
近年、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する中で、RFID技術が果たす役割がますます重要になっています。特に、HF帯(13.56 MHz)を活用したRFIDシステムは、その高い精度と環境耐性により、さまざまな業界で導入が進んでいます。
本記事では、HF帯RFIDの特徴や活用事例について詳しく解説するとともに、リコーが支援した導入事例を紹介します。製造現場や入退室管理、キャッシュレス決済など、多様な分野での活用を通じて、DX推進にどのように貢献できるのかを探ります。
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HF帯とは
HF帯は13.56 MHzの周波数を使用するRFIDシステムです。この帯域は、以下のような特徴があります。
交信距離: HF帯は数cmから1m程度の範囲で交信が可能です。これにより、近距離での正確なデータ読み取りが求められるアプリケーションに適しています。
耐環境性: HF帯は水分による影響を受けにくいという性質持っています。そのため、水を含む物質の存在する環境でも安定した通信が可能です。
HF帯におけるRFIDの種類: HF帯には様々な種類のRFIDがあります。
HF帯導入事例
HF帯での主な導入事例としては、以下のような事例があります。
社員証での入退室管理(ISO/IEC14443)
多くの企業で、社員証としてHF帯ICカードを採用しています。出勤時間と退勤時間を取得することによる労務管理、およびセキュリティ区画への入室制限をかけるためなどに利用しています。
社員食堂での自動精算(ISO/IEC14443)
食事費用精算の効率化とキャッシュレスを実現するためにHF帯RFIDシステムが使用されています。皿に取り付けたタグにより何を食べたか、社員証により誰が食べたかを特定し、給与天引き精算を実現しています。スープ等水分の多い食品がタグに近接しても読取ることができるためISO/IEC14443が多く採用されています。また、社員個人の喫食記録を分析して健康増進に役立てている事例もあります。
図書館の蔵書管理(ISO/IEC15693)
蔵書管理の効率化を図るためにHF帯RFIDシステムが導入されてiます。複数の蔵書を返却する時に一括で読み取ることで蔵書の返却作業効率化を狙い、交信距離の比較的長いISO/IEC15693が採用されています。 各書籍にRFIDタグを取り付け、貸出・返却時に自動でデータを読み取ることで、工数削減につながります。
交通機関の乗車券システム(FeliCa®)
乗車券としてHF帯RFIDが採用されています。FeliCa®はソニーが独自に開発した規格ですが、ISO/IEC14443規格同様、高セキュリティと高速交信を可能とし、乗客は改札機にカードをかざすだけで乗車でき、スムーズな乗降を実現しています。
リコーがお手伝いした導入事例
上記では、HF帯RFIDシステムの一般的な導入事例を紹介しましたが、ここからは、リコーのお客様にてHF帯RFIDシステム(ISO/IEC15693)を導入した事例をご紹介します。今回ご紹介するのは、製造業のプレス加工現場で採用された事例です。
(導入前の課題)
プレス加工現場で作業者が作業着手完了の時間と場所を作業日報で手書き記入していました。その手書きで記入した60名分の日報を原価管理課で翌日半日かけて入力しおり、何か記入間違いや差異を見つけると作業現場に問い合わして修正し、その後実績としてデータを入力するといった状況でした。そのため、多くの工数が発生すると共に、各部署にて「誰が」「何を」「何時間」作業したかを確認できるのは、早くて翌日、遅いと翌週となってしまい、本来実施したい作業分析が即時にできませんでした。
(導入後の効果)
課題解決として、HF帯RFIDシステムにより作業の着手完了データを自動的に収集できる仕組みの導入を決定しました。プレス加工設備ごとに設置されたRFIDポストにRFタグを差し込んだら作業着手、抜き取ったら作業完了といった運用とし、従来手書きで日報に記録していた作業着手時間や完了時間をRFIDポストで自動的に記録する仕組みを実現しました。実現にあたっては、複数のタグを一括で読み取る必要があったためISO/IEC15693を採用しました。
HF帯RFIDシステム導入後は、プレス加工すると同時に、作業実績が自動的にリアルタイムにデータとして実績計上され、すぐに分析改善に活かされます。これまで半日かかった入力作業や間違い調整といった作業がなくなり、リアルタイムな情報として正確な作業実績情報を収集ことがでるようになりました。
(HF帯導入の工夫・ポイント)
本事例のプレス加工現場でのHF帯導入にあたり、リコーではこれまで培ってきた様々なRFIDに関する工夫やノウハウを活かしました。以下に、その一部を紹介します。
HF帯は13.56MHzの周波数帯を使用する技術であり、電磁誘導方式によってタグとアンテナの間で交信します。電磁誘導とは、まずアンテナのコイルに電流を流すと磁界が発生し、その磁界にタグのコイルが通過すると、誘導電流が流れ、タグのICが起動します。このような原理でアンテナとタグは交信しています。
この電磁誘導方式の特性をよく理解してHF帯RFIDシステムを導入することが必要です。今回の事例では、複数枚読み取りを実現するために交信距離の長いISO/IEC15693を採用しましたが、交信距離が長いため、読み取りなくない場所に置いてあるタグを読みすぎる現象が発生することが予想されました。
(1)アンテナ同士の影響による読みすぎ
アンテナ同士が近い場合、磁界が隣のアンテナのループを貫通し、例えばアンテナAで読み取ったはずのタグがアンテナBで読み取られたという結果となってしまうことがあります。この現象を防ぐためには、十分な距離を取ってアンテナ同士を設置する必要があります。また、アンテナ間の磁界を遮蔽することにより、本現象を防ぐこともできます。
(2)金属フレームによる読みすぎ
アンテナに金属が近づくと、磁界が発生して金属フレームがアンテナのような機能を持ってしまい、アンテナから遠く離れた読み取り不要なタグを読み取ってしまうことがあります。例えば、HF帯のアンテナを金属フレームに取り付けてしまうと、アンテナから発する磁界が金属フレームに影響を与え、金属フレームがアンテナのような機能を持ってしまい、アンテナから遠く離れた、読み取りたくないRFタグを読み取ってしまうことがあります。この現象を防ぐためには、設置環境から金属を十分離す等の対策が必要になります。
お客様からは、作業実績を入力するために複数のアンテナを配置するRFIDアンテナポストを作成し、金属製プレス機のすぐそばに設置したいという要望がありました。この場合、RFIDポストを作成する際には、複数のアンテナの磁界が別のアンテナループを貫通しない距離まで離して配置するポストレイアウトにしました。また、RFIDポストの設置場所については、プレス機とアンテナの距離を十分に確保し、プレス機の金属の影響を排除することで安定した稼働を実現しました。
リコーのRFIDのご紹介
RFIDの導入は、製造現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるための重要なステップです。今後の課題としては、データのさらなる分析と活用を通じて、製造工程全体の最適化を図る必要があります。また、現場から得られるリアルタイムデータを活用することで、製造現場の柔軟性や応答性を高める可能性も秘めています。
リコーのRECO-View RFタグをはじめとするRFID技術は、製造現場の進化に向けた有効な手段であり、DX実現の重要な基盤となるでしょう。今後も、技術的進化とともに製造業の未来を切り拓くソリューションの一つとして期待されます。
リコーではRFIDを活用して生産現場の様々な課題解決を支援する「RFIDソリューション」を提供しています。リコーRFID ソリューションでは、自動認識技術「RFID」を利用し、業務の見える化・作業効率アップ・デジタルトランスフォーメーションにより、さらなる生産性向上に貢献します。RFID の導入は300事業所を超える現場に導入実績があるリコーにお任せください。
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まとめ
製造業におけるRFIDシステムの導入は、正確な実績データをリアルタイムに取得できることなど多くのメリットをもたらします。これにより、製造業務全体の効率が向上し、コスト削減や品質向上に役立ちます。
是非、皆様の製造現場での課題解決の参考にして頂ければと思います。