近年は、人手不足やコスト最適化、働きやすい環境作り、環境負荷の低減など様々な経営課題に直面しています。人材マネジメントや業務効率化などの面でも対策が進められていますが、施設や設備の領域でも対応が求められています。そこで注目を集めているのがファシリティマネジメントです。
今回は、ファシリティマネジメントとは何か、また近年注目されている背景、実施の必要性とメリット、実践方法、実施にあたって生じる課題と解決策をご紹介します。
ファシリティマネジメントの概要と注目されている背景をご紹介します。
ファシリティマネジメントとは、企業などの組織が所有する施設やその内部環境や外部環境を総合的に企画して管理し、活用する経営活動の一つです。
企業は、オフィスはもちろんのこと、工場や店舗、営業所など様々な施設を所有していますが、それらを最大限に活用して、管理コストを効率化しながら環境を整え、生産性向上はもちろんのこと、事業成長を目指す必要があります。
そのために必要なのが、戦略的に企画・管理・活用するマネジメント活動です。
企業がファシリティマネジメントを進める際には、大きく施設と環境の2つの方面からマネジメントを行うことになります。
施設:オフィス、工場、店舗、その他の施設
環境:施設内の執務環境、周辺環境、ネットワーク環境など
ファシリティマネジメントは、1970年代後半に米国で生まれたとされ、日本では1980年代に浸透したと言われています。
近年になりファシリティマネジメントが注目されている背景として、次の点が挙げられます。
日本を含む多くの先進国では、高度経済成長期から高成長・拡大局面にかけて、経済成長や市場拡大を背景に、建物が老朽化すれば解体して建て替える「スクラップ&ビルド型」の考え方が一般的でした。
しかし、経済が成熟し成長が鈍化するなかで、老朽化した建物が大量に残り、建て替えにかかるコストや環境負荷が大きな課題となった現在では、スクラップ&ビルド型の考え方は持続可能とは言えません。そのため、建物を長期的な経営資源として捉え、計画的に活用・維持していくファシリティマネジメントの重要性が高まっています。
近年は人手不足や物価高騰などを背景に、コスト最適化は避けられなくなってきています。一般的にコスト最適化といえば、コストの大部分を占める人件費を削ることが注目されますが、人手不足を背景として、他のアプローチ方法が必要になりました。そこで施設運営費の効率化と最適化に注目が集まっています。
高度経済成長期であった1960年から1970年代にかけて、日本では多くの建物やインフラが建設されました。それから約50~60年が経過した現在においては、多くの建物の老朽化が進んでいます。近年では、長期運用が基本となっているため、修繕して維持していき、建物の寿命を延ばすという考え方が定着しています。このことから日頃のメンテナンスなどのファシリティマネジメントが重要な取り組みとなっています。
国内では働き方改革が推進され、多様な人材が共に働く環境作りが求められています。そのようななか、オフィス環境の整備を通じて、働きやすい環境作りが必要になっています。働く環境は、従業員が持つ企業や仕事へのエンゲージメント(愛着・忠誠心)を大きく左右し、離職率低下にもつながることから重要視されています。
建物の省エネルギーへの対応は避けて通れなくなってきています。断熱性能の高い建物や高い効率を備える空調設備の設置、建物全体のエネルギーを効率化する取り組みは、企業の責任として社会的な要請も高まっています。こうした背景から、ファシリティマネジメントを通じた省エネ対応が重要視されています。
近年、相次いでいる大震災などの大規模災害に備えることも日常的に進めていく必要があります。また、実際に被害を受けた建物の復旧にもファシリティマネジメントが採用されています。建物の安全性の確保という観点による取り組みが重要視されています。
企業がファシリティマネジメントを行うことのメリットには次の点があります。具体的な施策と共に見ていきましょう。
ファシリティマネジメントが注目される理由の一つが、施設関連コストの最適化です。
しかし、その目的は単なるコスト削減ではありません。ファシリティを経営資源として戦略的に管理することで、コストを抑えつつ、生産性や従業員満足度、企業価値の向上を実現します。
ファシリティマネジメントでコスト最適化を進めるには、メンテナンス・保守や設備運営コストの最適化、エネルギー管理、スペースの有効活用などが挙げられます。
例えば、設備や機器システムのメンテナンスを行うことで、長期的に見た運営コストを最適化できます。またエネルギーコストについては省エネルギー機器を導入するなどして最適化できます。
スペースについては、最小限のスペースを有効活用するために、オフィス内に多目的な空間設計を実施したり、執務エリアに、すぐミーティングが始められるスペースを設けたりすることが挙げられます。
このようにファシリティマネジメントではコスト最適化の取り組みを総合的に進めることができます。
ファシリティマネジメントを適切に実施することで、生産性向上が見込めます。
例えば、オフィスの家具や設備を快適なものに刷新したり、日々メンテナンスを重ねて不具合や故障を未然に予防し、業務に支障がないようにしたり、照明や空調などを最適化したりすることによって、働きやすい環境作りが可能です。その結果、従業員が働きやすく、満足度高く働くことができ、モチベーションが上がります。エンゲージメントが向上し、さらに生産性向上へ寄与するでしょう。
またフリーアドレスなどを採用し、フレキシブルに働ける環境作りは働き方改革を促進し、生産性向上と共に離職率低下などにもつながります。
建物としての施設は、経年劣化により資産価値は低下していきます。近年の長期運用の考え方を受け、施設のメンテナンスを重ねることで、資産価値の低下を抑制することができます。
ファシリティマネジメントは、様々なリスクに対応する取り組みですが、老朽化等の長期的なリスクだけでなく、地震や津波、台風、事件事故など緊急時に生じるリスクにも対応する必要があります。
そうした緊急時のリスクに備えるために重要なのがBCP(事業継続計画:Business Continuity Plan)対策としての取り組みです。例えば、災害が起きたときに事業を継続するための取り組みが欠かせません。
施設におけるBCP対策としては、地震への耐久性向上やスプリンクラー等の設置とメンテナンス、混乱時のセキュリティ保持のための入退室システム、停電に備える非常時電源の導入、帰宅困難者の受け入れのための準備などがあります。
これらの活動を実施しておくことで、非常時も早期に復旧でき、事業継続が実現できます。
ファシリティマネジメントは、適切に実施することで、環境貢献も可能です。近年は投資家からの要請もあり、CSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)のみならず、地球環境に視野を拡大し、企業の責任を果たしていく必要があります。例えば省エネルギーとCO2排出量削減対策は、ファシリティマネジメントにおいて重要な分野です。
具体的な省エネ手法としては、省エネ設備の導入や省エネ診断の実施、設備の運用改善、温熱環境の改善、専門家とのアライアンス、BEMS(ビル・エネルギー管理システム:Building and Energy Management System)の活用などが挙げられます。
ファシリティマネジメントを実践する際に基本となる手法を解説します。
ファシリティマネジメントには、次の3つのレベルがあると言われています。この3つのレベルを通じて活動を行っていくことで、総合的にファシリティマネジメントを行うことができます。
経営レベルにおいては、ファシリティマネジメントの戦略や計画を立案します。すべてのファシリティマネジメントの対象となる施設や環境の最適なあり方を定めます。
企業の理念やビジョン、経営戦略に紐付け、長期的な視点で戦略を立案することが重要です。
管理レベルとは、ファシリティマネジメントの業務を管理するレベルです。日々の業務を効率化し、またコスト最適化を実現しながら、いかに経営レベルで定めた経営戦略を最適な形で運用していくかが問われます。
具体的には、予算内で具体的にどのような業務を行うか、また事業者の選定やコミュニケーションなどの実行を担います。また一つひとつの施策に対して成果を測り、経営戦略の目的を達成するためのマネジメントが求められます。
実際に日常業務として清掃や保全、修繕、サービス等を行う実務レベルです。実務レベルにおいても、経営戦略に基づきブレのない活動が求められます。経営レベルと管理レベルで定めた戦略や方針に基づき、合理化及び計画化、定量化を目指して行います。
ファシリティマネジメントの成果を出すには、経営レベル、管理レベル、日常業務レベルの活動すべてを統括するマネジメント機能が欠かせません。
各レベルの取り組みがバラバラになるリスクは常に付きまとっているため、それらを統合的に管理する視点が必要になります。経営戦略に基づき管理と実務が行われているかを確認し、現場レベルの問題が生じたときにフィードバックし、改善を重ねていくことで、全体最適化を実現します。
ファシリティマネジメントの業務サイクルは、PDCAサイクルが標準とされています。
まずは経営レベルにおける戦略計画を行います。
その後プロジェクトとして具体化し、体制作りと実行部隊の構築の後、ファシリティマネジメントを社内に導入し、プロジェクト管理と運営維持を行います。
その後、評価のフェーズに入ります。指標を設定し、それぞれ達成できているかのチェックを行い、未達成の場合、どのような改善策が有効であるかなどを検討します。
評価の結果を受けて、改善の方針を立案し、改善施策を実施していきます。このとき、プランの戦略計画のフェーズに戻り、見直しを図ります。
このPDCAサイクルは、統括マネジメントがコントロールしながら進めていきます。
ファシリティマネジメントでよく直面する課題と解決策をご紹介します。
生産性向上や働きやすい環境づくりの観点から行う具体策の一つとして、オフィスレイアウトやICT環境の見直しがあります。しかし、オフィスづくりの知見やノウハウに乏しく、ファシリティマネジメントとしての設計や構築方法がわからないといった課題に直面しがちです。
例えば、リモートワークとオフィス出社を兼ねるハイブリッドワークに最適なオフィス環境を作りたい場合には、オフィスは貴重な社内コミュニケーションの場所となります。そのため、リモートワークの従業員が出社したときに効率的に業務とミーティングを行えるよう、執務エリアにミーティングスペースを設けるなどの手法があります。
リコージャパンでは、「RICOH Smart Huddle」というコンセプトのもと、オフィスとワークスタイルのデザイン・設計をご支援しており、その取り組みの一環として様々な提案例をご案内しています。
いつでもどこでもスマートフォンで座席予約が可能なシステムや、混雑状況を可視化するセンシングシステムを組み合わせて設置すれば、リモート先からの予約や在席状況の確認が可能になり、効率的に働く場所を選択することができます。
また移動の手間なく、すぐにミーティングを始められるスペース活用もご提案しています。近年は井戸端会議のような立ちスタイルのミーティングやWeb会議が一般化していることから、リアルはもちろん、オンラインも含めたコラボレーションを促進する設備やスペースも備えます。
例えば、可動式の縦型ディスプレイにリモート先のメンバーを等身大で映すことで、臨場感のある会議を実現します。
オフィスや施設全体を通じてセキュリティを強化することは、働きやすい安全な環境を作ると同時に、災害時に資産と従業員を守るための対策としても欠かせません。しかしセキュリティ強化といってもあらゆる箇所の強化が必要になるため、優先順位がわからないという課題もあります。
オフィスのセキュリティの基本的な考え方として、まずオフィスで発生する主なリスクの種類を踏まえておくことが重要です。大きく、人的リスクと物的リスクと情報リスクの3つに分かれます。
人的リスク:社内外の人物(従業員、来客者、部外者など)の動線や行動に関わるリスクを指します。不審者や部外者が容易に侵入できないようにする仕組みや、リスクを早期に発見する仕組みが求められます。例えば入退室管理システムや認証システムの導入、監視カメラの設置などが挙げられます。
物的リスク:金銭的な価値のあるものを守るためのセキュリティです。現金やデジタル機器のほか、従業員の私物などが挙げられます。
これらを守るには、そもそもオフィスに侵入できない入退室管理や認証システムなどはもちろんのこと、金庫やパーティション、間仕切りの導入などが求められます。重要書類を盗まれるリスクに対してはシュレッダーの導入が必要です。
また人的リスクや物的リスクについては、オフィスレイアウト全体を設計する際に、セキュリティレベルごとに空間を分けるゾーニング*も必要不可欠です。
情報リスク:情報資産は近年、膨大に増え続けており、世界につながるインターネットとの接続で常にリスクがあります。
対策としては、社内の情報を守る防火壁であるファイアウォールや暗号化技術の導入、アクセス制御の仕組み、定常業務と機密情報を取り扱うネットワークの分離、仮想プライベートネットワークのVPN採用、社内の役職や部門ごとのアクセス権限付与などの導入が考えられます。
近年はサイバー攻撃が多発していることから、隙を作らないネットワーク環境作りが重要です。
施設関係のコストは一つ一つが大きいことから、放置していると大きな損失につながってしまいます。また無駄が生じていることもあります。コストが増大していることはわかっているものの、最適化の策がわからないといったケースもあります。
施設関係のコストの具体的なものとして、賃借費や減価償却費、水道光熱費、清掃費、維持保全費、税金・保険料、施設や設備の修繕費などが挙げられます。
これらのコストを最適化するには、個別に対応する必要がありますが、スペースやエネルギーの無駄をなくすという考え方は有効です。
スペースについては、現在の働き方に応じて従業員がより効率的に働けるよう、見直すことが有効です。例えば、ハイブリッドワークを採用している場合、オフィスを利用する従業員が少ないと、スペースの無駄になってしまいます。フリーアドレス制にする、座席予約システムを導入するなどして、オフィススペースを最大限に活用する工夫が求められるでしょう。
また、同じスペースを業務によって使い分けることも一案です。可動式のデスクやチェア、ソファ、テーブルなどを備えておけば、それらを移動させ、集中して業務を行う環境にしたり、ミーティングスペースにしたり、プレゼンを行える環境にしたりと臨機応変に変更できます。
ファシリティマネジメントを実施する際に、管理者は法令に基づく規制に対して適切な対応を行い、遵守する必要があります。しかし関係法は、都市計画法や建築基準法、消防法、建築物衛生法、労働安全衛生法、省エネ法や廃棄物処理法など、幅広いことから、すべてに対応することに課題があります。
また、これらの関係法の改正に伴う規制やルールの変更に常に敏感になっておく必要もあります。自社のコンプライアンスに関わることから、重要な取り組みです。
この課題を解決するには、まずファシリティマネジメントの管理者の教育と研修を継続することが欠かせません。また、最新情報を常に察知するためにも、専門家とのつながりを持ち、適切な対応を積極的に進める体制作りがポイントになるでしょう。
ファシリティマネジメントは、近年の経営課題の複雑さや深刻さを背景に重要性が増しています。適切に実施することで、多様なメリットを得られることから、課題を解決しながら進めていきましょう。
リコージャパンでは多様化する経営環境に合わせ、デジタルサービスとワークプレイスを組み合わせた「RICOH Smart Huddle」のコンセプトのもと、働き方のリニューアルをサポートし、お客様をご支援いたします。
“新しい働き方”をお客様と一緒に考えながら、オフィス移転やリニューアルを、計画から理想の働き方が実行されるまで、ワンストップでご支援いたします。
また、ファシリティマネジメントを行う際のオフィスレイアウトやゾーニングなどもご支援可能です。弊社の実践事例もご紹介できますので、「RICOH Smart Huddle」の詳細は、以下よりご覧ください。
この一冊で、最新の7つのワークスタイルが分かり、お客様の課題を解決に導きます。
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