ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)は、働き方改革やオフィスの話題の中でよく出てきます。しかし、「うちの会社にも合うの?」と、不安や疑問が先に立ちやすいテーマでもあります。特に、働き方改革をテーマに組織の改革を任された担当者の立場では、自分の判断が組織全体に影響しますので重圧も小さくありません。
ABWは働き方と働く場を一緒に整えるための考え方です。形だけ真似すると、「使いにくい」「現場が混乱した」という結果になる可能性があります。
この記事では、ABWの基本的な考え方から、従来の働き方との違い、具体的にできるワークスタイル、メリット・デメリット、向いている企業の特徴までを解説します。
ABWを簡単に言うと「仕事の内容に合わせて、働く場所を選ぶ」という考え方です。重要なのは働き方をうまく回すための設計だという点です。ABWは、企業毎の違いに合わせて、場所(空間)・ルール(運用)・道具(ICT)をセットで整えます。目的を決めて、プロジェクトとして進める必要があるということです。
ABWの意味・定義はシンプルですが、実務で見ると押さえるポイントがいくつかあります。
まずABWは、従業員が活動(アクティビティ)ごとに最適な場所を選べる状態をつくります。例えば、資料作成や分析のような集中作業は静かな席、アイデア出しは議論がしやすい席、1対1の面談は声が漏れにくい場所、Web会議は音と視線に配慮したブース、といった具合です。
したがって、ABWのオフィスには、集中ブース、少人数ミーティング席、立ち話できるハイテーブル、プロジェクトルーム、Web会議用の個室などが用途別に用意されます。
ここでよくある誤解が「席を固定しない=ABW」ですが、それだけだと従業員は「今日はどこで何をすればいいの?」となりがちです。ABWでは、使い方のルール(例:Web会議はブース優先、長時間占有は避ける、予約が必要な席の範囲など)と、支えるICT(Wi-Fi™、電源、モニター、座席予約、在席の見える化など)も一緒に整えます。つまりABWの目的は「席を自由にすること」ではなく、“必要なときに、必要な環境を、迷わず使える”状態を作ることです。
ABWが注目される理由は、働き方が変わって、オフィスの役割が変化しつつある点です。リモートワークやオンライン会議が広がると、オフィスは「毎日全員が同じ席で作業する場所」から、「集まることで価値が出る活動をする場所」にも定義できるのではないでしょうか。
例えば出社する日は、打ち合わせ、共同作業、育成、ちょっとした相談、チームの意思決定などが増えます。すると固定席中心のオフィスだと、会議室が足りない、静かな席がない、動きづらい、音が干渉する、といったミスマッチが起きます。
さらに、採用や定着の面でも「働きやすさ」「従業員体験(使いやすいオフィス)」が重視されるようになり、健康や集中しやすさ、コミュニケーションの取りやすさなどが評価に直結しやすくなっています。
一方で、オフィス面積やコストは簡単に増やせません。だからこそ、限られたスペースを用途別に配り、やりたい仕事がやりやすい環境を作るABWが有力になります。オフィス改革の担当者にとっては、空間だけでなく、運用ルール、ICT、什器調達、移転スケジュールまで含めて、一つのプロジェクトとして組み立てる視点が重要になります。
ABWは席の決め方の話ではなく、仕事の進め方を前提にした考え方です。この章では、固定席オフィス・フリーアドレスとの違いを整理しながら説明します。
固定席オフィスは、従業員一人ひとりに自分の席が割り当てられている働き方です。書類や私物を置きやすく、「いつもの場所」で安心して仕事ができるという良さがあります。一方で、業務内容が変わっても席は変わらないため、集中したい時にうるさい、打ち合わせが増えると会議室が足りない、といった問題が起きやすいです。
ABWでは考え方を変えて、「この仕事はこの場所が向いている」と仕事を基準に場所を選びます。そのため、個人のデスクは最小限にし、用途別のスペースを増やします。固定席が悪いわけではありませんが、働き方が多様化した今は、席を固定する前提そのものが合わなくなるケースがあるという点が大きな違いです。
フリーアドレスは、「その日空いている席を自由に使う」働き方です。固定席がなくなることで、部署を越えた交流が生まれたり、スペースを効率よく使えたりします。ただし、よくある失敗が「席だけ自由で、使い方が決まっていない」状態です。その結果、静かに作業したい人と会話する人が混ざる、Web会議の声が響く、毎日席探しに時間がかかる、といった不満が出ます。
ABWはフリーアドレスを土台にしつつ、用途ごとに場所を分け、使い分けのルールを決める点が大きく違います。つまり、ABWは「自由に座る」ことが目的ではなく、「迷わず仕事に集中できる」ことが目的です。
この章では、ABWオフィスでよく見られる代表的なワークスタイルの例を紹介します。これを知っておくと、「うちの会社なら何が必要か?」を考えやすくなります。
資料作成、分析、企画書づくりなど、静かに一人で集中したい仕事を実施するスペースです。
ABWでは、周囲の音や視線を遮りやすい集中ブースや半個室席を用意します。ポイントは「誰専用」ではなく、「必要なときに使える共有スペース」にすることです。また、「短時間の集中」「長時間の作業」など使い方を想定して、椅子・机・照明を選ぶこともポイントです。
チームミーティング、プロジェクトの打ち合わせ、ちょっとした相談などを実施するスペースです。
ABWオフィスでは、少人数用のミーティング席、立ったまま話せるハイテーブル、ホワイトボード付きのコラボレーションスペースなどを用意します。会議室ほど堅くなく、「すぐ集まって話せる」のが特徴です。これにより、「会議室が空かない」「雑談しづらい」といった不満を減らせる可能性があります。
予約が必要な場所と不要な場所を分ける、Web会議と対面会議の使い分けをルール化する、といった点も運用上のポイントになります。
ソファ席、カフェ風スペース、窓際のカウンター席など、リラックスできるスペースです。
ABWでは短い休憩、気分転換、雑談からのアイデア出しなど、力を抜く時間も仕事の一部と考えます。ここでの注意点は、「サボりに見える場所」にしないことです。目的を「リフレッシュ」「偶発的なコミュニケーション」と明確にし、他の集中エリアと適切にゾーニング*します。こうした空間があることで、「煮詰まったら場所を変える」「部署を越えて自然に話す」といった働き方が生まれやすくなります。
ABWを検討する際に整理しておきたいのが「良い点」と「気をつける点」です。ABWは万能な仕組みではなく、うまく設計・運用できたときに大きな効果が出る働き方です。逆に、メリットだけを信じて進めると、「思っていたのと違う」「現場の不満が増えた」という結果になりかねません。この章では、ABWでよく語られる代表的なポイントを整理します。
ABWの大きなメリットの一つが、生産性の向上です。仕事に合わない環境では、集中力が下がり、時間もムダに使われがちです。ABWでは、集中するときは集中しやすい場所、話すときは話しやすい場所と、環境を切り替えられます。その結果、メリハリをつけた働き方が可能になります。特に、Web会議や短い打ち合わせが多い職場では、環境を分けるだけでストレスが減るケースもあります。
ABWは、「どこで働くか」を従業員が選べるため、働きやすさの実感につながりやすいです。「今日は静かな席がいい」「気分を変えてソファで考えたい」といった小さな選択ができるだけでも、日々の満足度は変わります。また、リラックススペースやコラボレーションエリアがあることで、部署を越えた会話や偶発的なコミュニケーションも生まれやすくなります。こうした積み重ねが、会社への愛着やエンゲージメント向上につながるケースもあります。
ABWでは「全員分の席を常に用意する」前提を見直します。リモートワークや外出がある職場では、実際には使われていない席が多いこともあります。ABWを導入し、利用実態に合わせてスペース配分を見直すことで、ムダな面積を減らしたり、同じ面積でより多様な用途を実現したりできます。結果として、移転時の床面積削減や、レイアウト変更によるコスト抑制につながる可能性があります。
ABWでは席が固定されないため、「誰がどこにいるか分からない」「話しかけるタイミングを逃す」と感じる人もいます。特に、何もルールを決めずに始めると、コミュニケーションが減ったと感じるケースがあります。これを防ぐには、定例ミーティングの場を確保する、在席状況をツールで可視化するなど、設計と運用で補う工夫が必要です。
ABWでの失敗の一例は「場所だけ作って、ルールがない」状態です。Web会議をどこでやるのか、長時間席を占有していいのか、予約が必要な場所はどこか、といったことが決まっていないと、「自由なのに使いづらい」オフィスになります。ABWはルールがあるから自由に動ける働き方だという点を押さえる必要があります。
すべての企業にABWが合うわけではありません。常に同じメンバーで同じ作業をする仕事、紙書類を大量に扱う仕事、高いセキュリティが必要な業務などでは、ABWのメリットが出にくい場合もあります。その場合は、部分的に取り入れる、特定エリアだけABWにする、といった柔軟な考え方が現実的です。大切なのは、「ABWありき」ではなく、自社の働き方に合うかどうかで判断することです。
ABWはメリットのある働き方ですが、万能な方法ではありません。大切なのは、「ABWをやるか・やらないか」ではなく、働き方や業務内容に合うかどうかで考えることです。この章では、ABWが向いている企業の特徴と、導入が難しくなりやすいケースを整理します。
ABWが向いている企業には、いくつか共通点があります。
社内で「働き方を良くしたい」「ムダを減らしたい」という意識があり、ルール作りや説明に時間をかけられる企業は、ABWをうまく回しやすいです。ポイントは、「人が柔軟に動く文化があるかどうか」です。
一方で、ABW導入が難しくなるケースがあります。
この場合は、いきなり全社導入せず、一部エリアだけABWにする、部署ごとに段階導入するといった進め方が現実的です。ABWは白黒ではなく、グレーの調整が大切です。
ABWは派手なデザインでなくても、考え方と段取りがしっかりしていれば十分に機能します。この章では、つまずきやすいポイントを避けるために、導入時に押さえておきたい考え方を整理します。
ABWを成功させるうえで、最も重要なのが運用ルールです。ABWは自由な働き方ですが、実際には「最低限の共通ルール」がないと、使いにくさが生まれます。例えば、Web会議はどのエリアを使うのか、長時間席を占有してよいのか、予約が必要な席はどれか、といった点です。これが決まっていないと、従業員は毎回判断に迷い、結果として使われなくなります。ルール作りのポイントは、細かく縛りすぎないことと、「なぜそのルールがあるのか」を説明することです。ABWは、ルールがあるからこそ自由に動けるという考え方を、最初に共有することが大切です。
ABW導入で意外と軽視されがちなのが、従業員への説明です。従業員にとって重要なのは、「なぜ変わるのか」「自分にとって何が良くなるのか」です。また、使い方を文章だけで説明するより、実際に使ってみる、デモや体験期間を設けるなど、体感してもらう工夫が効果的です。意識改革は一度で終わるものではなく、運用しながら少しずつ進める意識が必要です。
ABWは、空間とICTがかみ合っていないとうまく回りません。どんなに良いレイアウトでも、Wi-Fi™が不安定、電源が足りない、画面共有が面倒、となると使われなくなります。ABWオフィスでは、ノートPCを持ち運びやすい環境、十分な電源、モニター、Web会議用の設備などが前提になります。また、座席予約システムを入れることで、「どこに行けばいいか分からない」状態を減らせます。什器・ICT・内装を別々に考えず、まとめて設計する視点が重要になります。
ABWを導入する際に、特に注意したいのがセキュリティ対策です。
まず重要なのは、業務内容に応じたゾーニングです。機密情報を扱う業務は、周囲から画面が見えにくい席や、入室制限のあるエリアに配置します。逆に、簡単な作業や打ち合わせはオープンなエリアで行うなど、場所の役割をはっきりさせます。また、覗き見防止フィルターの配布や、画面を他人に向けないレイアウトも基本対策です。
次に、ICT面での対策も欠かせません。ノートPCの持ち運びを前提とするABWでは、端末の認証強化、スクリーンロックの徹底、クラウド利用時のアクセス制御などが重要になります。さらに、紙資料の減量やペーパレス化は、置き忘れや持ち出しリスクを下げることも可能です。
安心して場所を選べる環境を用意するためにも、情報システム部門やセキュリティ担当と早い段階から連携し、オフィス設計・運用ルール・ICT対策をセットで考えることが、ABW成功のポイントになります。
ABWは、いきなり全社で完璧に実施しようとすると難しい可能性があります。おすすめなのはスモールスタートです。例えば、一部フロアだけABWにする、特定部署から試す、期間限定でトライアルする、といった進め方です。実際に使ってみると机上では見えなかった課題が見えてきます。これを踏まえて改善してから広げることで、失敗のリスクを大きく下げられます。ABWは完成形を一気に目指すものではなく、育てていく取り組みだと考えると、現実的に進めやすくなります。
ABWを検討しているオフィス改革の担当者にとって参考になるのは「実際に導入した会社はどうだったのか」という情報だと思います。この章では、ABWを実際に導入している企業から、導入背景や効果を見ていきます。
管理本部の移転に伴い、オフィス環境を一新させ、業務に合わせて働く場所を選べるスタイルABWを取り入れました。横浜港の眺望を最大限に生かし、開放感あふれるオフィス空間へリニューアルしたことにより、従業員の意識や働き方が変わり生産性が向上しているようです。
新社屋竣工を機に、オフィスの在り方を改めて定義。黙々と仕事をする従来の職場のイメージを払拭し、イキイキ・ワクワクできる場、新しい価値を共創していく場にしたいと、職場環境を刷新しました。
ABW、フリーアドレスを導入し、部門を超えた交流が活発になり、業務効率も向上しているようです。
本コラムでは、ABWの基本やメリット・デメリット、成功のためのポイントから導入事例まで幅広く解説しました。ABWの導入は、これからより良い職場環境を目指す企業にとって一つの解決策になり得るでしょう。
リコージャパンでは多様化する経営環境に合わせ、デジタルサービスとワークプレイスを組み合わせた「RICOH Smart Huddle」のコンセプトのもと、働き方のリニューアルをサポートし、お客様のご支援をいたします。
“新しい働き方”をお客様と一緒に考えながら、オフィス移転やリニューアルを、計画から理想の働き方が実行されるまで、プロジェクトマネジメントの業務も含めワンストップでご支援いたします。
また、ABWの導入もご支援いたします。弊社の実践事例も紹介できますので、「RICOH Smart Huddle」の詳細は、以下よりご覧ください。
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監修者 わたなべ
2005年リコーグループに入社。
15年間、建築設計事務所で意匠設計および設計監理に従事。
美しさと機能性を両立する空間づくりを目指し、企画から監理まで一貫して携わる。
戦略担当として、人財戦略にも取り組んでいる。
この一冊で、最新の7つのワークスタイルが分かり、お客様の課題を解決に導きます。
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