ

本コラムでは、工事区分(A工事 B工事 C工事)の基本や違い、工事区分の注意点などについて幅広く解説しました。オフィスや店舗の入居、改装、退去に伴う工事は様々なケースがあるため、工事区分を事前に確認しておくことが大切です。

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監修者 わたなべ

2005年リコーグループに入社。
15年間、建築設計事務所で意匠設計および設計監理に従事。
美しさと機能性を両立する空間づくりを目指し、企画から監理まで一貫して携わる。
戦略担当として、人財戦略にも取り組んでいる。

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