製造業における品質管理は、企業の競争力と持続可能な成長を支える重要な基盤です。顧客満足度の向上、コスト削減、そしてブランド価値の維持向上において、効果的な品質管理システムの構築は欠かすことができません。特に近年では、デジタル技術の進歩により、より精密で効率的な品質管理が可能となっており、その重要性はますます高まっています。
本記事では、品質管理について品質保証との違いや、仕事内容について解説していきます。
品質管理(QC)とは
品質管理とは、製品やサービスが、顧客の要求や期待を満たし、一定の品質基準を満たしていることを保証するための活動です。より具体的には、製品の設計、製造、販売の各段階において、品質の確保と改善を図るための様々な手法やシステムを指します。
品質管理の考え方
品質管理の本質は、製品やサービスの品質を維持・向上させることで顧客満足度を高め、企業の持続的な成長を実現することです。
この実現には、問題の未然防止と発生時の迅速な対応という二つの側面が重要です。製造工程全体を通じて、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)というPDCAサイクルを継続的に回すことで、品質の安定化と向上を図ります。
また、全社的な品質管理文化の醸成も不可欠で、現場の作業者から経営層まで、品質に対する高い意識を持ち、データに基づく意思決定と改善活動を日常的に実践することが求められます。
5Sとの違いについては以下の記事よりご確認ください。
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品質管理の目的
品質管理の主たる目的は、顧客に信頼される製品やサービスを安定的に提供することです。具体的には、製品の不良率低減によるコスト削減、市場での信頼性向上、そして顧客満足度の向上を通じて、企業の競争力強化と持続的な成長を実現することを目指しています。
また、品質管理を通じて生産プロセスを最適化することで、資源の効率的な活用や環境負荷の低減にも貢献します。さらに、従業員の品質意識を高め、継続的な改善活動を促進することで、組織全体の能力向上にもつながります。
品質管理と品質保証(QA)の違い
品質管理(QC)と品質保証(QA)は、品質に関する重要な概念でありながら、役割と焦点は異なります。
品質管理は主に製造プロセスにおける具体的な活動に重点を置き、製品やサービスの品質基準への適合を確認し、不適合品の発生を防ぐための日常的な監視や測定、是正活動を行います。
一方、品質保証は品質管理を包含したより広範な概念で、品質システム全体の設計と運用に焦点を当てています。これには品質方針の策定、品質マネジメントシステムの構築、文書化された手順の確立など、組織全体での品質確保の仕組みづくりが含まれます。
また、品質保証は顧客に対して製品やサービスの品質に関する信頼を提供することを目的としており、第三者認証の取得なども重要な要素です。
品質管理の手法
品質管理の主要な手法として、統計的品質管理(SQC)、QC七つ道具、シックスシグマなどが広く活用されています。統計的品質管理では、管理図やヒストグラムなどを用いてデータを分析し、プロセスの安定性や品質のばらつきを評価します。
QC七つ道具は、特性要因図(魚骨図)、パレート図、チェックシート、ヒストグラム、散布図、管理図、グラフといった基本的なツールを用いて問題解決を進めます。
またシックスシグマは、統計的手法を用いてプロセスのばらつきを極小化し、不良率を100万個あたり3.4個以下に抑えることを目指す手法です。近年では、IoT(Inernet of Things)やAIを活用したリアルタイムモニタリングや予知保全など、デジタル技術を活用した新しい品質管理手法も導入されています。
これらの手法を目的に応じて適切に組み合わせることで、効果的な品質管理を実現することができます。
製造業における品質管理の仕事内容
製造業における品質管理は、製品がお客様の期待に応え、高い品質を維持するために欠かせない業務です。具体的には、以下の様な仕事内容が挙げられます。
品質計画の策定
品質計画の策定は、新製品の開発初期段階から品質を作り込むための重要な活動です。具体的には、顧客要求や市場動向を分析して製品の品質目標を設定し、その目標を達成するために必要な品質特性や管理項目を明確化します。
その上で、設計段階での品質検証方法、製造工程での品質管理基準、検査方法、不適合品への対応手順など、製品のライフサイクル全体を通じた品質確保の方策を計画します。同時に、必要な設備、人員、教育訓練、品質コストなども考慮に入れ、実行可能で効果的な品質保証体制を構築します。
品質基準の設定
品質基準の設定は、製品の品質を定量的かつ客観的に評価するための具体的な判断基準を定める重要な業務です。この作業では、製品の要求仕様に基づいて、寸法精度、機械的性能、耐久性、外観品質などの項目ごとに、合格と不合格を区分する明確な基準値や許容範囲を設定します。
この際、顧客要求、法規制、業界標準、技術的制約、製造能力などを総合的に考慮し、実現可能かつ市場競争力のある基準値を決定します。さらに、これらの基準を製造現場で実践可能な形に落とし込み、検査方法や判定基準として文書化します。
工程管理
工程管理は、製造プロセス全体を通じて製品品質を維持・向上させるための監視と改善活動です。具体的には、各工程での品質パラメータを定期的に測定・記録し、管理図などの統計的手法を用いて品質のばらつきや異常を検出します。問題が発見された場合には、特性要因図などの分析ツールを活用して根本原因を特定し、即座に是正処置を実施します。
また、類似問題の再発を防ぐため、作業標準の見直しや作業者への教育訓練など、予防的な改善活動も行います。これらの活動を通じて、安定した品質の製品を継続的に生産することを目指します。
検査の実施
検査の実施は、製品が定められた品質基準に適合しているかを客観的に評価・判定する重要な業務です。この作業では、材料受け入れ時の検査、製造工程での中間検査、最終製品の出荷検査など、各段階で定められた検査項目に従って測定や試験を行います。
具体的には、寸法測定、性能試験、外観検査などを実施し、その結果を記録・分析して品質基準との適合性を判断します。不適合品が発見された場合には、速やかに関係部門に通知し、適切な処置を講じるとともに、原因究明と再発防止策の検討にも着手します。
データ分析
データ分析は、品質管理活動で得られた各種データを統計的手法で分析し、品質の傾向や潜在的な問題を把握する重要な業務です。検査データ、工程パラメータ、不具合情報などを体系的に収集・整理し、統計ソフトウェアなどを用いて分析を行います。
具体的には、ヒストグラムによる分布の確認、管理図による工程の安定性評価、パレート図による重要課題の特定などを実施します。これらの分析結果から品質のばらつきや異常の予兆を早期に発見し、予防的な改善活動につなげることで、品質レベルの向上を図ります。
不良品対策
不良品対策は、品質問題が発生した際の体系的な問題解決活動です。不良品が発見された場合、まず問題の影響範囲を特定し、必要に応じて生産ラインの停止や出荷製品の回収などの緊急措置を講じます。
次に、特性要因図やFTA(故障の木解析)などの分析ツールを用いて根本原因を究明します。原因が特定されたら、製造条件の見直し、作業手順の改定、設備の改善、作業者教育の強化など、具体的な是正措置を実施します。
さらに、類似の品質問題が発生しないよう、予防的な対策を全社的に展開し、品質管理システムの改善にも反映させます。
顧客クレーム対応
顧客クレーム対応は、顧客満足度の維持・向上と品質改善のための重要な活動です。クレームを受けた際は、まず顧客の声に真摯に耳を傾け、問題の状況を詳細に把握します。その上で、社内関係部門と連携して問題の原因を徹底的に調査・分析し、適切な対策を立案します。顧客に対しては、調査結果と改善策を丁寧に説明し、誠意を持って対応します。
また、個別の対応にとどまらず、クレーム情報を全社で共有・分析し、製品設計や製造プロセスの改善、品質管理体制の強化につなげることで、同様の問題の再発防止を図ります。
品質改善活動の推進
品質改善活動の推進は、組織全体で取り組む継続的な品質向上のための体系的な活動です。具体的には、品質データの分析、現場観察、従業員からの改善提案などを通じて、品質に関する潜在的な問題点や改善の機会を特定します。これらの課題に対して、QCサークル活動や改善活動などを通じて、現場主導での改善案を検討・実施します。
また、改善活動の効果を定量的に測定・評価し、成功事例を他部門にも水平展開することで、組織全体の品質レベルの底上げを図ります。これらの活動を通じて、品質マネジメントシステムの継続的な改善を実現します。
品質に関する教育・指導
品質に関する教育・指導は、組織全体の品質意識と品質管理能力を向上させるための重要な取り組みです。具体的には、品質管理の基本概念や手法、品質基準、検査方法、不適合品への対応手順などについて、従業員の役割や経験に応じた体系的な教育プログラムを実施します。
また、QC七つ道具などの品質管理ツールの活用方法や、実際の品質問題事例を用いた実践的なトレーニングも行います。さらに、日常的な業務指導を通じて、品質管理の重要性への理解を深め、品質第一の企業文化の醸成を図ります。
品質マネジメントシステムの構築・運用
品質マネジメントシステムの構築・運用は、組織全体の品質保証活動を体系化し、継続的な改善を実現するための基盤づくりです。ISO9001などの国際規格に基づき、品質方針の策定、品質目標の設定、業務プロセスの標準化、文書体系の整備、内部監査の実施など、組織的な品質管理の仕組みを確立します。
システムの運用では、PDCAサイクルに基づく定期的なレビューと改善を行い、システムの有効性を確保します。また、外部審査機関による認証取得・維持を通じて、品質マネジメントシステムの信頼性と客観性を担保します。
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効率的に品質管理を行うためのポイント
製造業における品質管理は、製品の品質を確保し、顧客満足度を高める上で非常に重要な役割を果たします。しかし、多くの工程やデータが存在するため、効率的な運用が求められます。
効率的な品質管理を行うためのポイントをいくつかご紹介します。
品質目標を明確化して共有する
品質目標の明確化と共有は、組織全体で一貫した品質活動を展開するための基礎です。具体的な数値目標や達成期限を設定し、それらを全従業員が理解・共有することで、各部門や個人が何をすべきかを明確に認識できます。
また、定期的な進捗確認と結果のフィードバックを通じて、目標達成に向けた活動を効果的に推進することができます。
品質管理システムを構築する
品質管理システムの構築は、品質活動を組織的かつ効率的に実施するための仕組みづくりです。製品の設計から製造、検査、出荷までの各プロセスにおける管理基準や手順を標準化し、それらを文書化して運用します。
また、品質データの収集・分析の仕組みや、問題発生時の対応手順なども整備し、PDCAサイクルに基づく継続的な改善を可能にします。
品質管理に関わる人材を育成する
品質管理に関わる人材の育成は、効果的な品質管理活動の実現に不可欠です。品質管理の基礎知識や統計的手法、問題解決技法などについて、階層別・職能別の教育訓練プログラムを実施します。
また、実践的な課題解決を通じた OJT や、QC サークル活動などを通じて、現場での品質管理能力の向上を図ります。
最新技術を活用する
品質管理の効率化には、最新技術の導入が役立ちます。製品や部品に取り付けられたRFIDタグにより、製造工程での各段階の情報や使用部品の履歴を正確に記録し、不良品の発生源をすばやく特定することが可能です。
さらに、IoT(Inernet of Things)センサーやAIなどの最新技術を組み合わせることで、製造環境のリアルタイムモニタリングや品質データの分析が可能となり、予防的な品質管理も実現できます。これらのデジタル技術を統合的に活用することで、人的ミスの削減と品質管理プロセスの自動化が進み、より高精度で効率的な品質保証体制を構築できるのです。
品質に関する法規制へ対応する
品質に関する法規制への対応は、企業の社会的責任を果たし、持続的な事業運営を確保するために重要です。製品安全規制、環境規制、業界基準などの最新動向を常に把握し、それらに適合した品質管理体制を整備します。
また、法規制の改正に対して迅速に対応できる体制を構築し、コンプライアンスリスクの低減を図ります。
品質管理について詳しく知りたい方は以下の記事よりご確認ください。
関連記事:製造業における品質管理とは?内容や課題・成功させるためのポイントを解説
まとめ
品質管理は、企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠な経営基盤です。製品やサービスの品質を維持・向上させるためには、明確な品質目標の設定、効果的な品質管理システムの構築、継続的な人材育成、最新技術の活用、そして法規制への適切な対応が重要です。
特に近年では、デジタル技術の進歩により、より精密で効率的な品質管理が可能となっています。品質管理は単なる検査や不良品対策にとどまらず、組織全体で取り組む継続的な改善活動として位置づけられます。全従業員が品質に対する高い意識を持ち、PDCAサイクルを着実に回していくことで、顧客満足度の向上とブランド価値の向上を実現し、企業の持続的な成長につながるのです。
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